9月12日

エアロスミスの傑作アルバム「パンプ」ロック史に残る大復活劇!

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photo:UNIVERSAL MUSIC  

栄枯盛衰の激しいロックンロールの世界で、エアロスミスほど鮮烈な復活劇を遂げたバンドはいないだろう。彼らの全盛期が70年代なのか、80年代なのか、はたまた90年代以降なのか、今となっては定かではない。

80年代が幕を開けた時、エアロスミスは暗礁に乗り上げた船のような状態だった。メンバーの脱退、創造性の減少、人気の低迷…。時代の波は完全に彼らを置き去りにしていた。

ところが、90年代が幕を開けた時、エアロスミスはもっとも勢いのあるロックバンドのひとつに数えられ、多くの若手ミュージシャンからリスペクトされる存在になっていた。

その間に一体何があったのか?

まずドラッグときっぱり縁を切って、クリーンになったこと。そして、スティーヴン・タイラーがオリジナルメンバーによる再出発にこだわったことが、なにより大きかったと思う。それがすべてのスタート地点となった。

ただ、復帰作の『ダン・ウィズ・ミラーズ』では、まだバンドの状態も万全とは言えず、期待したほどのセールスを上げることはできなかった。だが、1986年に RUN DMC が彼らの名曲「ウォーク・ディス・ウェイ」をカヴァーし、それが全米4位の大ヒットとなったことで追い風が吹いた。

ここからバンドは、肚をくくったかのように、自らを時代の潮流に合わせてアジャストしていく。1987年にリリースされた『パーマネント・ヴァケイション』は、そうしたバンドの姿勢が色濃く出たアルバムとなった。

当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだったボン・ジョヴィのプロデューサーを雇い入れ、そのボン・ジョヴィやブライアン・アダムスなどのヒット曲を量産していた外部のソングライター達を作曲のパートナーに迎えるなど、とにかく徹底したテコ入れを行ったのだ。

そして、これが大当たりする。アルバムはロングセラーとなり、アメリカだけで500万枚を売り上げる大ヒットを記録。シングルヒットも3曲生まれ、ライヴは軒並みソールドアウト。会場には新旧のファンが詰めかけ、エアロスミスは再び時代のトップランナーに躍り出ることに成功したのだ。

しかし、これがバンドの本当の姿ではないことは、メンバー自身が一番よくわかっていたのだろう。『パーマネント・ヴァケイション』は、曲もサウンドもストレートで、誰にでも楽しめるものだったかもしれない。しかし、70年代の作品がもっていたゴツゴツと引っかかってくる肌触りや、とぐろを巻くようなドロリとしたグルーヴは影を潜めていた。だが、それこそがエアロスミスをエアロスミスたらしめてきた “魔法” だったのだ。

彼らはその魔法を、ツアーという昔ながらのやり方で少しずつ蘇らせていく。精力的にライヴを重ねることでバンドの結束を強め、大観衆の前で演奏することにより、ビッグアクトとしての勘を取り戻していった。すると、スティーヴン・タイラーが言うところの「オリジナルメンバーの間にしか存在しない」言語化不能な音楽の魔法が、再び彼らを包み始めることになる。

そして、1989年9月12日、遂に『パンプ』がリリースされる。このアルバムこそ、エアロスミスがどん底から這い上がったことの証しであり、70年代の名作『闇夜のヘヴィ・ロック(Toys in the Attic)』や『ロックス』と並べて語られるべき大傑作だった。

とにかく曲がいいし、サウンドが素晴らしい。オープニングの「ヤング・ラスト」のイントロが鳴った瞬間、鈍器で殴られたかのような重たい衝撃が走る。そして、黒光りするような疾走感がアルバム全体を貫いていく。腹の底から突き上げてくるグルーヴには独特の暗さがあり、それが音楽に深みを与えていた。彼らがデビュー以来持ち続けてきたブリティッシュロックの伝統を、そこに感じ取ることもできるだろう。また、曲間に効果音を挟むなど構成に気を配っている点も、このアルバムを価値を一層高めている。

そして、エンディングの「ホワット・イット・テイクス」。スティーヴンのシャウトに滲む胸をかきむしるような切なさこそ、新生エアロスミスを象徴していた。この溢れんばかりのロマンティシズムは、かつての彼らにはなかったものだ。復活にかける覚悟と不断の努力が生み出した、美しい結晶と言えるだろう。

『パンプ』は、エアロスミスが再びエアロスミスとして存在し得ることを証明したアルバムだ。ここでの彼らは新しい自分を見つけただけでなく、本当の自分も取り戻している。時代の空気を肺の奥まで吸い込み、自分のものにしてみせたのだという不遜なまでの自信に満ちている。

結果は言うまでもないだろう。『パンプ』はアメリカだけで700万枚を突破し、ツアーも前回を上回る大盛況となった。90年の日本公演でもチケットは争奪戦になったのを覚えている。一時は再起不能とさえ言われたあのエアロスミスがだ。天晴と言うほかない。

最後に僕が好きなエピソードを紹介したい。

ポール・マッカートニーのライヴを観に行ったスティーヴン・タイラーがマネージャーにした電話。

「今ちょうど本編が終わったところで、帰らないと騒ぎになっちゃうのはわかってるんだけどさ。でも、アンコールで「サージェント・ペパー」を演るらしいんだよ。なぁ、帰れるわけないだろ?」

日本のロックフェスで演奏した時、同じ日に出演したザ・フーについて、ジョー・ペリーがステージで語った言葉。

「俺達はザ・フーの大ファンだから、一緒のステージに立てて本当に光栄だ。やっと夢が叶った気分だよ」

エアロスミスとは、そういうバンドなのだ。ロック史に残るの復活劇を成し得たのも、この純粋さがあってこそだったのかもしれない。

2019.09.12
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  YouTube / AerosmithVEV0
 

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カタリベ
1970年生まれ
宮井章裕
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