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【作詞家 松井五郎インタビュー】女性アイドルを語る〜工藤静香、中森明菜、柏原芳恵…

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1984年(昭和59年)の石川優子とチャゲによるデュエット曲「ふたりの愛ランド」が週間TOP10入りしたのを皮切りに、安全地帯、工藤静香、氷室京介、HOUND DOG、田原俊彦、光GENJI、V6、KinKi Kids、田村ゆかり、坂本冬美、純烈、山内惠介… と、ポップスやロックから演歌・歌謡曲、さらにアニソンに至るまで幅広いジャンルのアーティストに手がけた作詞曲が、昭和・平成・令和にわたってヒットを飛ばしている松井五郎。

そんな彼がこれまで手がけてきた楽曲を自らセレクトしたプレイリスト “G-ism~松井五郎セレクション” が、2023年4月、ポニーキャニオンが展開するプレイリスト “おとラボ” から順次公開されている。今回は、その中から “女性アイドル編” に登場するアーティストや楽曲について語ってもらった。

オリコンTOP10ヒットを10曲手がけてきた工藤静香


“女性アイドル編” は、全40曲、中山美穂「女神たちの冒険」、荻野目洋子「恋してカリビアン」、ribbon「それは言わない約束」、さらにはシティポップの文脈で海外から注目されている岡本舞子「ファッシネイション」などおもに80年代から90年代のアイドルソングを中心にセレクトされている。

その中で中心的な存在が、「恋一夜」「抱いてくれたらいいのに」などオリコンTOP10ヒットを10曲手がけてきた工藤静香だろう。“女性アイドル編” では、オリコン1位獲得曲の「恋一夜」「くちびるから媚薬」のほかファーストアルバムに収録された幼い声の残るバラード「ワインひとくちの嘘」が収録、また “女性ボーカル編” では、初めて手がけたシングル「抱いてくれたらいいのに」のほか「メタモルフォーゼ」「めちゃくちゃに泣いてしまいたい」がセレクトされている。

松井五郎(以下松井):リリースは「ワインひとくちの嘘」の方が先なのですが、静香さんの最初の印象としてはやはりシングルの「抱いてくれたらいいのに」が記憶に残っていますね。なにしろ、まだ彼女が制服でスタジオに通っていましたから。あと、チャート的にも大きな分岐点となった「恋一夜」は印象深いですね。

―― 17才のアイドルに「抱いてくれたらいいのに」を提供するというのは、かなりの大胆な判断だったのでは?

松井:その前のシングルの「禁断のテレパシー」や「Again」が秋元康さんの書かれた詞で、おニャン子クラブの曲よりは大人っぽいとはいえ、どちらかと言えばアイドル路線でした。けれど、先に出来ていた「抱いてくれたらいいのに」のデモのメロディーを聞いてみると、それらとは全く異なるロッカバラードだったので、彼女の実年齢をあまり意識しないようにと心がけましたね。

―― その後、91年の「メタモルフォーゼ」から93年の「あなたしかいないでしょ」は、シングル7作中6作を松井が手がけている。特に、92年の「声を聴かせて」は恋愛に限定しない大きな愛をテーマやゴスペル調のコーラス、6分半を超える大作というおよそシングルらしからぬ作風となったが、どんな意図があったのだろうか。

松井:「声を聴かせて」の頃は、彼女もセルフプロデュースをするようになってきたので、バンドテイストの洋楽を意識した歌詞が増えてきました。静香さんの場合は、すべて曲先、つまり作られたメロディーに歌詞をつけているのですが、彼女が大人になっても歌っていける世界観をとても大切にしてきました。

―― なお、本プレイリストにはないが、工藤静香自身は、07年に松井が手がけた「存在」をとても気に入っているのか、ディナーショー等でもよく披露している。「抱きしめられて 伝うぬくもりには 答えがある あなたの匂い あなたの鼓動 ふたりを守るから」といった歌詞からは、大きな母性を感じさせる。

松井:90年代半ばから00年代半ばまで静香さんへの提供にブランクがあったのですが、05年に久しぶりに依頼していただいた時には、彼女は結婚され、お子さんも育ててという私生活の変化があったので、その中で共感できるようなものを作りました。今後も、お互いに求め合うものがあれば、いつまでも書いていきたいアーティストの一人ですね。

―― 工藤静香は、彼女のプロデューサーであったポニーキャニオンの渡辺有三氏からの依頼だったのだが、過去には渡辺からの依頼では岩崎良美にも提供している。特にプレイリスト “女性アイドル編” 内にある「唇にメモワール」は、松井が大きく注目される前の81年作品だ。

松井:この時代は、レコード会社のプロデューサーやディレクターに育てていただいた時代ですね。岩崎良美さんには、この後のリゾート系のアルバム『cruise』にも「チークタイムの涙」(プレイリスト “女性ボーカル編” に収録)など書かせていただきました。



松井ならではの翳りや湿り気、体温を感じさせる中森明菜に提供した楽曲


―― そして、“女性アイドル編” の「リ・フ・レ・イ・ン」や「月夜のヴィーナス」、“女性ボーカル編” の「うつつの花」など、中森明菜に提供した楽曲も、松井ならではの翳りや湿り気、体温を感じさせる作品が多い。特に、「ムーンライト・レター」(シングル「飾りじゃないのよ涙は」のカップリング)や「リ・フ・レ・イ・ン」は、それまでの明菜に比べ、感情を抑えた繊細な歌声での表現が格段に上手くなっており、これも彼女が深く共感できたからではないだろうか。

松井:明菜さんには何曲も書かせてもらっていますが、実際にお会いしたことは一度もないんですよ。いつも制作の方から依頼されて、出来上がったものを皆さんと同じように聴くというスタンスです。

その中で、「ムーンライト・レター」は、作曲をした井上陽水さんからお声がけいただいて、(シングルの)A面が「飾りじゃないのよ涙は」だから、陰と陽のような関係で、「ムーンライト・レター」の方をロマンティックな内容にしました。ただ、彼女の歌唱力を考えると、もっと大人っぽいのを書いた方が良かったのかも、とも思いました。

―― とはいえ、こんなにムーディーな大人も酔える作品を歌った明菜がまだ19才とはあらためて驚かされる。これに対し、“女性ボーカル編” の「うつつの花」は03年のアルバム『I hope so』収録の、人生の酸いも甘いも存分に経験したかのような熱唱バラードだ。

松井:これもマシコタツロウくんの曲が先にあって、少し翳りのある、まさに松井五郎の世界に寄せて書いた感じですね。どちらかというと僕は明るい曲よりも、おどろおどろしい作品の方が得意なので、明菜さんが持っていたイメージとうまく重なったのかもしれませんね。



19歳のアイドルが歌うには、あまりに大胆な「太陽は知っている」


―― なお、“男性ボーカル編” に選ばれている梶原秀剛の「月華」は、もともと94年の明菜のシングルとして提供されたもののセルフカバーだ。2023年現在ストリーミングサービス未配信のためここではセレクトされていないが、松井が当初セレクトしていたほどのお気に入りの作品という。

松井:「月華」は、明菜さんサイドから歌詞の依頼があって、こういうものを書いてくれと言われたわけじゃないのですが、梶原くんの曲を聴いたら月が浮かんだんですね。やはり、僕は「太陽」ではなく「月」が好きなんです。松本隆さんが「風」で、売野雅勇さんが「海」なら、僕は「月」でしょうね。

自分らしいものというのは、こうした翳りや暗さだと思っています。明るい歌を書く時にも、底抜けに明るい歌は少ないですね。ただ、静香さんの「夏がくれたミラクル」(シングル「FU-JI-TSU」カップリング)など、シングルのA面やアルバムの全体のバランスを考えて、明るさ全開の曲というのはありますよ。

―― 柏原芳恵の「太陽は知っている」も、“太陽” と題しているのに、恋愛が揺らぎそうな独特な妖しさや湿り気を放っている。こちらも当時19歳のアイドルが歌うには、あまりに大胆な作品だ。

松井:これは収録アルバムのジャケットも大胆ですよね。ある種、僕の持っている湿気の高さを、女性でいうと、少女から大人に旅立っていく時に指名されることが多いんですよ。その意味で、スキャンダラスな作品を作ってみたんですね。僕を指名するということは、キラキラ可愛いといったものではない歌詞が期待されているので。



このプレイリスト “女性アイドル編” は、他にも浅香唯、堀ちえみ、島田奈美、酒井法子、西田ひかる、田村英里子などオリコンTOP10ヒットを何曲も持つアイドルへの提供曲が収録されているが、確かに王道アイドルソングというよりも幾つかの試練を超えたかのような内容のものが多い。当時は、ひょっとすると理解しづらい、またはやや否定的に感じていた楽曲も、あらためてプレイリストにて聴いてみると、実は大人だからこそ分かる作品だったと思い直すこともあるだろう。十分な大人も楽しめるのが “作詞:松井五郎のアイドルソング” の大きな特徴と言えそうだ。

特集:作詞家 松井五郎の世界

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2023.07.21
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  “G-ism”松井五郎セレクション〜女性アイドル編【おとラボ】
 

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カタリベ
1968年生まれ
臼井孝
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