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【坂本龍一とサウンドトラック】名声を世界的なものにした大作映画とアカデミックな小品

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1月17日は坂本龍一の誕生日。日本を代表する偉大な音楽家は、存命であったなら74歳になっていたはずだ。坂本龍一の音楽作品は、現代音楽からテクノポップに至るまで幅広いが、中でもその名声を世界的なものにしたジャンルに映画音楽がある。ここでは坂本の代表的な映画音楽作品を振り返っていきたい。

最初に手がけた映画音楽は「戦場のメリークリスマス」


坂本龍一が最初に手がけた映画音楽は、大島渚監督の大ヒット作『戦場のメリークリスマス』(1983年)だ。ここでの坂本は、俳優としてもビートたけしやデヴィッド・ボウイと並んで出演。坂本が演じたヨノイ大尉は、当初沢田研二や友川かずき(現:友川カズキ)らにオファーがあったと言われているが、スケジュールの都合で実現せず、坂本龍一に出演依頼が来た。坂本は、映画の音楽を担当することを条件にこれを受ける。映画の撮影および音楽制作は、ちょうどYMOが活動を休止していた期間にあたっていた。

メインテーマ曲「Merry Christmas Mr. Lawrence」は、音楽ファンならずとも誰もが知る名高い曲となったのはご存知の通り。たった5つの音だけで、それがなんの曲か分かるというのは凄いことである。坂本本人は “東洋でも西洋でもない、どこでもないどこか” を表現したという。サウンドトラックはほぼ全曲がアナログシンセサイザーで演奏され、結果的に英国アカデミー賞作曲賞を受賞している。また、坂本は大島監督の遺作『御法度』(1999年)でも音楽を担当した。



日本人初のアカデミー作曲賞を受賞


坂本の名声を世界的なものにした作品が、イタリアのベルナルド・ベルトルッチ監督作品『ラストエンペラー』(1987年)である。清朝最後の皇帝で、後に満州国皇帝となった愛新覚羅溥儀の生涯を映画化したものだが、ベルトルッチはまず坂本に甘粕大尉役として出演をオファーした。その撮影中に劇中の音楽制作も依頼され、撮影終了後に正式にサウンドトラックを依頼されたという。音楽を担当したのは坂本のほか、トーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンと、中国人作曲家のスー・ツォン。

当初、坂本は『戦メリ』と同じように、シンセサイザーを用いた音楽を想定していたが、ベルトルッチに却下され、オーケストラに中国の伝統楽器・二胡を用いて美しい音色を聴かせている。また、ベルトルッチは編集を細かく頻繁に行うため、演奏時間が固定できず、坂本が電卓を片手に演奏時間を割り出す作業を行ったそうである。この作品は1987年度のアカデミー賞で作品賞、監督賞など9部門での受賞を達成しているが、何より坂本が日本人初のアカデミー作曲賞を受賞したことが話題となった。その後、ベルトルッチ監督の『シェルタリング・スカイ』(1990年)、『リトル・ブッダ』(1993年)でも音楽を担当している。



『戦メリ』と『ラストエンペラー』の曲は、坂本のライブアルバム『プレイング・ジ・オーケストラ』にも収録され、大友直人の指揮、東京交響楽団の演奏により披露された。特に、フルオーケストラで表現された「ラストエンペラー テーマ」や、溥儀と第二皇妃との別れのシーンで使われた「レイン」は素晴らしい完成度。この2曲は、後にリリースされるセルフカバーアルバムでトリオ編成やピアノ編成で演奏されており、それぞれに異なった表情を見せている。映画だけで完結するのではなく、さまざまな形で変貌していくのは、メロディーに確固たるオリジナリティと、演奏のバリエーションに耐えうる強度があるからであろう。



ブライアン・デ・パルマ監督「ファム・ファタール」でも音楽監督に


坂本龍一を複数の映画で指名した監督には、ブライアン・デ・パルマもいる。『キャリー』(1976年)、『アンタッチャブル』(1987年)、『ミッション:インポッシブル』(1996年)などのヒット作を持つブライアン・デ・パルマ監督は、1997年にニコラス・ケイジ主演のサスペンス映画『スネーク・アイズ』で坂本を音楽監督に起用。そして2002年の『ファム・ファタール』で再び坂本に音楽を依頼するが、これがなかなかに面白い出来なのである。

序盤、ヒロインのレベッカ・ローミンが1,000万ドルのダイヤを盗み出すシークエンスで延々と流れているのは、ラベルの「ボレロ」かと思いきや「ボレロ」にそっくりな楽曲で、しかもタイトルが「Bolerish」、すなわち “ボレロ風” という意味深なもの。デ・パルマ監督から ボレロみたいな曲にしてくれというリクエストを受け、坂本が怒って書いた曲だったという。

しかも、「Bolerish」にはどこかユーモラスな味わいが出ている。この曲がかかる宝石泥棒のシークエンスは、誰もがそんなに上手くいくわけがないだろうと思う展開なのだが、「Bolerish」のユニークな曲調が延々と流れ続けることで、緊張感があるはずの場面に、コミカルなテイストが加わっているのだ。ユーモラスな曲調がストーリーの破綻を誤魔化してくれる役割を果たしているようにも思えてしまう。それが監督の狙いだったのか定かではないが。




最後に手がけた映画音楽は是枝裕和監督「怪物」


こういった大作映画ばかりではなく、低予算作品、社会派の映画にも参加している。村上春樹原作、市川準監督による実験色の濃い『トニー滝谷』(2004年)では、主人公を演じたイッセー尾形の孤独に寄り添うような、ピアノの静謐な響きが印象に残る。坂本はスタジオにスクリーンを持ち込み、完成した映像を観ながらピアノで即興演奏しながら楽曲を作った。これはマイルス・デイヴィスが映画『死刑台のエレベーター』(1958年)のサントラを担当した際に行った手法で、本人も一度試してみたかったと語っている。

晩年は社会問題への関わりを強めていった坂本龍一だが、それを象徴する作品が、日本の公害問題に焦点を当てた『MINAMATA―ミナマター』(2020年)への参加だ。演奏に使用する楽器の年代にまでこだわり完成させた楽曲は、登場人物たちに寄り添うかのような穏やかで、厳かな音となっている。

坂本が最後に手がけた映画音楽は、2023年の是枝裕和監督『怪物』。是枝監督は長年、坂本に音楽を担当してほしかったそうだが、ようやく実現。しかし病魔に侵されていた坂本は、スコア全体を引き受ける体力がなく、ピアノ曲を2曲提出した。アカデミックな作風と、大衆性を併せ持つ坂本龍一の音楽は、その2つが両立可能な映画音楽というフィールドで開花したように思える。多くの名曲群は、これから先も長く、愛され続けることだろう。


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2026.01.17
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