11月21日

ディズニーランドと脚線美の誘惑、まだまだ健在!スクェアの真実

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photo:SonyMusic  

1985年、夏――

その日僕は、初めて行く東京ディズニーランドへ軽快に車を走らせていた。車内には、自らセレクトした都会的でハイセンスな音楽が流れている。

愛車である「スズキ・セルボ」の助手席に佇んでいるのは、当時バンドを組んでいた一つ年下の女の子だった(後にバンド内で問題化したけれど、その話はまた別の機会に…)。

親に懇願して自分のものにしたセルボは、「軽ボンネットバン」と呼ばれるスズキ・アルト、ダイハツ・ミラとは違い、当時としては珍しくクーペの形体を取っていた軽自動車であった。販売価格を前面に出した CM が強烈な42万円のアルト(軽貨物車4ナンバー)より上位車種(軽乗用車5ナンバー)なのが、見栄っ張りの僕には何よりも自慢だった(笑)。そしてそれはまだ、ホンダが軽自動車再参入する直前の話だったりする(1985年9月にホンダ・トゥデイ発売)。

エアコンなしのセルボを、パワーウィンドウ(人力で窓をクルクル開ける行為を僕らはそう呼んでいた)で全開にして、自分で取り付けた外付けカーステレオ(安物だけど手動グラフィックイコライザーが付いていたのが自慢)から KENWOOD のスピーカーを通してガンガン流していたのが――

『脚線美の誘惑』という T-SQUARE(当時は THE SQUARE / ザ・スクェア)6枚目のアルバムであった。

またしても無駄な前置きが長くて申し訳ない。
今回は、このスクェアの記憶を辿ってみたいと思う。


話は少しさかのぼって、1978年――

前回、取りあげたカシオペアと同時期に活躍したグループでフュージョン小僧として避けては通れない… それがスクェアなのである。

デビューは1978年の『Lucky Summer Lady』。その後、年1~2枚のペースでアルバムをリリース。1979年ユーミン OLIVE ツアーのバックバンド、その翌年発売される4枚目のアルバム『Rockoon』には、あの山下達郎のサポートで唯一無二の存在だったドラムの青山純が参加するなど、スクェアは常に精力的な活動を重ねていた。ただ、実力がありながらメンバーの出入りが激しく不安定であったのは否めない。

僕が実際にスクェアの音楽を耳にしたのは1981年11月にリリースされた『MAGIC』というアルバム辺りからだ。ちなみに1曲目の「マジック」は「IT’S MAGIC」としてシングルカット。その後83年にジャズ歌手のマリーン(※注1)がカバー、清酒白鹿の CM 曲に採用されヒットした。

この81年のアルバムからベースが田中豊雪に変わり、翌82年、スクェアはドラムに長谷部徹、キーボードに和泉宏隆が加入した通算6枚目のアルバム『脚線美の誘惑』を11月21日にリリース。ここからがスクェア最初の黄金期であろう。

僕は、1983年に、スクェアのライブを観にいった。演奏曲目は、そのほとんどが「脚線美の誘惑」からだった。

あぁ、今でも鮮明に思いだす――

なにより驚いたのは、安藤まさひろが繰り出すギターの音が抜群にキレイなことである。ピッキングが超絶に上手いのだ。ミスタッチもない。レコードそのまんまなのである。演奏を聴きながら、カシオペアの野呂一生より弾く技術に関しては断然上と、つい思ってしまった(失礼)。

そしてベースの田中豊雪… 彼は当時、ベース界の大御所スタンリー・クラークで一躍有名になったアレンビックのショートスケールベース(80万くらい?)を使用していて、それを背中にのせて後ろ手でチョッパーしたり、歯で弦を引っ張って音を鳴らすパフォーマンスが有名だった。

ライブ会場では毎回客席に乱入して、群がるお客にベースを叩かせたり、その中のひとりをステージに引っ張り上げて代わりにベースソロを弾かせたりと無茶ぶりが激しく、僕が観たその日もやたらと盛り上がったのは言うまでもない。

ドラムの長谷部徹は堅実な8ビートドラマーで、派手さは無いもののソロは無茶苦茶上手かった。ジャニーズ事務所所属タレントの過去があり、その日確かにメンバー随一の色男だったのをこの目で確認した。1990年にアイドル歌手の甲斐智枝美と結婚したのだから間違いない。(※注2)

新加入してレコードデビューを果たした和泉宏隆は、当時始まったばかりの『笑っていいとも!』の音楽コーナー「私のメロディー」で “ピアノを弾くおじさん” としても有名だった。当日の会場でも「世界に広げよう、音楽の輪!」などと言って、観客を楽しませてくれた。キーボードというよりピアニストなイメージが強かったなあ。

バンドのフロントマンとしてリードする伊東たけし。ジャンプスーツに身を包んだ姿は常に格好よく、サックスを奏でる出で立ちも最高だった。

そしてそのライブ会場で、僕らはついに念願のリリコン(※注3)という楽器を目にするのである。アルバム『脚線美の誘惑』の1曲目「ハワイへ行きたい」が、なにより衝撃で、どう聴いてもシンセサイザーの音なのに抑揚溢れるサックスの雰囲気があって、その楽器がなんだか全くわからない…

当時は、簡単に映像を観ることができない時代だったし、僕ら高校生がコピーするには、このメロディー楽器にはどうにも太刀打ちできなかったのだ。このリリコンが発する音色の説明が難しいけれど、 F1 グランプリでお馴染みの「TRUTH」のメロディーが、まさにこれであると言えばご理解頂けるであろうか。

とにかく、この日のライブは僕の一生の財産である。同じものは二度とない。だからこそ一音も聴き逃すなんてできない… ライブとは、その時その瞬間に生きているということなんだ。

さて、その後のスクェアの活躍は目覚ましく、1984年のアルバム『ADVENTURES』から、サントリーの CM 曲として「TRAVELERS」がヒット。そして、アイルトン・セナ、アラン・プロスト、日本人初の F1 ドライバー中嶋悟などの活躍で一大ムーブメントとなったF1グランプリのテーマ曲「TRUTH」の大ヒットへと繋がってゆくのである。

メンバーチェンジを繰り返しながら、幾度となく訪れる解散の危機を乗り越え、今も活躍する日本のフュージョンバンドとしてスクェアはまだまだ健在だ。30年、35年、40年と、お祭りライブにおけるその人気こそ老舗グループの底力であり、魅力は常に積み重なり増え続けている… それが現在のスクェア、T-SQUARE なのだ。


さて、ここからは冒頭でお話した僕の愛車であるセルボの助手席の話に戻したい――

ディズニーランドからの帰り道、隣に座る彼女は白のホットパンツであり、まさに「脚線美の誘惑」なのである。

僕は、当然の如くムラムラといけない心が湧き上がってきて、「このままちょっとした関係になって、あんなことやこんなことが…」と、ベッドを揺らす妄想で頭がいっぱいになって油断したのか、首都高速を間違えて、環状線で池袋方面に向かうところを湾岸線に入ってしまった。普通右に行きたかったら右の車線だよね… まさか左車線から下をくぐって右方面に行くなんて18歳の僕には到底理解できなかったのだ。

そのまま勢い余って夜のドライブになってしまい、最終的に家まで送り届けることで精一杯。世紀の大失敗である。彼女とは今でも会ったりするのだけれど、この歳である。もはや笑い話にしかならない――

あの夜、なぜ彼女がその脚線美で僕を誘ったのか今でも聞けないでいるし、これってその後の人生を左右するほどの大事件だったのかもしれないと、ちょっと思っている。


※注1:
マリーン・ペーニャ・リム:フィリピン・マニラ出身のジャズ歌手。長きに渡り日本の芸能界、音楽界で活躍された。CF 曲、映画挿入歌など多数。

※注2:
アイドル歌手だった甲斐智枝美は長谷部と結婚後、芸能界を引退。家庭生活も順調だったと思われたが2006年に自殺。当時、長谷部は仕事がなく音楽業界から引退の危機でもあった。

※注3:
リリコンとは1970年代に米国で開発された電子楽器である。息遣いをセンサーで音に変換してアーティキュレーションを最大限に引き出すこの楽器は、繊細な演奏と引き換えにあまりに高額でセッティングが煩雑なこともあり、最終的にメーカーが倒産して製造中止になってしまった。しかし、YAMAHA が特許を買い取り、WX7 を開発。現在はウインドシンセサイザーと呼ばれている。


2018.08.07
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カタリベ
1967年生まれ
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