モータウンサウンドのポイント、ホーランド=ドジャー=ホーランド
皆さんはモータウンと言ったら、どんなサウンドをイメージするだろうか?
きっとシュープリームス「恋はあせらず(You Can't Hurry Love)」の、ベースが “ドッ・ドッ・ドー・ド・ドッ・ド・ドッ・ドー” となっているリズムアレンジではないだろうか。
そもそも、モータウンとは1959年にデトロイトに設立されたレコード会社のことである。デトロイトが自動車産業の中心地であり、即ち “Motor Town” であることからそう名付けられた訳だが、経営陣もスタッフも全員黒人の “黒人音楽を売るための会社” であった。そして、それまでにない制作体制やマーケティング手法でヒット曲を量産し、60年代に世界的ブームとなったことは皆さんご存知だろう。
山下達郎によれば、モータウンの全盛期は1964年~68年頃で、その時代に制作されたレコードのことを「モータウンサウンド」と称するそうだが、ポイントは2つある。
まず1つは、シュープリームスのリードボーカルであるダイアナ・ロスのキャラクター。もう1つは、ホーランド=ドジャー=ホーランド(ブライアン・ホーランド=ラモント・ドジャー=エディ・ホーランド)の3人組の作曲家チームの存在で、彼らが作り出す楽曲の色合いが最もモータウンサウンドらしいと言われている。
フィル・コリンズ 初のトップ10シングル「恋はあせらず」
とは言え、スモーキー・ロビンソン、マーヴィン・ゲイ、スティーヴィー・ワンダー、ジャクソン5… と錚々たるアーティストを輩出してきた中で、なぜシュープリームスの、それも「恋はあせらず」が僕たちにとってのモータウンサウンドとなったのだろうか。
私見ではあるが、モータウンの全盛期をリアルタイムでは知らない60年代以降に生まれた世代の多くにとって、初めてのモータウン体験はフィル・コリンズが「恋はあせらず」を忠実にリメイクしたカバーだったのではないか(1983年2月5日10位)。
これはホーランド=ドジャー=ホーランドの数あるカバーの中で最もヒットした作品であり、フィル・コリンズのソロで初のトップ10シングルでもあった。いずれにせよ、これによってモータウンサウンドが無事に次世代に引き継がれた、というのが僕の説だ。
ところで、ダリル・ホール&ジョン・オーツに「マンイーター」という曲があるが、これがまた「恋はあせらず」にそっくりのサウンドだった。前出のソングライター、ラモント・ドジャーは「マンイーター」の出だし数小節を初めて聴いた時、自分の曲のカバーだと思ったそうな。
Song Data
■ Phil Collins / You Can't Hurry Love
■ 作詞・作曲:Holland–Dozier–Holland
■ プロデュース:Phil Collins, Hugh Padgham
■ 発売:1982年11月19日
※2016年8月29日、2018年11月19日に掲載された記事をアップデート
2020.11.19