2023年 7月12日

アイドルから大人のシンガーへ!歌手 河合奈保子の成長は売野雅勇の歌詞があってこそ

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河合奈保子のアルバム「河合奈保子 MASAO URINO WORKS〜売野雅勇作品集〜」発売日
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売野雅勇が中森明菜「少女A」で書いた危なげなフレーズ


売野雅勇という作詞家の名前を初めて知ったのは、1982年5月1日にデビューしたアイドル歌手、青葉久美の「恋はティニィ・ウィニィ」。「ティニィ・ウィニィ」という、聞き慣れないけど妙に語感の良い言葉と、途中に出てくる「シュワ シュワ シュワ〜」「ワン・ツー・スリー・クイック!」というフレーズがとても印象的な明るい曲だった。

その翌月にリリースされた伊藤銀次の「まっ赤なビキニのサンタクロース」でも「作詞:売野雅勇」という文字を見つけて、「アイドルからアーティストまで幅広く書かれる方なんだなぁ」と思っていたところに出てきたのが中森明菜の「少女A」である。

「あなためがけてティニィ・ウィニイ シュワ シュワ シュワ〜」という歌詞を書いていた方が、まさか「上目遣いに唇濡らし きっかけぐらいはこっちで作ってあげる」なんて危なげなフレーズを書くとは! どんだけ振り幅デカいねん! と思ったものである。その後も中森明菜の「1/2の神話」や桑田靖子の「脱・プラトニック」など、センセーショナルな歌詞を書く人、というイメージが私の中に根付いた(その後も加藤香子「偽名」や高橋利奈「16歳の儀式」など、いわゆるバージンブレイクを匂わせるセンセーショナルな曲が多いのも事実だが)。

河合奈保子最大のヒット曲、「エスカレーション」


そんな売野氏が河合奈保子に初めて歌詞を書いたのが1983年6月1日リリースの「エスカレーション」である。それまでの「素直で明るい女の子」という彼女のキャラクターとは違う、海岸で彼氏にセクシャルかつ強気なアプローチをかけるという大胆な歌詞は、デビュー当時から奈保子ファンだった私の心を大いに惑わせたのである。奈保子とエロティック… 全く間逆な世界。「大丈夫か、奈保子?」という不安な気持ちと、それでも「大胆過ぎるビキニ」を想像してしまった邪な気持ち。

この曲については制作サイドからの注文は特になかったらしく、売野氏が勝手に刺激的な歌詞を書いたそうだが、イメージチェンジは見事に大成功。キャッチーなサウンドも相まって、「エスカレーション」は河合奈保子最大のヒット曲となるのである。



「UNバランス」ではさらに挑発的なフレーズを連発


その次にリリースされたシングル「UNバランス」では――

 熱がある胸元よ シャツ越しに伝わるはず
 唇で鎮めて あなた
 おとなしい子じゃいられないほど 
 あなたが好きよ

など、さらに挑発的なフレーズを連発。前作がヒットしたとはいえ、「売野さん、いったい奈保子をどうするつもり?」なんて少し不安に思ったこともあった。



しかし同時期にリリースされたアルバム『ハーフ・シャドウ』に収録されている「マーマレード・イヴニング」「12月のオペラグラス」には刺激的なフレーズはなく、小田裕一郎作曲によるアダルティなサウンドに乗せて切ない女性の心を表現。20歳になったばかりの奈保子を大人の世界に導いてくれた。

その後も1984年8月にリリースされたシングル「唇のプライバシー」では――

 好きじゃない人を愛したことも
 あるけれど ただ口が硬いだけ

など、したたかかつ大胆な女性像を表現しながらも、同じ年にリリースされたアルバム『さよなら物語』ではヨーロッパを舞台にした別れのシーンをドラマティックに描いているし、翌年にリリースされたアルバム『スターダスト・ガーデン』では幻想的な雰囲気の歌詞が並び、とても神秘的な仕上がりになっている。

センセーショナルな作品では奈保子のパワフルなヴォーカルが映えるし、情緒的な作品では奈保子の繊細な表現力が冴え渡る。売野氏は誰もが「明るく元気でかわいい」というイメージで見ていた奈保子の魅力を思い切り広げてくれたのだ。そして1985年6月12日にリリースされた「デビュー〜Fly Me To Love」では、初のオリコンシングルチャート1位獲得に導いてくれた。奈保子の歌手としての成長はまさに売野氏とともにあったと思う。



売野氏自身がセレクトした作品で構成「河合奈保子 MASAO URINO WORKS〜売野雅勇作品集〜」


その後、売野氏は奈保子が自身で作曲するようになったアルバム3作(『Scarlet』『JAPAN as waterscapes』『Members Only』)でトータルプロデューサーとして携わっており、シンガー・ソングライターとして活動する奈保子の作風に少なからず影響を与えていると思われる。

さて、それだけ売野氏が奈保子に歌詞を提供しているのにも関わらず、巷で奈保子作品について取り上げられることがあまりないのはどういうことか?と以前から感じていたのだが、このたび『河合奈保子 MASAO URINO WORKS〜売野雅勇作品集〜』がリリースされるという。

前出の「エスカレーション」「デビュー ~Fly Me To Love」などのシングル曲はもちろんのこと、シングルB面やアルバムへの提供曲も含めた、売野氏自身がセレクトした作品で構成される上に、売野氏による制作当時のエピソードも含む全収録曲の解説が掲載されるブックレットまで付くのである。

私は以前から奈保子の音楽作品についてまだまだ評価が足りないと思っているが、特に売野雅勇作品については、他の歌手に提供された作品に比べると、その存在があまり知られていない気がするのだ。今回リリースされる作品集をできるだけたくさんの人に聴いてみてほしい。河合奈保子という歌手がどれだけ表現力豊かで魅力的だったか、そして彼女にとって作詞家・売野雅勇という存在がとても大きかったということがわかるはずだ。

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2023.07.10
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カタリベ
1966年生まれ
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