5月21日

80年代のゲイリー・ムーア、奇跡を共有した10年間を振り返る

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photo:UNIVERSAL MUSIC  

2011年2月6日に亡くなったゲイリー・ムーア。80年代にフォーカスしてゲイリーの活動を改めて振り返ると、とりわけ日本のファンにとって、それは特別でかけがえのない10年だったことが見えてくる。

70年代に多岐に渡るジャンルやバンドで天才ギタリストぶりを発揮したゲイリーは、80年代に入ると英国でのヘヴィメタルムーブメントに呼応するように自身初のハードロックバンド、G-FORCE を結成する。当時、日本未発売でアルバム1枚を残しただけだったが、HM/HR(ヘヴィメタル / ハードロック)のジャンルでもさらに注目を集めていった。

その後はレーベルとの契約問題に巻き込まれながらも82年にソロとして名作と呼び声高い『コリドーズ・オブ・パワー』(旧邦題『大いなる野望』)を創り上げ、発売されるや大ヒット。とりわけ日本では一躍 HM/HR のギターヒーローに踊り出た。サーモンピンクのストラトを愛器に、力強いピッキングが生み出す鬼気迫るトーンは、シングルコイルとは思えないダイナミックな歪みと究極の泣きを生み出し、そのギタープレイは神がかっていた。この頃のゲイリーはアルバムの邦題通り、「大いなる野望」をまだ抱いていたように思えてしまう。

83年には初来日も実現し、次作『ヴィクティムズ・オブ・ザ・フューチャー』が日本で先行発売されるなど人気が加速。本人の望みとは裏腹に代表的な HM/HR ギタリストとして祭り上げられ、音楽ビジネスの渦にも巻き込まれていく。

85年の「アウト・イン・ザ・フィールズ」では一時犬猿の仲だったフィル・ライノットとの再会が話題になった。また86年に本田美奈子への楽曲提供を行ったりとギタープレイとは離れた話題を振り撒いたのも、この時代ならではだ。

そんな状況下で、生まれ故郷のアイリッシュテイストを取り入れた『ワイルド・フロンティア』を87年に発表した時は、ミュージシャンとしてのアイデンティティを確認しているかのように映った。

89年には最後の HM/HR路線作『アフター・ザ・ウォー』をリリース。同年の来日公演は僕も観ていて感動的だったが、正直80年代初期のような気迫を感じることはできなかった。今思えば、ゲイリーの中では HM/HR ギタリストを演じる限界だったのかもしれない。

90年代に入り、グランジの波とともに HM/HR は音楽産業の中心から押しやられていき、偶然か必然か、時を同じくしてゲイリーも自身のルーツであるブルーズへの回帰を宣言。一時的なことでいつか HM/HR路線に戻るのではないか、という大多数の日本のファンの想いは結局叶わず、以降20年余りブルーズギタリストを全うしたまま、この世を去ってしまった。

彼の40年余りのキャリアの中で、純粋に HM/HR を演奏していたのはわずか10年ほど。それが80年代の10年間と見事にシンクロしているのは興味深い。

ゲイリーは80年代を振り返り、「自らのルーツにないジャンルの音楽をプレイし続けることは心地よくなかった」というようなコメントを残している。

しかし、ゲイリーのギタリストとしての魅力を最も身近に感じられるのが HM/HR というジャンルだったことは間違いない。それだけに、ブルーズを音楽的ルーツに持たない僕たち日本のファンが HM/HR ギタリストのゲイリー・ムーアをリアルタイムで共有できたことは奇跡だったし、そこに彼を導いた80年代という時代のチカラを改めて感じるのである。

今頃、ゲイリーは天国でブルーズギターを爪弾いているだろうか―― そして、80年代の日本での人気ぶりを思い浮かべながら「あの時代も案外悪くなかったな」と呟いてくれていたらと切に願う。

さて、僕が彼の命日に聴きたい1曲は、83年の初来日公演を収録した『ロッキン・エヴリ・ナイト(ライヴ・イン・ジャパン)』から「サンセット」。

ドン・エイリーのキーボードに乗せて静かに奏でられるこのヴァージョンは、呼吸するようなギタートーンが奇跡的で、思わず息を呑む。


※2018年2月6日に掲載された記事をアップデート

2019.02.06
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哭きのゲイリー、久しぶりに聞きました。
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1968年生まれ
中塚 一晶
毎年命日に聴くゲイリーは味わい深いものですね。
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