7月21日

時代が生んだ渡辺プロの異分子 “チャクラ” 1980年はデビューの当たり年? 

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チャクラ / CHAKRA


1980年はデビューアーティストの当たり年?


1980年は“デビューの当たり年”じゃないかな。いや、デビューアーティストの数で言うと翌81年や82年のほうがずっと多いらしいのですが、80年には、後にビッグになったり、大きな影響を与えることになる重要アーティストが集中している印象があります。私にとって気になるアーティストが多いだけかもしれませんが。

このコラムでも既に取り上げた、“バグルス(The Buggles)”、“ニュー・ミュージック(New Musik)”、佐野元春、山下久美子はいずれも80年デビューですし、他には“U2”、シーナ・イーストン(Sheena Easton)、“シャネルズ(ラッツ&スター)”、EPO、“ハウンド・ドッグ”、村下孝蔵らがいて、ここで取り上げることはたぶんないであろうけど、松田聖子、柏原芳恵、河合奈保子、岩崎良美、田原俊彦、近藤真彦といったアイドル群や “アイアン・メイデン(Iron Maiden)”、“デフ・レパード(Def Leppard)” のハードロック勢、とまさに百花繚乱の様相を呈しています。

やはり新たなディケイドのスタートという気分が反映されるのでしょうかね。とは言え、今年、2020年も20年代のスタートなのですが、どうなんでしょう。相変わらずデビューの数は多いようですが、これというアーティストいます?もちろん新型コロナという “天災” はありますが、80年の盛況ぶりと比べると寂しいかぎりです。

ニューウェイブバンド “チャクラ” 板倉文や小川美潮が在籍


さて、そんな当たり年に、数字(売上)的には当たらなかった “チャクラ” というバンドもデビューしました。ギタリスト+アレンジャー+プロデューサーの板倉文とシンガー小川美潮が在籍したニューウェイブ+テクノバンドですが、まさにこの日本のニューウェイブ系も、“ヒカシュー” が79年、“ジューシィ・フルーツ” と “ビジネス” が80年、とこの頃に集中してデビューしているのです。

前回のビリー・ジョエルで、アートとエンタテインメントのバランスについてお話ししましたが、チャクラはちょっとアートが勝ち過ぎていました。ざっくり言うと、そういうアーティストはすぐには理解されない、あるいは勘違いで買う人も少ないので、数字がいかない一方、少ないながらも熱狂的な支持者はいて、時を経てある程度の再評価を得ていく、というパターンが多いと思います。

チャクラも、フルアルバム2枚とミニアルバム1枚を残したのみで83年には解散しましたが、なんと今年2020年になって、チリ(!)の熱心なファンが自らレーベルを立ち上げ、昔のライブ音源をCD化(『アンリリースド・ライヴ・レコーディングス 1981-1983』)するというニュースがありました。

マネージメントは渡辺プロ、スタートした「NON STOP」セクション


そんなバンドなのに(「なのに」という接続詞は微妙ですが、少なくとも「だから」ではない)、マネージメントは渡辺プロでした。レコード会社はビクター。60年代から長年歌謡曲の世界を牛耳っていたタレント帝国も、78年のキャンディーズ解散をひとつの象徴として、それまでの勢いに翳りが見えてきます。ユーミン、拓郎、陽水など、自作自演の音楽を求める人が急増していたんですね。渡辺プロもそういう音楽にも対応していかねばならないと、立ち上げたのが「NON STOP」というセクション。獲得した新人が山下久美子であり、このチャクラでした。

チャクラはヤマハ主催のアマチュアバンドコンテスト『EastWest』の78年の回に出場し、その評判を渋谷のヤマハ(当時音楽業界のひとつの拠点でした)に出入りしていた渡辺音楽出版のSさんが聞きつけ、渡辺プロに引っ張ってきたのです。

そしてその渡辺プロに78年に入社していたのが私です。チャクラの音は魅力的で、私はぜひ関わらせてほしいと手を挙げましたが、既に山下久美子のチームに志願してアシスタントディレクターの任についており、好きなことばかりはさせられないと却下されました(結局2作目の『さてこそ』(1981)から担当になるのですが…)。

なんと「8時だョ!全員集合」にも出演


さて、新しい音楽への対応は必要だったし、渡辺プロは “ザ・芸能界” に凝り固まっているわけではなく、柔軟な感性の人が多かったのですが、山下久美子はともかく、チャクラはちょっと飛躍しすぎだったように思います。ニューウェイブロックの売り方も知らなかったし、テレビに出ないロックバンドをマネージメントしたこともなかった。タレントに月給を支払い、丸抱えするのが渡辺プロの原則でしたが、チャクラの全メンバーにも給料を与え、まだやたら高価だったシンセサイザーなどの楽器も要望のままに買い与えていたようです。仕事はライブハウスくらいしかないのですから、それで回るわけがありません。

バンドの “顔” である小川美潮(当時21歳)のキュートなルックスとひょーきんなキャラで、勘違いしたのかもしれません。なんと『8時だョ!全員集合』(渡辺プロ制作)に出演させ、彼女が合唱隊や体操をやったりもしたのでした。もちろんそれはチャクラの音楽の売上には何の効果もありませんでした。

結局、アルバム2枚、期間にして約2年間でチャクラは渡辺プロとは契約解消となりました。売上は数千枚というところだったと思います。下り坂となりつつあったとは言え、最大のプロダクションだった渡辺プロと、メジャーレコード会社ビクターの力を持ってしても成功させることはできなかった。ひょっとしたら、渡辺プロの衰退を少し加速させることになったかもしれません。音楽ビジネスはパワーゲームではないということですね。

だけど、バンドにとってはよかったんじゃないでしょうか。アルバム2枚、ちゃんとお金をかけて、しかも自由に(渡辺プロは妙なプレッシャーは与えませんでした)創ることができたのですから。

目新しいサウンドの陰で… 実はメロディが素晴らしい!


すっかり後回しになってしまいましたが、デビューアルバム『CHAKRA』、充実した内容です。前述のSさんがディレクターとなって、矢野誠さんをプロデューサーに起用。そのせいもあって、小川美潮はよく矢野顕子さんの亜流的捉え方をされましたが、私は(その後何度も “歌入れ” に立ち会ったこともあり)、美潮は歌がすごくうまいと思いますし、日本女性シンガーの中でも特別に好きです。矢野さんの歌も好きですが。

サウンドはそれまでのライブで練ってきた形をほぼ活かしているんじゃないかな。板倉文が中心となって、アヴァンギャルドとポップをうまく両立させていると思います。

そのニューウェイブ+テクノという、当時まだ目新しかったサウンド(あるいはそのレッテル)の陰で目立たないかもしれませんが、実はチャクラはメロディが素晴らしいのです。と言うか、ほとんどの曲を作曲している板倉が創るメロディがいいのですが、西洋ポップス、日本民謡、沖縄、インドなど様々な要素を踏まえた多彩な表情の裏側に、優しさ、郷愁、哀しみ…いや、言葉では言えないような “成分” が潜んでいるような気がします。聴いているうちに、心の底に、その成分が澱のように溜まっているのを感じるのです。

すべての人が同じように感じるわけではないでしょうが、その成分は、どんなに時を経ても、場所が違っても、弱まることなく生き続けるようです。

そして、約40年経って、地球の裏側チリに住む人にも届きました。


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また、本文にあります「ザ・バグルス」「ニュー・ミュージック」「佐野元春」「山下久美子」「ビリー・ジョエル」については、
■ ザ・バグルス「プラスチックの中の未来」MTV時代の到来を象徴する傑作
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2020.09.25
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カタリベ
1954年生まれ
福岡智彦
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