40年前から竹内まりやが描いていた “あざとい” 女たち
ここのところ “あざとい” という言葉をよく耳にする。意味を調べると、“小利口” だの “抜け目がない” だの、大体がネガティブな響きだ。“あざとい” を冠したテレビ番組もあるし、“あざとかわいい” という造語もある(「あざといけどかわいい」って何だ?)。女性に対して使われることが多いような… あざとさというものを肯定する流れになっているのだろうか。
「ハァ? 何言ってんの今さら? 遅いわよ!」
私は、竹内まりや先生がこうおっしゃっているような幻聴がして止まないのだ。
彼女がこれまで女性歌手に提供してきた数多くの楽曲は、その内容も話題を呼んできた。その代表格が河合奈保子の「けんかをやめて」といってもいいだろう。2人の男を両天秤にかけた結果けんかが始まるという、アイドルが歌う曲としてはそれまでにはなかったシチュエーションだった。この主人公こそ、今で言う “あざとい” 女なのではないかしら? と私は思うわけです。
しかし、竹内まりやはあざとい女をもう一人描いていたのだ。それが彼女が河合奈保子に提供した次のシングル「Invitation」。それでは歌詞をひもといて、分析していこう。
シングル「Invitation」河合奈保子が歌ったもう一人のあざとい女
歌詞の内容は、彼氏の部屋に初めて招かれた主人公が、かなり警戒しながらいろいろと観察するというもの(注・私の解釈です)。
ペナントだらけの
あなたの部屋に
こうして訪れる時が
来ると思ってた
ペナント! 21世紀の今、ほぼ絶滅したペナントは、1982年当時、観光地の土産物店に、フツーに売られていたものだ。おそらく今はみうらじゅん先生くらいしかお持ちでないだろう。「ペナントだらけ」ということは、旅行などが趣味の、比較的健全な男子と推察される。
招いた人はまだ 私だけだと
はにかむようなまなざしで
打ち明けられた
なんと! 箱根やら日光やらのペナントをベッタベタに貼った部屋に女を呼ぶのは初めてだと…?
といった具合で、非常にウブい男子なのである。しかし、女のほうが一枚上手。
秘密のベールに 包まれた素顔
のぞけるようなそんな気がして
胸がふるえてしまうの
河合奈保子の曲にはやはり、歌詞に “胸” が頻出するように思える。それはさておき、ペナント男子がはにかんでいる間に、女はこいつを観察してやろうとワクワクし始めるのだ。だけど――
鍵をしめないで お願いだから
大人びて見えるあなたが
少しこわいの
かなりの警戒ぶりではある。後半部分になると、無口になってしまったり、キスさえさせないように仕向けたりしている主人公が描かれているのだが、
若さにまかせて 先急ぐ恋は
ときめいている心までも
すぐにさらってゆくから
結局のところ、なぜこの主人公がペナント男子の家に行ったのか? それは彼が、隙あらば女を押し倒すような男かどうかを見極めるためではないだろうか。つまり、自分を大切に思ってくれる人かどうか。でも、それだったら別に彼氏の家に行かなくてもいいんじゃね?
結ばれるその日を 夢に見ながら
お似合いの恋人になる 約束するわ
彼女にもその気はあるのだ。満々なのだ。だけど今はダメよ、と、ひたすらペナントを観察しているわけですね(いや、そんなことはひと言も言っていないのだが…)。
彼氏の人間性の見極めとともに、そのときのための下見も兼ねていたのでは… と、オバハンは推測する次第である。
この内容をスイートでスローなメロディに乗せて、河合奈保子の澄んだ声で聴けば、「ああ… そうだよね… わかる気がする…」と誰もが思うような、秀逸な楽曲である。
今さら言うまでもない? 女はみんなあざといもの
“あざとい” という言葉を前面に出そうとしている現在の傾向を思うと、この楽曲や「けんかをやめて」だって十分あざとい女たちを描いたものではないかと思う。だって、結局は思わせぶりな態度で2人の男を試していたわけだし。
40年近く前だと言葉の解釈もずいぶん違うけれど、女性にもこういう側面があるということを、竹内まりやはさらっと描いている。いいも悪いもない、そういう特性だということ。
もしこれが男女逆だったら、男は “あざとい” とは言われないだろうな。やたら女の部屋に行きたがる男は何だか怖いし、二股なんて最悪。そこに「(女を)試す」という感覚はないように思えるけれど。
まあ、耳年増のオバちゃんが妄想と邪推でここまで引っ張ってきましたが、とどのつまり、女性はかなり計算高い生き物だし、それを “あざとい” だなんて、ネガティブにとらえるのはどうよ? ってことです。それを40年も前に、女性の目線でしっかり描いた竹内まりやの功績をたたえたい。
それにしても、この21世紀、ペナントがびっしり貼られている部屋に遊びに行ったら、別の意味で興奮しそうな私です。だって、Re:minder世代ですもの。
2021.03.20