福山雅治やサザンオールスターズなどが所属する大手芸能事務所アミューズ。中学1年生のとき、小さなアパートの1室にあったアミューズを訪ね、ささやかなお手伝いをしたことがある。
1980年夏、近所にあった野外スタジアム、田園コロシアムでサザンがコンサートをすることになった。サザンオールスターズ応援団という彼らのファンクラブに入会していた4歳上の姉は、別ルートで良席チケットを入手したため、代わりに私が、姉の名義で応援団からチケットを買うことにした。チケット代を送る期日がぎりぎりだったため、アミューズ内にある応援団に電話したところ、「代金を直接持って来てください」とのこと。私はチケット代を手に、一緒にコンサートに行く約束をした友人と代官山のアミューズを訪ねた。
のちにオシャレな街代表みたいになる代官山だが、その頃は閑静な住宅街。迷いながら、なんとかたどり着いたアミューズは、蔦のからまる小さなアパートの1室だった。チケット代金を渡した後、事務所のお姉さんはこんな風に声をかけてくれた。
「会報誌の発送作業をしているの。よかったら、手伝わない?」
そこで私たちは、雑然とした事務所のかたすみに座り、会報誌を折り畳んで封筒に入れる作業を手伝った。「ここにサザンのメンバーは来るんですか?」「桑田さんってどんな人なんですか?」とか、質問すればいいものを、緊張のあまり黙々と折り畳むだけの私たち。でも、スタッフが和気藹々で居心地は悪くない。サークル部室のような事務所に、気のいい大学生みたいなサザンの印象が重なった。
肝心のコンサートは、ジューシィ・フルーツやスペクトラムがオープニングアクトを務めたのは覚えているのだが、メインのサザンはさっぱり記憶にない。「勝手にシンドバッド」は盛り上がったなぁと思っていたのだが、ネットでこのときのセットリストを調べたら、なんとこの曲はなかった。
その後もサザンはヒットを連発して国民的な人気バンドとなり、アミューズは東証一部上場にまで上り詰め、日本の芸能界に強大な影響力を持つ事務所となった。今は、蔦のからまるアパートではなく、無機質にそびえたつ渋谷インフォスタワーの中に事務所があるらしい。あのときのサークル部室のような雰囲気は、まだ残っているのだろうか。
※2016年7月11日に掲載された記事をアップデート
2019.07.19
YouTube / サザンオールスターズ
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