ある音楽を「好きだなぁ」と感じた時、「なぜこの歌を作ろうと思ったんだろう」なんて考えたことはありますか?
動画サイトなどの普及により昭和のポップスの再評価が加速する現在。当時のヒットソングの裏にはどんな思惑やねらいがあったのかを再考するテレビ番組なども増えているような気がします。
「ヒットソングが作られた背景」というのはもっとも知りたいところでもあるけれど、もっとも見えづらい部分であるのも事実です。
そんなヒットソング制作の中心にいた方々にスポットを当てて、次世代へとつなげていくためのトークイベント『音楽のDNA - ヒットソングにビジネスを学ぶ』が、2019年5月11日にスポットライト新宿店で行われました。
その記念すべき第1回目の主役は…… なんと伝説のプロデューサー・草野浩二氏と酒井政利氏!
会場は満員御礼。普段お目にかかれないレジェンドが2人も揃う瞬間に立ち会えるいうことで、会場でははじまる前から興奮と緊張の空気が流れていました。
そんなそわそわとした中に、Gジャンにジーパン(!)というカジュアルなスタイルの草野浩二さんと、スーツにビシッと身を包んだ酒井政利さんが登場。モデレーターを務めた濱口英樹さんの進行のもと、まずは草野さんからご紹介。
草野浩二さんは坂本九、奥村チヨ、渚ゆう子、欧陽菲菲、安西マリアなど多くの歌手を手がけたディレクターとして有名です。お兄さんで訳詞家の漣健児さんの影響で音楽に傾倒したとのこと。
「ヴァケーション」(弘田三枝子)、「恋の奴隷」(奥村チヨ)、「雨の御堂筋」(欧陽菲菲)などの、草野さんが手がけた代表曲が紹介され、それにまつわるエピソードなども解説していただきました。特に印象的だったのが、「上を向いて歩こう」(坂本九)についてのお話。
草野さん ―― 「アメリカで売れるとは全く思わなくて、きっと違う人が英語でカバーして売れているんだろうと思っていました。まさか戦争が終わって20年も経っていないのに、敵国である日本語の歌がアメリカで流行るはずがないだろうと思った。売ろうと思って売れたんなら僕も反り返って歩くんですけどね。だから拾った宝くじが当たったみたいな感じですよ(笑)」
…… とのこと。「上を向いて歩こう」は1961年に日本で発売された曲。戦争が終わってから、わずか16年後。現在に至るまで、米ビルボードチャートで日本人初の1位というを獲得したのは「上を向いて歩こう」一曲だけです。
続いて酒井政利さんの番に。酒井さんはカルメン・マキ、南沙織、山口百恵、郷ひろみ、キャンディーズ等多数を手がけたプロデューサー。もともと映画を作りたかったらしく最初は映画会社に入ったものの、当時はテレビが出始めのころ。映画は急速に制作本数を減らしていたため、音楽の世界へ舵を切り、数々のヒットを手掛けます。
「17才」(南沙織)、「魅せられて」(ジュディ・オング)、「時間よ止まれ」(矢沢永吉)など、名だたる代表曲のエピソードを語っていただきました。中でも山口百恵さんに関するお客さんからの質問の回答が、大変印象的でした。
お客さんからの質問 ―― 「山口百恵の楽曲に阿久悠氏の作品がないのは、『スター誕生!』での一件で、山口百恵の方から距離を置いていたという話を耳にしますが、実際はどうだったのでしょうか。桜田淳子が阿久悠作品が多いので、差別化ということもあったのでしょうか?」
『スター誕生!』の審査員だった阿久悠さんが、出場してきた山口百恵に対して「君は例えば誰か青春スターの妹役みたいなものならいいけど、歌はあきらめた方がいいかもしれないね」と言ったことで、百恵ちゃんが阿久悠さんを避けていたのではないか… なんていう憶測が、まことしやかにされているのです。まさかこのうわさの答え合わせができる日が来るなんて。その真相とは? これに対して、酒井さんは、こう答えてくださいました。
酒井さん ―― 「『スター誕生!』の花の中三トリオで、森昌子はさんは歌唱力、桜田淳子さんは天使のような雰囲気で、すでにヒットしていました。3人目の百恵さんは2人のおかげでかろうじてヒットという感じで、どうしても重くて地味な印象でした。このままだと何らかを変えなければ通用しないな、というところで、二人とも阿久作品だったので、作家をすこし変えようということで工夫を凝らしていったのが正直なところですね。本人がどうこう言ったとかは、まったくないです。マスコミの、裏をさぐる面白みなんでしょうね。それで私も悪いクセで、誰かがそう言ったら『そうそう』なんてうなずくんですよ(笑)そのほうが広まってくれるんですよ、話が。それで新人の名前も知れるしね」
40年越しの新事実…… 百恵ちゃん、あらぬ疑いが晴れてよかったですね。酒井さんのお茶目さも素敵でした。
最後はみんなで写真撮影をして懇親会に。熱心な方々の長年のギモンに真摯に答えてくださいました。
ファンの人たちを前に、お二人も大変楽しそうにおしゃべりされてたのが印象的です。懇親会でのちょっとしたイントロクイズでは、草野さんもピーンと手を上げてくださったりして。レジェンドがほんの少し身近に感じることができて、大変意義のあるイベントになったのでした。
Re:minder ではこのように、音楽史を彩ってきたレジェンドたちを迎えたイベントを定期的に開催しております。2019年6月1日には、編曲家・船山基紀さんのトークショー付きイントロクイズ大会『
80年代イントロ十番勝負 vol.4 - 夏のINTROフェスティバル!』も行われる予定で、出場者を絶賛募集中です。
また、草野さん・酒井さんが語ってくれたそれぞれの代表曲に対するエピソードなどを
あなたの知らない昭和ポップスの世界」というサイトで公開しています。お二人の手がけた楽曲の裏話や質問コーナーでの詳細も載せていますので、ぜひご覧ください。
>>「昭和ポップス稀代のプロデューサー草野浩二・酒井政利が語る、代表曲10曲への思い!」<<
2019.05.26