10月27日

中森明菜「バリエーション」聖子やユーミンの世界とは異なる80年代の青春

103
0
 
 この日何の日? 
中森明菜のセカンドアルバム「バリエーション」がリリースされた日
この時あなたは
0歳
無料登録/ログインすると、この時あなたが何歳だったかを表示させる機能がお使いいただけます
▶ アーティスト一覧

 
 1982年のコラム 
考察:関東関西まぜて彩る、上田正樹の「悲しい色やね」

歌が大好きだった父、阿久悠の書いた「居酒屋」と甘いキャンディーの記憶

木の実ナナ&五木ひろし「居酒屋」デュエット曲として40年間も愛される理由

中森明菜「バリエーション〈変奏曲〉」曲ごとにニュアンスを変えたリアルな表現力

まるでコインの裏表? プリンスの「1999」とマイケル・ジャクソンの「スリラー」

偉才の作曲家・萩原哲晶が晩年に挑んだ「イエロー・サブマリン音頭」

もっとみる≫




ポスト百恵で片付けられないアイドル中森明菜


前評判も高かった1982年デビューの新人アイドルたちを、当時はデビュー盤の発売日が訪れる度にしっかりチェックして追いかけていた。それは1980年に松田聖子がデビューした際のリアルタイム視聴に乗り遅れてしまった深い反省があったから。

ところが不覚にもノーマークでまたもやデビューの瞬間を見逃してしまったのが中森明菜だった。世間の大部分の人々がそうであったように、セカンドシングル「少女A」でようやく存在を認識するようになる。『スター誕生!』の合格シーンをちゃんと見ていたら、もっと早くから着目していたのかもしれない。

遅蒔きながら「少女A」のシングル盤を手にした時には、デビュー盤の「スローモーション」はもちろんのこと、ファーストアルバム『プロローグ〈序幕〉』も既に発売されていた。慌ててアルバムを聴いてみると、シングル曲候補でもあったという1曲目の「あなたのポートレイト」からたちまち惹き付けられてしまった。

歌が巧いことは紛れもない事実。その中で同期のアイドルたちとはどこか違った、少女期の危うさ、不安定な感情が垣間見られてスリリングだったのだ。ジャケット写真の表情からも、芸能界に足を踏み入れたことへの不安や居心地の悪さみたいなものが感じられた。当然それは戦略として要求されたものであっただろうけれども。

そんなキャラクターがいい具合に活かされた「少女A」には圧倒させられた。“ポスト百恵” などという安易な表現では片付けられない新人であることを認識する。誰かの真似などではない、独特の存在感。よくヤンキー度の高い曲などと言われるが、ヤンキーとは1ミリも接点がなく、松田聖子に傾倒していた自分でさえも無視できないくらいだったのだから、いかにずば抜けた才能であったのかが判る。



ファンの期待に応えたセカンドアルバム「バリエーション〈変奏曲〉」


そんな状況下で待ち望まれたセカンドアルバム『バリエーション〈変奏曲〉』は期待に背かないものであった。厳かなイントロダクションに導入されて始まる「キャンセル!」は、先行シングルとなった「少女A」の世界観がそのまま活かされたような疾走感に満ちた曲で、売野雅勇の詞がグサグサと胸に突き刺さってきた。

友人にアリバイを頼んでの彼氏との秘密の京都旅行が描かれる「脆い午後」は、似たような経験があればたまらなくリアルに感じるはず。

印象的なキーワードが盛り込まれた「哀愁魔術」は森雪之丞の詞が冴えわたる。

デビュー曲「スローモーション」を手がけた来生えつこ・たかお姉弟コンビの作による「咲きほこる花に・・・」は、詞も曲もヴォーカルもすべてが穏やかで沁みる一曲。

「ヨコハマA・KU・WA」では、デートをリードする積極的な女性の心理を描写した中里綴の詞と、南佳孝の奔放なメロディが絶妙に絡み合い、幾つもの場面が頭に浮かんでくる。

SIDE-2でも見せる、タイトルに相応しい多彩な構成


「メルヘン・ロケーション」はLPにおけるSIDE-2の1曲目になる。一気に拡がりを見せるサビの展開など、山口百恵の「乙女座 宮」を彷彿させる優雅なナンバー。『スター誕生!』の予選で「夢先案内人」を歌った中森明菜としては好きな楽曲だったのではないだろうか。

続けて聴く「少女A」はまた格別の味わい。シングルの曲をアルバムで聴くと、それがヴァージョン違いでなくとも、流れの中の一曲として違った聴き方を出来るから面白い。

もっともシティポップ寄りのメロウな楽曲「第七感」はやはり南佳孝の作。

そしてハイテンポな「X3(バイバイ)ララバイ」の活気溢れる世界を堪能した後、叙情的なバラード「カタストロフィの雨傘」で優しく着地。

インストのエンディングで静かな余韻を残して終わる。ファーストより確実に研きがかかった歌声、萩田光雄と若草恵によるヴァラエティ豊かなアレンジも相俟って、そのタイトルに相応しい実に多彩なアルバムとなっている。

ここからアーティストとしてさらなる進化を遂げていくわけだが、個人的にはこの後のサードアルバム『ファンタジー〈幻想曲〉』辺りまでの、まだ洗練されすぎていなかった頃の中森明菜の作品群が好きなのかもしれない。

松田聖子やユーミンの世界とはまた異なる、80年代前半の若者たちが共有していた青春が詰まった、ひたすら愛おしいアルバムなのだ。

▶ 中森明菜のコラム一覧はこちら!



2022.10.27
103
  Songlink
 

Information
あなた
Re:mindボタンをクリックするとあなたのボイス(コメント)がサイト内でシェアされマイ年表に保存されます。
カタリベ
1965年生まれ
鈴木啓之
コラムリスト≫
121
1
9
8
7
令和の中森明菜ブームがとまらない!全曲英語詞の意欲作「Cross My Palm」
カタリベ / 濱口 英樹
71
1
9
8
4
私鉄駅でのアルバイト、中森明菜好きのリーダーが車掌になった?
カタリベ / 時の旅人
107
1
9
8
6
中森明菜「ノンフィクション エクスタシー」“絶対女王” の遊び心と実験精神
カタリベ / 濱口 英樹
74
1
9
8
3
究極のアップデート “1983年の松田聖子” を超えるアイドルは存在しない!
カタリベ / 指南役
35
1
9
9
0
平成 J-POP 幕開けイントロ、四六時中ずっと聴きたいサザン「真夏の果実」
カタリベ / 藤田 太郎
47
1
9
7
9
ヒット曲の料理人 萩田光雄、アレンジャーの功績はもっともっと評価されていい
カタリベ / 鈴木 啓之