7月21日

アンニュイな夏、茅ヶ崎の夏 — 湘南の裏側を映した「ステレオ太陽族」

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数年前の盆休み、ぼくはサザンオールスターズの聖地である茅ヶ崎を初めて訪れた。

町も同様に盆休みでヒト気がなく、おまけに酷暑で、潮の薫りだけ残した灼熱の路地をただただ歩いて過ごしたのだが、ひとつ発見したこともある。そういうアンニュイな茅ヶ崎の夏に合うのは『ステレオ太陽族』(1981年)。道中浴びるようにサザンを聴いたところ、本作との相性が抜群だった。

捉えようによっては王道で、また通好みでもあるアルバムだ。前者の根拠は、サザンの国民性の最要因がバラッドだとすれば、その宝庫だから。反対に後者の根拠は、全体を通してここまでティーンエイジポップと距離を置くサザンは稀だからである。


■湘南の “裏側” を映したアルバム

1988年に TOKYO-FM で放送された山下達郎と桑田佳祐の特別対談の中で「世間が憧れる湘南は、もともと都会人の幻影」という興味深い話題があった。桑田は次のように発言している。

「俺なんかの時代って、海が廃れちゃってどうしようもない時期だったんですよ。平山みきのナンバーとか聴いてて邪道だと思ったもん。“これは湘南じゃねぇ” って。もうちょっと暗いね、世知辛い… ザ・ピーナッツとか、ラテンの匂いがするじゃないですか? 水っぽい、レキントギターの音がしたり… あれが湘南というか、うちの近所のものだと思ってた」

なるほどなぁ、である。

桑田は、加山雄三や加瀬邦彦にはじまる爽快な湘南音楽の作家系譜に数えられる一方で「夏をあきらめて」「女流詩人の哀歌」「よどみ萎え、枯れて舞え」「欲しくて欲しくてたまらない」など、ジメジメして陰鬱ですらある夏描写・男女描写の曲も頻繁に書いてきた。どうやらその原点に、地元の廃れた光景があるようだ。

延いては、ぼくが散策した日の茅ヶ崎は(廃れたとまで言うと失礼だけど)かなり似た雰囲気で、BGM に『ステレオ太陽族』がピッタリだったのだから… つまり、本作は桑田が抱く湘南像に最も接近したアルバムではないか? と思うのである。


■ジャズマン八木正生の影響力

2枚目のアルバム『10ナンバーズ・からっと』(1979年)までのサウンドは、中音域がボテッと詰まったガレージテイストが特徴だった。3枚目『タイニイ・バブルス』(1980年)では、メインストリーム進出を象徴づけるポップテイストが加味された。そして4枚目『ステレオ太陽族』ではなんと、意表を突くジャズテイスト。リズムセクションの定位感が拡がり、それまで “部室の活気” だったアンサンブルが曲調とも相まってオトナっぽく、時にアンニュイに響くようになった。

キーマンは、八木正生である。国内ジャズの第一人者であり、映画・テレビ・広告の音楽でも足跡を遺した作編曲家だ。彼は、20歳以上若く異分野の新人バンドだったサザンが相手でも、含蓄あるジャズ談義を交えながら親身になって編曲に取り組んでみせたという。B面冒頭の「ラッパとおじさん(Dear M・Y's Boogie)」はそんな彼への感謝が示された曲だろう。クレジットに八木正生の名があるのは全13曲中4曲のみだが、他の収録曲も大半がどことなくジャジー。彼らの良好な関係がいかに創作に反映したかが窺い知れる。

ついでに言うと “エロティシズムの深化” という点でも、本作はターニングポイントだと思う。「女呼んでブギ」(1978年)の頃よりも明らかにド変態ぶりが増している。作詞に関しては昔も今もバッキングトラックの後に完成させるのが桑田流で、しばしば編曲によって世界観が左右されるとのことだから、結果的に、青学のヤンチャな男子が “エロティカ・セブン” へと変身するきっかけをつくったのも八木正生だった… というのが勝手な私見だ。


■2曲のジョン・レノン・トリビュート

本作には、もうひとつコンセプチュアルな側面がある。発表前年12月のジョン・レノン逝去を受け、終盤には桑田佳祐と関口和之それぞれによるトリビュートナンバーが収録されているのだ。

ムクちゃんこと関口の「ムクが泣く」は、ビートルズ「ぼくが泣く(I'll Cry Instead)」を自身の愛称でもじったユルい曲名。歌詞は失恋歌の類としても解釈できるものだが、同じくジョンのレパートリー「悲しみはぶっとばせ(You've Got To Hide Your Love Away)」と「ノルウェーの森(Norwegian Wood -This Bird Has Flown-)」をかけ合わせたような作風であることに気づくと、単なるダジャレだけのつもりでなかった当時の彼の心境が初々しい歌声から透けてみえる。

一方、桑田が書いたのは古典的な R&B調の「Big Star Blues(ビッグスターの悲劇)」。ビッグスター= “大物気取り” の滑稽さがグルーヴィーに歌われていく曲で、バグルス「ラジオ・スターの悲劇(Video Killed The Radio Star)」をもじった副題がジョンの惨劇を匂わせ、さらに4番の歌詞には凶弾を放った加害者の名まで出てくる。

何故シニカルな作風になったのか。察するに、実際の桑田は関口以上に喪失感をおぼえていて、まだこの時点ではビートルズマナーの作風を持ち出したり、哀悼の意を歌詞に表すことができなかったのだろう(約3年後にようやく「Dear John」という流麗なバラッドを発表している)。『ステレオ太陽族』がジャズテイストに傾倒したのはある意味、ロックシーン全域に至ったその喪失感を振り切るための手立てでもあったのかも知れない。だから、尚更アンニュイなのである。

もっとも、そんなアルバムも最後には「栞のテーマ」でもって純然たるティーンエイジポップへと “帰還” する。この曲がどんなに素晴らしいか、などと綴るのはさすがに野暮だと思うので割愛しよう。


『ステレオ太陽族』収録曲
■A面
01. Hello My Love
02. My Foreplay Music
03. 素顔で踊らせて
04. 夜風のオン・ザ・ビーチ
05. 恋の女のストーリー
06. 我らパープー仲間

■B面
07. ラッパとおじさん(Dear M・Y's Boogie)
08. Let's Take a Chance
09. ステレオ太陽族
10. ムクが泣く
11. 朝方ムーンライト
12. Big Star Blues(ビッグスターの悲劇)
13. 栞(しおり)のテーマ


2018.10.17
31
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