幼い頃から坂本龍一が好きだった。 今回は、好きな人が創った音楽をきっかけに勉強しはじめたことってあるよね? というお話。 音楽の道に誘った叔父の CD ラックにあった YMO のベスト盤を持ち出しては、「ライディーン」をかけて踊り狂う、私はそんな高校生。ゲームサウンドにお囃子の笛のような音がピーヒャラピーヒャラ混ざった音楽は私の中のジャポニスムとオリエンタリズムを刺激し、電子音楽なのに聴いていると野性的な気持ちになった。 音大受験について調べているときに、メンバーの坂本龍一が東京芸大作曲科、大学院卒であることを知り、クラシックを学んでこんな最先端のポップスで活躍してる人がいるんだと私は深く感動した。後に坂本龍一がソロ活動でサウンドトラックを手掛けた名作、それが映画『戦場のメリークリスマス』である。まだ観たことがない人には、是非観てほしい一本。もちろん、同映画のテーマ曲もおススメだ―― “オリエンタルな響きと、耳に残るポピュラーさ、切なさと荘厳さが絶妙に混在し両立している” これが、私が感じる坂本氏の曲のイメージだが、それを本人の生ピアノ演奏で収録したバージョンが震えるくらい素晴らしい。「energy flow」よりも、この曲を仕事終わりにエンドレスリピートして癒されている。 こんな素晴らしい音楽に、デヴィッド・ボウイと坂本龍一とビートたけしが共演ってどんな映画だろう? 男性しか出て来ない女子が好きそうな映画? と気楽な気持ちで観ようと思った。 最初から後悔した。 当たり前だが戦時中の話… 美しい人物たちと美しい音楽の話ではなかった。 大島渚監督が「私がキャスティングしたのではなく、役者がこの作品を選んでくれて実現した」と語っていたように、ボウイ演じるセリアズ少佐がロバート・レッドフォードで、坂本演じるヨノイ大尉が沢田研二で、ハラ軍曹がたけしではなく、勝新太郎だったら全く違った『戦メリ』が出来上がっていたに違いない。 デヴィッド・ボウイが坂本龍一にキスするシーンや、坂本がボウイの髪の毛を切り取るシーンを観ることができる作品が他にあるだろうか。クリスマスに「ファーゼル・クリスマス」と言って、酔っ払って捕虜であるローレンスとセリアズを釈放するハラのかわいいこと――。 だから、終戦を迎え、戦時中は捕虜収容所で偉そうにしていたのに敗戦国の軍人として翌日処刑されることになったハラがローレンスに向かって呼びかけるラストシーンは本当に切なくやりきれない気持ちになる。 「メリークリスマス、メリークリスマス、ミスターローレンス」 そのまま「戦場のメリークリスマス(Merry Christmas Mr.Lawrence)」が流れてエンディングを迎えるのだが、涙なしでは受け入れられなかった…。 イギリス人捕虜のローレンスとセリアズは必ず「自分の命を第一にする」と主張をする。対して、ハラやヨノイは日本国のために命を差し出すことこそ美学。助けてほしいとは絶対に言わない。そんな原作を選んだ大島渚に拍手を贈りたい。 ミファミシミ〜♪ ミファミファラファミファミシミ〜♪ 私は一度聴いたら忘れないこの旋律を耳にするたび、ヨノイの苦痛に満ちた表情、セリアズのニヒルな笑い、ハラの助けを求めるような笑顔を思い出す。そして、『自分を大切にしよう』と思う。 ところで、もしヨノイが沢田研二だったら音楽は坂本龍一だったんだろうか? 今や教授や巨匠と呼ばれる人々の奇跡の共演だが、むしろ『神の采配』レベルだ。恐らく坂本龍一が音楽を作っていなかったら、私はこの映画を観ていなかっただろうし、「ちょっと戦争について考えてみようかな」とも思わなかっただろう。 アーティストに恋するって本当に素晴らしい。※2017年12月14日に掲載された記事をアップデート
2019.01.17
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