3月21日

デビュー曲のどアタマの音符に込められた佐野元春の大発明

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※スージーブーム来たる!『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)発売まであとわずか。今回は、音楽評論の革命者・スージー鈴木さんが Re:minder に初登場したときの記念すべきコラムです(編集部)。


こんにちは。今回からこちらで連載を始めさせていただきます、スージー鈴木と申します。音楽評論家として、地味にいろいろとやっております。よろしくお願いします。

テーマ的には、「80年代音楽解体新書」という感じで、懐かしいあの曲この曲の魅力を、音楽的な分析を加えながら、「解体」していきたいと思っています。その第1回は、「佐野元春のデビュー曲のどアタマの音符に込められた大発明」。

デビュー曲は、あの『アンジェリーナ』。その歌い出しの歌詞は「♪ シャンデリアの~」。「どアタマの音符」は、「♪ シャン」。これを画像で表現すると、こうなります。



「どこが大発明なんだ?」と思われるかもしれません。でも、ちょっと考えてください。普通の歌詞の感覚だと、こうなりませんか? 「♪ シャ・ン」と。



さらに言えば、「♪ シャンデリアの~」について、普通の日本語の歌詞だと、「♪ シャ・ン・デ・リ」となるはずです。それを若き佐野元春は、ちょっと無理矢理に「♪ シャンデリアの」まで、詰め込んだのですね。



細かく見ていくと、「シャ・ン」を「シャン」とするのはまだ分かるのですが、「デ・リ」を「デリ」とまとめるのは、なかなかにインパクトがあります。

これがデビュー曲の『アンジェリーナ』(80年)。そして9枚目のシングル『スターダスト・キッズ』(82年)には「♪ 本当の真実がつかめるまで」というフレーズがあります。これの歌い方は、こんな感じ。



「ほん」と「しん」を1つの音符に詰め込んでいます。さらには「つか」も詰め込んでいます。「シャンデリア」は英語(chandelier)なんで、まだ分かるのですが、「つかめる」という日本語も、詰め込んでしまう。

そしてその結果として、日本語の歌詞なのに、英語の歌詞のようなビート感が発生していると思いませんか? 実はここに、若き佐野元春のラジカリズムがあったわけですね。

では、この方法論が、80年代の音楽シーンの中で、どう広がっていったかを見ていきたいと思います。佐野元春が、音符の中に文字を詰め込み、日本語の歌詞でありながら、英語の歌詞のようなビート感を発生させる方法論を発明したというのがここまでの結論。

そしてこの方法論は、佐野元春以降、渡辺美里や TM NETWORK、大江千里、などに引き継がれていくのです。ぜひ、これらの曲の《 》の中を歌ってみてください。

 佐野元春『SOMEDAY』
 ♪《街》の唄が聴こえてきて

 渡辺美里『My Revolution』
 ♪《非常》階段 《急》ぐくつ音

 TM NETWORK『Self Control』
 ♪ 君を連れ去る《クル》マを見送って

 大江千里『GLORY DAYS』
 ♪《きみ》の目に映るぼくがいて

すべて1つの(8分)音符の中に、2つの文字が詰め込まれています(言い方を変えれば16分音符に分解している)。

興味深いのは、これらのシンガーのレコード会社が、みんな EPICソニーだったということです。「EPICソニーのシンガーは音符を詰め込みたがった」という歴史的事実が判明します。やはり彼らにとって、先輩・佐野元春の影響力は大きかったのでしょう。

そして、この流れは、EPICソニーが席巻した80年代の、およそラストを飾る岡村靖幸のアルバム『DATE』あたりで、究極まで行き着きます。『Super Girl』の「♪ Baby I got 愛が人生の Motion 14回もしょげずに」という強烈フレーズに、当時卒倒した記憶があります。

佐野元春と同い年の音楽家が桑田佳祐です。桑田のデビューは佐野より2年早くて、78年。もちろん、あのサザンオールスターズ『勝手にシンドバッド』です。「早口」「巻き舌」と言われた、あの強引な歌い方で、桑田は英語の響きを目指しました。

対して2年後の佐野元春は、「早口」や「巻き舌」と言うよりも、音符に対する日本語の乗せ方という、より具体的で汎用性のある方法論によって、英語の響きを再現しようと試みたわけです。

佐野元春と桑田佳祐。この2人のパイオニアが起こした「歌い方のイノベーション」が、80年代の日本ロックをぐんぐんと前に動かした――

そして今なお、現役で頑張っている、還暦を超えた2人に敬意を表して、第1回はこの辺で。


※2017年3月31日、4月1日に掲載された前・後編の記事を一本化しアップデート

2019.03.21
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