リレー連載【80年代アイドルの90年代サバイバル】vol.3- 中森明菜
多くの明菜ファンにとって最高の夏の1曲になった「Dear Friend」
1990年、約1年間の休業中だった中森明菜は、7月17日に約1年3か月ぶりに新曲を発表し、ようやくお茶の間にその姿を見せてくれた。待望の新曲のタイトルは「Dear Friend」。それまでどちらかというとマイナー調の楽曲を多く取りあげてきた明菜だったが、そのイメージを覆すような、はつらつとした明るいリズムのポップスでファンを驚かせてくれた。
“聴いた人が、勇気や元気が出て、明るくなれる歌" というコンセプトのもと制作された曲だったようだが、どちらかと言えば当時のファンのほうが、明菜に元気を届けたい気持ちが大きかったかもしれない。とは言え、多くの明菜ファンにとって最高の夏の1曲になったのは言うまでもない。この曲のリリース直後、フランスのニースから『夜のヒットスタジオ』の中継があり、かなりスリムになった明菜がテレビ画面に映し出されたが、小麦色に灼けた笑顔を見せてくれた時はどこか安堵したのを憶えている。
中森明菜の新曲「Dear Friend」はオリコン1位を獲得し約55万枚を売り上げる大ヒットとなり、同年11月発売の「水に挿した花」も1位を獲得。翌年、映画の主題歌に起用された「二人静 -「天河伝説殺人事件」より」も約50万枚を売り上げている。活動再開後、3枚のシングルをヒットさせた明菜だったが、残念ながらこの時期の作品を収録したアルバムは発表されていない。ボーカリストとして表現力がさらに増したアルバムを聴いてみたかったが、この時期の明菜は女優活動に積極的だった。
中森明菜、安田成美のW主演、伝説のドラマ「素顔のままで」
1991年には『世にも奇妙な物語 冬の特別篇』『中森明菜・メロドラマ 「もう一度逢いたい 忘れられない恋人…』『悪女A・B』『10年目のクリスマス・イヴ 愛してると私から!』と4本のドラマに出演している。そして、翌年には、あの伝説のドラマが放送されることになる。
その伝説のドラマは、1992年4月13日から6月29日まで放送された『素顔のままで』だ。中森明菜、安田成美のW主演で、女性同士の友情を描いたこのドラマは初回から高視聴率をマーク。プロダンサーを目指す、明菜演じる “月島カンナ” は、喜怒哀楽が激しく時にさみしがり屋で、まるで素の明菜を思わせるキャラクターだった。回を重ねるごとに多くの視聴者がカンナのキャラクターにのめり込んでいくことになり、最終回の視聴率は31.9%という驚異の数字を記録。このドラマで明菜は女優としても大成功を収めたのだ。
その後も、90年代に2本のドラマ主演をつとめているが、1998年1月12日から3月16日まで日本テレビ系で放送された『冷たい月』の外科医・椎名希代加役は、明菜自身がもっとものめり込んだ役だったそうだ。
ⓒFuji Television Network
有線チャートの3位を記録した「愛撫」
歌手活動に話を戻そう。1993年に中森明菜は1982年のデビュー以来在籍してきたワーナーを離れ、MCAビクターにレコード会社を移籍している。5月21日、移籍第1弾シングル「NOT CRAZY TO ME / Everlasting Love」(両A面)を発表。作・編曲を坂本龍一が手がけた2曲は、非常に音楽性の高いサウンドで、作詞は「NOT CRAZY TO ME」をNOKKO、「Everlasting Love」を大貫妙子が担当している。
9月21日には、前作のアルバム『CRUISE』から4年ぶりのオリジナルアルバム『UNBALANCE+BALANCE』をリリース。坂本龍一、玉置浩二、小室哲哉、関口誠人、Bro.KORN、オズニー・メローらが楽曲提供した本作は当然ヒットして、特に「愛撫」は有線チャートの3位を記録する話題曲となった。
この曲が話題となったことで、1994年3月4日に「片想い / 愛撫」の両A面としてシングルカットされている。ちなみに「愛撫」は小室哲哉が作曲を手がけており、90年代の中森明菜の代表曲のうちの1曲と呼べるだろう。小室ブーム全盛期の1996年8月7日にも、小室哲哉 作・編曲による「MOONLIGHT SHADOW-月に吠えろ」をリリースしており話題になっている。
1960年代から70年代の名曲をカバーした「歌姫」
シングル「片想い / 愛撫」と同時発売で、キャリア初のカバーアルバム『歌姫』を発表。収録曲は約8カ月間の時間をかけ、数百曲の候補曲の中から9曲が選ばれたが、シングルカットされたのは、中尾ミエのヒットで知られている「片想い」。他には山口百恵、岩崎宏美、荒井由実など、1960年代から70年代に発表された数々の名曲が選ばれているが、明菜が他のシンガーの曲をカバーするというだけでこのアルバムは話題になった。ちなみに『歌姫』シリーズは2000年代に再開し、2017年までに10タイトル以上のカバーアルバムがリリースされている。
カバーアルバム『歌姫』リリース直後の10月5日にシングル「月華」をリリース。株式会社三貴 “ブティックJOY” のテレビCMソングとして起用されたこの曲は、女の情念が上手く表現されており、TOP10入りを果たすヒットになっている。こういうタイプの曲を歌わせたら、明菜の右に出るものはいないかもしれない。
1995年12月6日には『true album akina 95 best』という3枚組ベストアルバムがリリースされているが、MCAビクターの楽曲以外は、すべて新録音による楽曲が収録されており、この時期の明菜がかつての自身の作品へどのように向き合ってきたのかがよくわかる、ありそうでなかったベストだ。
1993年から在籍したMCAビクターから8枚のシングルと、オリジナルアルバム3枚、カバーアルバム1枚を発表したのち、1998年にガウスエンタテインメントに移籍している。2月11日に発売された移籍第1弾シングル「帰省 〜Never Forget〜」は、前述したドラマ「冷たい月」の主題歌に起用されている。ガウス在籍時は5枚のシングルと、2枚のアルバムを残し、ここまでが90年代の中森明菜の活動だ。
中森明菜と言えば、どうしても80年代の活動がクローズアップされるが、90年代は明菜自身の意見を反映させた音楽性の高い楽曲が多く発表されている。90年代は空前のJ-POPブームだったため、メガヒットの陰に隠れがちだった中森明菜の作品をこの機会に是非じっくりと聴いてみていただきたい。
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2024.04.12