8月1日

どん底から始まった80年代のエアロスミス、立ちはだかる新時代の壁

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photo:SonyMusic  
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エアロスミスにも立ちはだかった80年代の壁


エアロスミスのスティーヴン・タイラーが、本日3月26日に72回目のバースデイを迎えた。これまでのコラムで、70年代後半に日本の洋楽シーンで人気を博したキッス、チープ・トリックらが、なぜか80年代に入ったとたんに、何らかの壁にぶち当たった歴史を述懐してきた(※)。なかでも、キッス、クイーンとともに、3大バンドと称されたエアロスミスの人気の乱高下ぶりは凄まじいものがあった。

77年に初来日を果たして武道館公演も実現し、日本でもスーパースターの仲間入りをしたエアロスミスだが、僕がエアロをリアルタイムで初めて聴いたのはそれから暫く経った頃だ。ラジオでオンエアされた、78年『ライヴ・ブートレッグ』からの「バック・イン・ザ・サドル」「闇夜のヘヴィ・ロック(Toys in the Attic)」等だったが、ライヴ録音の迫力に比べ、後追いで聴いたスタジオヴァージョンが、何だか物足りなくて拍子抜けしたのを覚えている。エアロの本領はライヴでこそ発揮されることを、その時知ったのだった。

修復不能? スティーヴン・タイラーとジョー・ペリーの不仲


その後、初めて手に入れたスタジオ作が、79年の『ナイト・イン・ザ・ラッツ』だった。この頃すでにスティーヴン・タイラーとジョー・ペリーの不仲を発端に、バンド内部には修復不能な亀裂が生じており、ジャケットに写る炭鉱夫に扮したメンバーたちの虚ろな表情は、当時の状況を如実に表すかのように見える。実際、ジョーはメンバーと会わないようにレコーディングを行ったが途中で脱退してしまい、結局サポートを迎えて完成に至った。

そんないわくつきの作品でも、僕はこのアルバムがエアロスミスの中で1、2を争うほど好きだ。ロックを聴き始めた頃にリアルタイムで聴いたことが大きな理由なのはもちろんだが、それを差し引いてもハードロックファンなら必聴の作品だと真剣に思っている。

アルバムでは、トム・ハミルトンとジョーイ・クレイマーの絶妙なノリを誘発するタイトなリズム隊に乗せて、ジョーが残したであろうプレイを中心に、弾きまくりといえるほどにギターがフィーチャーされている。そこに絡みつくスティーヴンのシャウトを織り交ぜたエモーショナルな歌唱も、一般的に挙げられる名作に全く劣らない素晴らしさだ。

プロデュースが長年のジャック・ダグラスからゲイリー・ライオンズに交代したものの、ライヴ感のある生々しく絶妙なバランスのサウンドは実に心地よい。振り幅の大きい楽曲が並ぶ中で、“これぞエアロスミス!” と言いたくなるハードロックンロールが全編で貫かれ、シングル曲「リメンバー」を始め、カヴァー3曲も違和感なく溶け込んでいる。

絶体絶命のエアロを救った新加入のギタリストは誰?


80年代の足音が聞こえるタイミングで、これほどの作品を残したにも関わらず、バンドの二枚看板の片方であるジョーと決別。さらに後を追うように、81年にはオリジナルメンバーの一角、ブラッド・ウィットフォードまでバンドを離れてしまったことで、エアロスミスの人気は一気に下降してしまう。

この絶体絶命の状況下で、ジョーの後任という重責を担うギタリストとして迎えられたのが、ジミー・クレスポだった。くりっとした大きな瞳が印象的なルックスのジミーは、ライヴをこなしながらアルバムの制作に全面参加し、スティーヴンとともにソングライティングにも積極的に関与していった。さらに、ブラッドの後任としてリック・デュファイを迎えて完成したのが、82年の『美獣乱舞(Rock in a Hard Place)』だ。

この頃の洋楽ロックファンの間ではジョーが脱退したことで、“エアロスミスは終わった” というネガティヴな空気が充満していたように思う。ジョーのいないエアロは認めたくないファンも多かっただろうし、新生エアロの作品を聴かず嫌いのファンもいただろう。正直僕もそんな一人だった。

低迷期であっても、これぞエアロスミス!


けれども、ラジオでオンエアされたアルバムの1曲目「ジェイルベイト」を聴いた時、僕は度肝を抜かれた。アップテンポの緊張感ある激しいリフで畳み掛けるこの曲は、新生エアロスミスの勢いが存分に感じられ、文句のつけようがないカッコよさに溢れるハードロックに仕上がっていた。新風を随所に吹き込むジミーの存在も違和感なく、何より、スティーヴンが歌えばエアロとわかる、という当たり前の事実を再認識させられた。

収録曲「ライトニング・ストライクス」の PV は、当時『ベストヒットUSA』でオンエアされて、ストリートギャングに扮したメンバーの姿を見て、健在ぶりも確認できた。アルバムは再びジャック・ダグラスがプロデュースを担当しているが、80年代の時代感に合わせてアップデートしながらも、決してエアロらしさを失っていない作風に仕上げたのは流石だ。彼らは低迷期であっても、“これぞエアロスミス!” という優れた作品を生み出すことに成功していたのだ。

しかしながら、アルバムの全米チャートでの結果は決して満足いくものではなく、日本の洋楽誌でも高評価は得られず、80年代の華やかなマーケットに埋没するように、バンドの低迷ぶりは深刻さを増していく。一方のジョーも、ジョー・ペリー・プロジェクトというお世辞にもクールといえないバンド名を冠して活動を続けたものの、かつて古巣で得た栄光とは、ほど遠い存在になっていた。

世界的なモンスターバンドへ、忘れてはならないジミー・クレスポの存在


そんな状況を変える最大の打開策は、ひとつしかない。結局、低迷期を支えたジミーとリックが脱退し、入れ替わるようにジョーとブラッドか電撃復帰。大勢のファンが待ち望んだオリジナルメンバーのエアロスミスが復活し、85年に『ダン・ウィズ・ミラーズ』を発表した。華々しい帰還にしては正直物足りない内容だったが、86年には RUN DMC の「ウォーク・ディス・ウェイ」のカヴァーが大きな話題となり、エアロへの評価が再燃、87年『パーマネント・ヴァケイション』、89年『パンプ』とモンスターヒットアルバムを連発。まさに急降下から低迷期を経ての急上昇で、ロックシーンの頂点へと一気に返り咲いていった。

スティーヴンもジョーも、あの頃一度袂を分かったことで、音楽をクリエイトしていくパートナーとして、お互いの必要性を実感したに違いない。88年に10年以上の時を経て実現した来日公演に僕は参加したが、その時に披露された2人のコンビネーションが織りなすケミストリーは、やはりエアロ最大の魅力として、ステージ上で燦然と輝いて見えた。

あの低迷期を乗り越えたからこそ、エアロスミスは世界的なモンスターバンドに上り詰めることができた。そうした意味でも、当時のエアロを支えた功労者の一人であるジミーは、もっと評価されるべきだろう。ジミーとスティーヴン、そのコンビネーションも最高だった。そして、低迷期に発表されたゆえに過小評価されている、ここで紹介した2枚のスタジオ作『ナイト・イン・ザ・ラッツ』と『美獣乱舞』を今一度、先入観を持たずに楽しんで欲しいと願っている。


編集部より:
本文中にありました、“キッス、チープ・トリックらが、なぜか80年代に入ったとたんに、何らかの壁にぶち当たった歴史を述懐してきた…” については、こちらでも詳しく書かれています。ぜひご覧ください。

■ ライブレポ:ロックンロール世界遺産、キッス最後の来日公演!
■ チープ・トリック奇跡の再ブレイク!元祖パワーポップとして息の長い存在感


2020.03.26
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