2019年5月24日、ストレイ・キャッツの結成40周年アルバム『40』がリリースされた。思えば81年のデビュー直後の来日、そして88年、ブライアン・セッツァーの「たまらなくロカビリーがやりたかった」というコメントと共に始動したリユニオン、そして今回は92年の活動停止後、全編カヴァーの企画盤『オリジナル・クール』を93年にリリースしてから26年ぶりのアルバムとなるからファンとしては感慨深いものになる。
新譜を聴いてみたところ、81年当時のロカビリーの初期衝動を孕み新たな時代へアプローチしたとびっきりのニューウェイヴという印象とは少し違う。もうあの頃のガレージバンドであったストレイ・キャッツとは違うのだ。バンドは常に進化を遂げ、ブライアンが BSO(ブライアン・セッツァー・オーケストラ)のキャリアを踏まえたエンタテインメント性を垣間見ることができるオーセンティックなアメリカンロカビリーという仕上がりになっている。
そんなストレイ・キャッツだが、彼らが動き出すと日本のロカビリーシーンも動き出すという定説がある。81年のデビュー来日時には、全国をフィフティーズブームが席捲していた。原宿のホコ天ではいくつものローラー族のチームが踊り、彼らのご用達だった原宿のフィフティーズショップ、ドクロがトレードマークのクリームソーダやコブラがトレードマークのペパーミントには連日開店前から長蛇の列ができていた。
ちなみにブライアンも81年の来日時にペパーミントでラバーソールを購入。その後、このラバーソールは「ブライアン・シューズ」という愛称がつき、長きに渡って人気商品となった。
ストレイ・キャッツの奏でるロカビリーは当時の原宿の街に似合っていた。彼らの奏でる50年代のロカビリーに懐かしさやレトロ感などが一切なかったように、原宿のフィフティーズショップの店内でかかっている甘く切ないオールディーズも当時の不良少年少女たちにしてみれば、「なんて新しいんだ!」という感覚だったと思う。ちなみに当時のクリームソーダの拠点で表参道から交番の脇の遊歩道を入った一角にあったガレージパラダイス東京について、ザ・モッズは82年に発売されたサードアルバム『LOOK OUT』に収録された名曲「Let's Go Garage」では、
次の角を曲がれば
聴こえてくるはずクレイジー・ロック
と歌っている。つまり、博多から上京し東京という街に戦いを挑んだザ・モッズのメンバーからしても、オールディーズが爆音で流れるクリームソーダの鮮やかさ、眩しさを肌で感じていたのではないだろうか。
80年代といえば、時代はオールディーズ・バッド・グッディーズの時代。古いモノから新たな価値観が生まれていた。原宿は街全体がフィフティーズ色に染まっていたと思う。
クリームソーダからはブラックキャッツ、ペパーミントの店員が結成したコーラスグループ、スリーミンツもメジャーデビューしていた。また新宿ルイードからはアルバイト店員同士が結成した本格派ネオロカバンド 19BOX が、かまやつひろしや内田裕也もカヴァーしたというロカビリークラシックの大名曲「Teenage Boogie」を引用した「アルバイト・ブギ」でメジャーデビューを果たしている。
このように81年、原宿発のロカビリーは全国を席捲する勢いだった。また、88年ストレイ・キャッツの再結成では、これをきっかけに、レストレス、グアナ・バッツ、ポール・キャッツといった80年代前半のネオロカ、サイコビリーのレジェンドたちが続々来日。日本勢ではマジック、ザ・ヴィンセンツが中核となり空前のロカビリーブームが巻き起こった。
そして2019年。リーゼントの髪に櫛を入れる若者はいない。しかし、当時の熱狂を知る40代から50代の音楽ファンは、長い間ストレイ・キャッツの新譜を待ち望んでいた。今、ライブハウスもそんな高い年齢層で溢れている。僕も例外ではない。これからは俺たちの時代だ。80年代初頭の原宿の熱狂が、もう一度蘇るのかもしれない。
歌詞引用
Let's Go Garage / ザ・モッズ【編集部よりお知らせ】
5月31日、ストレイ・キャッツのデビュー40周年を記念して、80sネオ・ロカビリー革命を徹底検証する『CROSSBEAT Presents ネオ・ロカビリー』が、カタリベの本田隆さん監修のもと、シンコー・ミュージック・ムックで発売開始されます。国内外におけるロカビリーシーンの総括はもちろんですが、ただの過去記事の発掘で終わらせないのが本書のポイント。新しく取材したインタビューをはじめ、アルバムガイド、テーマごとの解説やコラム、さらに、復刻写真だけでなく未公開写真を掲載するなど最新情報テンコ盛りです。年季の入ったリスナーも、エントリーリスナーも必読の一冊です。ぜひお買い求めください。
2019.05.30