今日は偉大なギタリスト「ゲイリー・ムーア」の命日だ。
2011年2月6日、その訃報は届いた。ゲイリー・ムーアが休暇先のスペインで亡くなったという。死因は心臓発作、睡眠中に亡くなったらしい。享年58歳。あまりにも若い死だ。
僕は残念で残念で仕方がなかった。魂をギターに共鳴させて語ることが出来るゲイリー・ムーアのようなギタリストはもう現れることはないだろうし、そんな不世出のギターヒーローがいなくなってしまったという現実は、あまりにも悲しすぎた。
昨年の命日にはタイミングが合わず、ゲイリー・ムーアについてのコラムを寄稿することは出来なかったけど、今年は、僕が一番好きな彼のアルバムを紹介するカタチで、偉大なギタリストを弔いたいと思う。ゲイリー・ムーアのことを知らない人もちょっとだけお付き合いください。
さて、紹介したいアルバムは、1982年にリリースされた『コリドーズ・オブ・パワー』(旧邦題『大いなる野望』)だ。ヴァージンレコードに移籍して心機一転リリースされたゲイリー・ムーアの大出世アルバム。
このアルバムは、素晴らしいという表現を飛び越して、えげつないと言ってもいいくらい見事な出来だ。ゲイリー・ムーアの最高傑作であると同時に、ハードロック史上においても最高傑作のひとつと言っていいのではないかと僕は思っている。始めて聴いた時の感動は今でも忘れられない。針を落とした瞬間から最後まで一気に聴き切った。
全9曲あっという間だった。
全曲聴き終わった時、僕の血液は沸騰していた。とにかく楽曲の出来の良さ、充実度は半端ない。キャッチーでありながら絶妙にエッジの立ったメロディーラインはゲイリー・ムーアの作曲能力の高さを見事に証明している。
楽曲の素晴らしさだけでなく、その曲順も完璧だ。当時はレコードの時代で、曲順もそのアルバムの出来を左右する要素のひとつだったんだ。
A面は「ドント・テイク・ミー・フォー・ア・ルーザー」で幕が上がり「フォーリン・イン・ラヴ・ウィズ・ユー」で一旦幕が降りる。第二幕であるB面は「エンド・オブ・ザ・ワールド」というゲイリー・ムーアを代表する名曲中の名曲で始まる。まるで壮大なひとつ戯曲のように、曲順まで計算し尽されている。
そして、何よりも衝撃的だったのは、ゲイリー・ムーアのヴォーカルだ。今更ゲイリー・ムーアのギターの上手さを語る必要はないだろう。超速弾きからバラードにおける泣きのギターは、ギタリストの中でも最高峰であるということに異を唱える人はいないと思うけど、ヴォーカリストとしての実力も天下一品だということを知る人は少ないかもしれない。あの伊藤政則から人間国宝と評される理由が、このアルバムを聴くと良くわかる。
「今回のアルバムは、ギターを前に出すというよりも、歌を書くということを大切にしたし、全曲を自分が歌うために、かなり慎重に曲作りをしたからね。本当にやりたい音楽をこのアルバムでつくったというわけだ」と本人が語っている。
そう、『コリドーズ・オブ・パワー』はゲイリー・ムーアが初めて作った “自分が本当に作りたかったアルバム” であり、待ちに待ったソロプロジェクトをスタートさせたアルバムだ。だからこそ、その内容の素晴らしさだけでなく、彼の音楽人生においても非常に価値あるものであり、その意味からも、僕はこのアルバムが最高傑作だと思っている。
ゲイリー・ムーアはギターが上手過ぎた。だからこそ70年代は様々なバンドのギタリストとして引っ張りだこだったわけだけど、でもそれは言い方を変えれば、所詮雇われの時代。自分のやりたい音楽のために80年代に入ってソロプロジェクトを選択したのは大正解だったのではないかと僕は思っている。
最後に天国のゲイリーに問い掛けてみたい。
僕はあなたのファンだから、あなたが90年代に入りブルースに回帰した時、“80年代にやってきた音楽は聴きたくない。本当にやりたかった音楽でなかった” と語ったことは知っているし、ハードロックアルバムであるこの『コリドーズ・オブ・パワー』が最高傑作だという僕の主張を認めないだろうということも想像できるけど――。
でもね、このアルバムは間違いなく僕にとっても、ハードロック史上においてもやはり最高傑作だよ。そして、あなたが当時、“ブルースをベースにしたハードロックアルバムであり、自分自身のルーツに戻ることが出来たアルバムである” と語ったことを思い出して欲しい。
このアルバムがあなた自身に否定されるのはあまりにも寂しいよ、ゲイリー、そうでしょ。
子供頃からの憧れだったというサーモンピンクのストラトを持って、僕の前に現れたギターヒーロー「ゲイリー・ムーア」はブライトン郊外の小さな村の墓地に埋葬されている。出身地のベルファストではなく、ゲイリーが15年暮らしたその場所を選んだのは、今でもそこに住んでいる子供たちが理由だったらしい。
安らかにお眠りください。
2018.02.06
YouTube / Gary Moore Society
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