音楽的な視野を拡げながら熟成、サザンオールスターズ「ステレオ太陽族」
主題歌「Big Star Blues(ビッグスターの悲劇)」、挿入歌「栞のテーマ」など映画『モーニング・ムーンは粗雑に』(監督:渡辺正憲 / 1981年6月21日公開)で使用された数曲を含むサザンオールスターズの4thアルバム『ステレオ太陽族』。
横浜を舞台に、若い男女が初めて知り合って別れるまでの1日を描く青春フィルム。音楽監督は桑田佳祐。サウンドトラックの仕事と本作アルバムの制作期間が重なっていたことも無縁ではないだろう。
『ステレオ太陽族』は過去3枚のアルバムと比較すると音楽的な視野を拡げながら熟成していったサザンの音楽アプローチが随所で発見できる。
ズラリと並ぶ洗練かつアダルトなロックナンバー
当時のLP帯のコピーは、
―― よりシンプルに、よりパワフルに「絶好調」の4作目。
今ならアルバム帯にはこんなコピーを踊らせたい。
―― サザンのシティポップ’81夏。
初期のやんちゃなイメージは少し影を潜め、洗練かつアダルトなロックナンバーが誇らしげにズラリと並んだ。
・のちにドラマ『ふぞろいの林檎たち』でも効果的に使われるサザンお得意のギターリフを利かせた歌謡ロックの王道「My Foreplay Music」。
・サザン初期バラードのなかでも人気が高く『バラッド’77~’82』ではラストを飾ることになる「素顔で踊らせて」。
・サザン・ロック / ソウル色の濃いけだるい夏を癒やす「夜風のオン・ザ・ビーチ」。
・先述の劇中では高樹澪が歌った切ないバラード「恋の女のストーリー」。
・表題曲にして1分半に満たない意表を付くアクセント「ステレオ太陽族」。
・ビートルズの「僕が泣く」を横目にベースの関口和之の作詞・作曲・ヴォーカルによるフォーキーな「ムクが泣く」。
・淡々と情景描写するミディアム・テンポなバラード「朝方ムーンライト」。
・半年前の悲劇ジョン・レノンへの追悼をメンフィス・ソウルっぽい肌触りで魅せる「Big Star Blues(ビッグスターの悲劇)」。
・そしてロマンティックな3連ロッカバラードの名曲にしてサザンの傑作のひとつ「栞のテーマ」。
ね、どうしてそんなに泣けるの? 40年経っても解けない魔法のひとつ。ここまで9曲がサザンオールスターズ自らのアレンジだ。
本格的な全体アレンジを施した八木正生
映画音楽作家としても知られるジャズピアニストの八木正生が前作『タイニイ・バブルス』(1980年)では主にホーンやストリングスアレンジで手腕を振るったが、本作『ステレオ太陽族』では本格的な全体アレンジを施していることが本作の “成熟” を強調しているようだ。
・LPのB面1曲だった英語詞曲「ラッパとおじさん(Dear M・Y’s Boogie)」の「M・Y」がMasao Yagiその人で、ブルース・ジャムなアレンジが秀逸。
・ディキシーランド・ジャズをブレンドさせたオープニング曲「Hello My Love」。
・映画『ブルース・ブラザーズ』(日本公開:1981年3月28日)のキャブ・キャロウェイ「ミニー・ザ・ムーチャー」よろしく、ビッグバンドジャズ・サウンドを着せた「我らパープー仲間」。
・独特なリズムで奇妙な浮遊感を演出した「Let’s Take a Chance」。
この4曲のサウンドアプローチはメンバーの八木正生への信頼度の高さも伺える。
桑田佳祐の非凡な歌声、6週連続でアルバムチャート1位!
そして、全13曲で過去3枚のアルバムを凌駕してしまうほどの表情豊かな歌唱を誇示した桑田佳祐。
非凡な歌声は’81年夏の主役となり6週連続でアルバムチャートの1位を独走。これがデビュー4年目にして初めてシングルヒットに頼ることのないバンドへのリスナーからの評価だった。
『ステレオ太陽族』の音楽的、商業的な大成功をさらなる飛躍の足がかりとして、サザンオールスターズの6人の轍は自らを “丸裸” にした青春アルバム『NUDE MAN』(1982年)へと繋がっていくことになる。
2021.07.21