7月21日

大貫妙子「romantique」いい音楽は必ず売れる、少しずつでも売れ続ける

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大貫妙子 / romantique

引退も考えた日々… 大貫妙子の復活アルバム「romantique」


シュガー・ベイブ解散後、1976年にアルバム『Grey Skies』でソロデビューした大貫妙子。さらに『SUNSHOWER』(1977)、『MIGNONNE』(1978)とアルバムリリースを重ねたところで、2年間の空白が訪れます。思ったように売れず、どのような音楽を創っていけばいいのか、本当に音楽を仕事にしていっていいのか、悩んでしまったようです。

やはり、とっつきやすい音楽じゃなかったんでしょうね。今のように多様な価値観が並立する時代じゃなく、「歌謡曲とフォーク、以上。」でしたからよけいに。

歌詞は分かりやすい恋愛モノじゃないし、メロディにも独特のクセがある。料理で言えば、とんかつとかカレーライスとかじゃなくて、フランス料理みたいに、「オマール海老のコンソメゼリー寄せ」とかみたいに、気取ってる、カッコつけてるふうに思われてしまうタイプ。好きな人には特別なご馳走なんですが。

歌唱も、他の歌い手たちと比べると地味め。声も細いし、声量もあまりないように思います。だからボーッと聞いていると、風のように素通りしてしまう。

実は魅力的な歌声です。地声でもファルセットでもない、と言うかその両方合わさったような唱法で、なめらかなんだけどちょっと張るとモチッとした弾力が快い、独特の質感。特にビブラートが少ないところが私は大好きです。ビブラート多い人はピッチの甘さをごまかしているのだ。少ない人こそほんとに上手い歌手なのです。

でも、じっくり聴かない人はそんなところに気づきません。そして世の中の大半の人はじっくり聴かないのです。彼女は悩みました。そんな彼女に「次を創ろう」と声を掛けたのが、牧村憲一さんです。『MIGNONNE』で「ディレクター」とクレジットされている牧村さんですが、今度は自らプロデュースを買って出ました。「『ラジオのように』のブリジット・フォンテーヌのような音楽をやろう」と。

よかったですね、大貫さん。そして私たちも。こういう人がいたから今この音楽を聴くことができる。

YMOや加藤和彦も参加、牧村憲一パワーで集まった超多忙ミュージシャン


牧村さんは、加藤和彦とか山下達郎とか細野晴臣とか坂本龍一とか、“あの界隈” の、なんと言うか、フィクサー的存在ですから、このアルバムの制作布陣も今から見れば豪華そのものです。10曲中6曲を坂本龍一が、残り4曲を加藤和彦が編曲。前者では主に YMO ファミリー、後者は主にムーンライダーズの面々が演奏を務めました。

当時、YMO は人気のピークで、ワールドツアーから凱旋し、1980年2月1日にライブアルバム『パブリック・プレッシャー / 公的抑圧』をリリース、3月から国内ツアー、6月には企画アルバム『増殖』をリリース、と怒涛の活躍中。それだけでもたいへんなのに、前回取り上げた高橋幸宏『音楽殺人』が6月、坂本龍一ソロアルバム『B-2ユニット』は9月にリリースされる。さらに9月には加藤和彦のアルバム『うたかたのオペラ』もリリースされ、そこに YMO の3人もしっかり参加しているのです。

そんな中でのこのアルバムのレコーディング。もし私が坂本龍一なら「このスケジュールで、できるわけないでしょっ!」と一蹴するでしょうね。大貫さんだから、牧村さんだから、引き受けてくれたんでしょうね。現場はみんなクタクタだったろうし、ひょっとしたらイライラして怒号が飛び交っていたかもしれませんが、本作のサウンドはしっかりヨーロッパ的に、堂々として落ち着き払っています。「さすが」の一言です。

名作は死なない。今や世界の大貫妙子


今ならこのミュージシャンラインナップだけでも “買い” だと思いますが、さて当時はどれくらい売れたのでしょう? 大貫さんご本人が「当時このアルバムが予想を超えて支持されたことによって、私は自分の居場所を見つけることができたのです」と語っているところを見ると、それまでよりはよかったのでしょうが、オリコンチャートにはランクインしていないようです。

このアルバムから歌唱法を変え、簡単に言うと大人っぽく歌っているのですが、それによりそれまでの元気さ、前述の “弾力” が抑えられて、個人的には歌がより地味になったと感じます。バックに対する歌のレベルもやや小さ過ぎると私は思う。それはヒットポテンシャル的には「やや弱い」と言わざるをえません。もしかしたら1曲目&シングルの「CARNAVAL」の YMO っぽさが、売り上げを引き上げてくれただけかもしれません。

くりかえしになりますが、世の中の大半の人はじっくり聴かないので、いい音楽がすぐに売れるとは限りません。いやむしろ、いい音楽はすぐに売れないことのほうが多いかもしれません。だけど、時を経れば必ず売れる。少しずつでも売れ続ける。このアルバムもそんなひとつでしょう。何度も何度も再発されて、今では海外から、アナログレコードを求めて日本にやってくる人も多いみたいですね。

だから、若いミュージシャンたちにも、今売れることはどうでもいいから、心からやりたい音楽をひたすら追求していってほしいな。答えは後からついてくるはず。どんな答えかは知らないけどね!

2020.07.27
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カタリベ
1954年生まれ
福岡智彦
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