若き佐野元春が、音符の中に文字を詰め込み、日本語の歌詞でありながら、英語の歌詞のようなビート感が発生させる方法論を発明したというのが前篇の結論。
そしてこの方法論は、佐野元春以降、渡辺美里やTMネットワーク、大江千里、などに引き継がれていくのです。ぜひ、これらの曲の《 》の中を歌ってみてください。
佐野元春『SOMEDAY』♪《街》の唄が聴こえてきて
渡辺美里『My Revolution』♪《非常》階段 《急》ぐくつ音
TM NETWORK『SELF CONTROL』♪君を連れ去る《クル》マを見送って
大江千里『GLORY DAYS』♪《きみ》の目に映るぼくがいて
すべて1つの(8分)音符の中に、2つの文字が詰め込まれています(言い方を変えれば16分音符に分解している)。
興味深いのは、これらのシンガーのレコード会社が、みんなEPIC・ソニーだったということです。「EPIC・ソニーのシンガーは音符を詰め込みたがった」という歴史的事実が判明します。やはり彼らにとって、先輩・佐野元春の影響力は大きかったのでしょう。
そして、この流れは、EPIC・ソニーが席巻した80年代の、およそラストを飾る岡村靖幸のアルバム『DATE』あたりで、究極まで行き着きます。『SUPER GIRL』の「♪Baby I got 愛が人生の Motion 14回もしょげずに」という強烈フレーズに、当時卒倒した記憶があります。
佐野元春の同い年の音楽家が桑田佳祐です。桑田のデビューは佐野より2年早くて、78年。もちろん、あのサザンオールスターズ『勝手にシンドバッド』です。「早口」「巻き舌」と言われた、あの強引な歌い方で、桑田は英語の響きを目指しました。
対して2年後の佐野元春は、「早口」や「巻き舌」と言うよりも、音符に対する日本語の乗せ方という、より具体的で汎用性のある方法論によって、英語の響きを再現しようと試みたわけです。
佐野元春と桑田佳祐。この2人のパイオニアが起こした「歌い方のイノベーション」が、80年代の日本ロックをぐんぐんと前に動かした――
そして今なお、現役で頑張っている、還暦を超えた2人に敬意を表して、第1回はこの辺で。
2017.04.01
YouTube / 佐野元春 - DaisyMusic
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