男同士の友情、これはいいものだ。なんだかんだ言っても、後腐れがない。しかし男が2人ではなく3人集まると、どうだろう。3人だと、何かするときに必ず意見が分かれる。「三人寄れば文殊の知恵」という言葉もあるが…… いやはや知恵も逃げ出したくなる状況も生まれる。
知ったような口を聞いて恐縮だが、男は基本「バカ」である。中学校から高校まで男子校に通っていた身が言うのだから折り紙つきだ。そこはまるで『猿の惑星』。授業中に紙飛行機や漫画雑誌が飛び交い、友人たちとトランプに興じる…… それが日常茶飯事。知恵も生まれないのは、さもありなんといったところだ。
なぜこのようなことを書いたかと言うと、それはジム・ジャームッシュ監督の『ダウン・バイ・ロー』の世界は、まさにそんな「男たち」の友情を繊細に描いた作品だと感じるからだ。
主要人物は3人。根拠のない自信に溢れたポン引きのジャック、トム・ウェイツ演じるガールフレンドにもフラれた失業中のDJ・ザック、そして正当防衛から殺人事件を起こしてしまったイタリア人・ボブ。彼らがふとしたことからニューオリンズの刑務所の同じ部屋に収監され、そこから脱獄するというのが物語のあらすじだ。
その中でも特に「あの」男子校を思い出させるシーンがある。
刑務所の雑居房で時間を持て余す3人はカードゲームに興ずる。ジャックがボブに勝ち、嘲りに満ちた声を浴びせるのだが、片言しか英語の喋れないボブは理解できない。ジャックが「これは “Screaming” だぜ」と言う。
するとボブは、いつも持ち歩いている英語のメモを出し “Screaming” で面白い表現があったと探し出す。ボブは詩や言葉遊びを愛する愉快な男なのだ。そして彼はこう言うのだ、“I scream, You scream, We all scream for icescream”
榊原郁恵の「夏のお嬢さん」の歌詞ではない。これは英語圏で有名なダジャレだそうで、1920年代のニューオリンズ・ジャズのスタンダードナンバーに歌詞として使われ、広く親しまれているのだとか。日本語でいうところの「布団がお山の方まで吹っ飛んだ、おやまぁ」といったところだろうか。
フラストレーションを解放するために言葉通り「叫び」ながら、雑居房で暴れ出す3人。実にくだらない。しかしなぜかふと、この男子校的「ノリ」に懐かしさを覚え微笑んでしまうのは僕だけだろうか。
『ダウン・バイ・ロー』で大好きなシーンがもう一つある。それはオープニングシーンだ。トム・ウェイツの名盤『レイン・ドッグ』(1985)に収録された「ジョッキー・フル・オブ・バーボン」とともに、ニューオリンズの荒れた街が映し出される。作品にスッと心を入り込ませることのできるオープニングだ。
ここのシーンでウェイツの音楽が鳴り止む二つの瞬間がある。ジャックとザックがそれぞれ眠りにつこうとする場面なのだが、ベッドを共にしている女が目をしっかり開けていることに二人とも気づかない。男と女の関係性がわかる、いかにも象徴的なシーンだ。
つまり、いつまでも「子供な」男は、結局のところ女性には勝てないのだ。『ダウン・バイ・ロー』は、そんな男の哀しみも同時に描かれている。僕がこの「男子校映画」をこよなく愛する理由も、そこにあるようだ。
2017.07.26
YouTube / Aristides Emmanuel Pereira
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