2月19日

ブライアン・セッツァーはロカビリーの天才だ。そこに疑いの余地はない

37
2
 
 この日何の日? 
ストレイ・キャッツのデビューアルバム「涙のラナウェイ・ボーイ」がリリースされた日
この時あなたは
0歳
無料登録/ログインすると、この時あなたが何歳だったかを表示させる機能がお使いいただけます
▶ アーティスト一覧

 
 1981年のコラム 
寺尾聰「ルビーの指環」聴き手の際限なき想像に耐える松本隆の歌詞強度!

たのきん初主演映画「スニーカーぶる~す」は若大将と同時上映だった!

クイーンのチケット争奪戦とユーミンの歌詞に出てきた山手のドルフィン回想録

スネークマンショー「はい、菊池です」涙のポール・マッカートニー取調室

スネークマンショー、80年代のラジカルさを体現した意識高い系ユニット

そのとき歴史が変わった!「機動戦士ガンダム」の登場と「2・22 アニメ新世紀宣言大会」

もっとみる≫



photo:SonyMusic  

ブライアン・セッツァーはロカビリーの天才だ。そこに疑いの余地はない。

かつてポール・マッカートニーがこんなことを言っている。「一番難しいのは本当のロックンロールを書くことなんだ。あの雰囲気がなかなか出せないんだよ。僕の曲だとアイム・ダウンかな。あれは割とうまくいったと思う」。

ポールが言うところの本当のロックンロールとは、初期のエルヴィス・プレスリー、チャック・ベリー、リトル・リチャード、バディ・ホリー、エディ・コクランといったロックンロールのオリジネイター達の曲のことだ。つまり、それらに比べたら、洗練された曲を書く方が簡単だと言っているのだ。

なんとなくだが、それは僕にもわかる気がする。あのどこまでが冗談でどこからが本気なんだかわからない、ロックンロールのいかれ具合やみずみずしさを体現するには、技術を超えた何かが必要なのだろう。その何かとは学んで身につくものではなく、持って生まれた資質なのかもしれない。

ブライアン・セッツァーにはそれがある。ジョン・フォガティやデイヴ・エドモンズと同じように。

僕がロックを聴き始めた80年代初頭、ネオロカビリーというムーヴメントがあって、その中心にいたのがストレイ・キャッツだった。メンバーは、ブライアン・セッツァー(G,Vo)、リー・ロッカー(B)、スリム・ジム・ファントム(Dr)。

ロカビリーという音楽は、とかく隔世の感がつきまといやすい。純度の高い音楽だし、強固なスタイルが変化を拒むのか、時代の中で蘇生や再生がされにくいところがある。

でも、ストレイ・キャッツは違った。リーゼントにレザーファッション。25年前に流行ったロカビリースタイルの曲を演奏していたが、少しも古さを感じなかった。性急なビートと吐き出される熱量によって、彼らはロカビリーの間口を押し広げ、ノスタルジーを一掃し、中学生だった僕にもわかる容易さで、その楽しさを教えてくれたのだ。

そして、なにより曲が良かった。「ロック・ディス・タウン」、「ストレイ・キャット・ストラット」、「ラナウェイ・ボーイズ」、「セクシー&セブンティーン」等々、どの曲にも初期のロックンロールに宿るピュアな興奮が詰まっていた。

つまり、80年代初頭において、ロカビリーは最新のエキサイティングな音楽だったのだ。その期間は短かったけれど、後々に与えた影響は計り知れない。今も世界中で新しいロカビリーバンドが産声を上げているのだから。

では、もしストレイ・キャッツがいなかったら、ネオロカビリーはあれほどの広がりをもったブームになり得ただろうか? 僕にはそうは思えない。

古い音楽をそのまま演奏することは、努力すれば誰にでもできるだろう。しかし、そこに新しい息吹を与え、時代の空気に馴染ませることができる人は、それほど多くない。ブライアン・セッツァーが仲間とともにやったのは、そういうことだし、世界的なレベルでそれができたのは、おそらく彼らだけなのだ。それだけ稀有な存在だったのだと思う。

そして、ストレイ・キャッツ解散から数年後、ブライアンはビッグバンドを結成し、ロカビリーを大きくスウィングさせることになる。ブライアン・セッツァー・オーケストラの誕生だ。このバンドが今度はネオ・スウィング・ブームを牽引することになるのだから、まったく恐れ入る。

2003年の来日公演、愛器であるグレッチを高々とかかげ「グレッチギター」とつぶやいたブライアン・セッツァーはかっこよかった。表現の幅は広がっても、この人はあの頃と何も変わっていないのだなと思った。そのことはブライアンが奏でるギターのトーンが、なによりも雄弁に物語っていた。

2018.04.10
37
  YouTube / debandana
 

Information
あなた
Re:mindボタンをクリックするとあなたのボイス(コメント)がサイト内でシェアされマイ年表に保存されます。
カタリベ
1970年生まれ
宮井章裕
コラムリスト≫
23
1
9
8
1
古いものが新しい!ツッパリを経由して世間に浸透した80年代の新しい感覚
カタリベ / 本田 隆
11
1
9
8
7
音楽ファン必見のロック映画「ラ★バンバ」脇を固めるミュージシャンの匠
カタリベ / DR.ENO
141
1
9
8
6
田中泰延が会社を辞めたもう一つの理由、ジグ・ジグ・スパトニックと布袋寅泰
カタリベ / 田中 泰延
77
1
9
7
8
イーグルスがカバーした聖夜のクラシック「ふたりだけのクリスマス」
カタリベ / 藤澤 一雅
85
1
9
8
0
ジョン・レノンの死、ハッピー・クリスマスが街の喧噪にかき消される前に
カタリベ / 本田 隆
67
1
9
8
8
いつから僕は忌野清志郎をリスペクトするようになったのだろう?
カタリベ / 宮井 章裕