4月21日

上昇気流に乗った最高傑作「モンロー・ウォーク」南佳孝 × 来生えつこ × 坂本龍一 

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“セクシー抜き” なのにセクシー、南佳孝「モンロー・ウォーク」


 つま先立てて海へ
 モンロー・ウォークして行く

この曲を初めて耳にしたのは郷ひろみの「セクシー・ユー」。1980年のヒット曲だ。

「ハリウッド・スキャンダル」あたりから大人の男の風情を醸し始めた郷ひろみが、セクシーという歌詞を歌うことに特に違和感はなかった。当時子供の私でもピンク・レディーの「渚のシンドバッド」でセクシーを連呼していたし、前年には「セクシャルバイオレットNo.1」という強烈な歌も聞こえて来ていた。まだ何をもってセクシーなのかという意味を考えたことすらない頃のことだ。

のちに、この曲のオリジナルが南佳孝6枚目のシングル「モンロー・ウォーク」だと知り、よくある異名同曲かと軽い気持ちで聴くことになるのだが、そこで大きな衝撃に遭遇する。サウンドが恐ろしくカッコいいではないか。そして、郷ひろみが、

 口説きおとしたい君
 素知らぬ素振りもセクシー

と歌っていた部分に、セクシーが無い…。

 口説きおとしたいのに
 スキもないね君は

だが、南佳孝が歌うこの “セクシー抜き” バージョンの方が、よっぽどセクシーなのだ。この頃には私も、セクシーとはどういうことかがわかる年頃になっていた。

シンガーソングライターとして乗りに乗っていた南佳孝


「モンロー・ウォーク」が収録されているのは、1979年、南佳孝4枚目のアルバム「SPEAK LOW」。ラテンやジャズをルーツとした曲調とダンディズム溢れる詞の世界観は、前作「SOUTH OF THE BORDER」でほぼ確立され、この「SPEAK LOW」では、歌声の固さも取れ、サウンド全体がより伸びやかでダイナミズムを感じさせる仕上がりとなっている。南佳孝29歳、シンガーソングライターとして乗りに乗っている直中の作品である。

南佳孝のヴォーカルを支えるのは、当時のトップミュージシャン達。軸となるのは、ドラム高橋幸宏、ベース小原礼の “黒船”(サディスティック・ミカ・バンド)コンビ。出だし2小節の終わりに休符が入るドラムのイントロは、ボズ・スキャッグス「LOWDOWN」にも劣らぬクールさだ。

そして、少ない音数でグルーヴの一端を担う鈴木茂のギター・カッティング。このタイトで抑制の効いたリズムがなければ、大人の恋の舞台は演出できなかっただろう。さらに、分厚いホーンセクションと計算されたストリングスが華やかなリゾート感を増す。在るべきところに在って欲しいものがある、美しく整った庭のようなアレンジは、当時27歳の坂本龍一によるものだ。

ファンカラティーナの要素をいち早く取り入れた坂本龍一の先見性


1979年の坂本龍一といえば、サーカス「アメリカン・フィーリング」で日本レコード大賞編曲賞を受賞。この「モンロー・ウォーク」と同様に、生音の美しさを活かした実にエレガントなアレンジである。

そこでふと思う。当時の坂本龍一は、一体いつ睡眠を取っていたのだろう。スタジオミュージシャンとしての活動と並行して、1977年には、大貫妙子「SUNSHOWER」を全曲編曲。1978年には自身のデビュー作「千のナイフ」とYMOのデビューアルバム「イエロー・マジック・オーケストラ」を発表。同年、先述の南佳孝「SOUTH OF THE BORDER」も全て坂本龍一による編曲である。そして、渦中の1979年には大作「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」を世に送り出しているのだ。デジタル脳とアナログ脳をこうも器用に使い分けられたら怖いものは無し、坂本龍一無敵の時代であったと言えよう。

また、今となって驚くのは、80年代初頭にロンドンで火がつくニューウェーブの一種 “ファンカラティーナ” の要素を、いち早く「モンロー・ウォーク」に取り入れている先見性だ。南佳孝の持ち味であるラテンのフレーバーを敢えてディスコビートに乗せ、ホーンセクションとギターのカッティングを加える。

時代の音であるはずのシンセベースは使用範囲を最小限に抑えることでその上品さを損なわずにいる。のちのラッツ&スター「め組のひと」や、中原めいこ「君たちキウイ・パパイヤ・マンゴーだね。」を牽引する重要な1作であろう。

作詞家として確固たる地位を築く登り坂に居た来生えつこ


そして最後に、忘れてはならないのが、“セクシー抜き” の確信犯、作詞家:来生えつこである。

男の目に映る “いい女” のディテールを描くことで、その傍らに居る男も “いい男” に違いないと思わせるテクニックは見事。あとは南佳孝が纏う空気感、その声と歌い回しがあれば、セクシーなどという直接的な表現はそもそも必要なかった… ということだろう。

この来生えつこもまた、1979年には作詞家として確固たる地位を築く登り坂に居た。1976年、弟・来生たかおのデビューとともにキャリアをスタートし、翌年しばたはつみ「マイ・ラグジュアリー・ナイト」のヒットで脚光を浴びる。80年代には、大橋純子「シルエット・ロマンス」、薬師丸ひろ子「セーラー服と機関銃」、中森明菜「スローモーション」「セカンドラブ」など時代の代表曲とも言える作品を連発。奇を衒う事なく繊細に描かれる恋の世界は、当時の歌謡界に落ち着きのようなものを与えていた。

デビュー曲を担当した中森明菜を、不良少女風な売り出し戦略の中から一歩大人の世界へと格上げしたのも来生えつこではないだろうか。1984年のシングル「サザンウィンド」を歌い上げる中森明菜は、まだあどけなさが残る表情の中に「モンロー・ウォーク」の女性が降臨したかのような妖艶さをチラリと見せた。「名前を聞きだしても 気を持たせてウインク」をした女性がそこにいるかのように…。

 誘惑しなれた男たち
 ホテルの窓にも声かける
 洗いたての髪なびかせて
 いたずらぎみに一瞬ウインクを
 危険かしらね

もしやこれも来生えつこの確信犯だったのだろうか。

1979年、それぞれの80年代に向けて上昇気流に乗っていた、南佳孝、坂本龍一、来生えつこの3人。その才能が瑞々しく結実し、贅沢なミュージシャンの起用によって生まれた「モンロー・ウォーク」。

ひとつ気になることがあるとすれば、2年後の1981年、坂本龍一が来生えつこ作詞によるこの曲を聴いた時にどんな顔をしたか… ということくらいだ。

作詞:来生えつこ 作曲:遠藤賢司
ツービート / 俺は絶対テクニシャン

 ピコピコ パコパコ スコスコ キンキン
 ピコピコ パコパコ スコスコ キンキン

 テクノ テクノと 草木もなびく
 シンセサイザー こねくりまわし
 機械相手じゃ つまらんだろよ


Song Date
■ モンロー・ウォーク / 南佳孝
■ 作詞:来生えつこ
■ 作曲:南佳孝
■ 編曲:坂本龍一
■ リリース日:1979年4月21日

参加ミュージシャン
高橋ユキヒロ(Drums)
小原礼(Electlic Bass)
鈴木茂(Electlic Guitar)
南佳孝(Vocal)
坂本龍一(Fender Rhodes, Synthesizer, Rhythm Arrange, Strings Arrange, Brass Arrange)
ペッカー(Percussion)
多忠昭アンサンブル(Strings Section)
数原晋(Trumpet)
岸義和(Trumpet)
羽鳥幸次(Trumpet)
新井英治(Trombone)
平内保夫(Trombone)
三田治美(Trombone)
岡田澄雄(Trombone)
ジェイク・H・コンセプション(Alto Sax)
村岡建(Alto Sax)
斉藤清(Alto Sax, Tenor Sax)
三森一郎(Baritone Sax)
砂原俊三(Tenor Sax)


2021.01.09
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カタリベ
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