5月2日

Z世代に向けたロック入門ガイド【ニュー・オーダー】演奏が下手でも偉大なバンドになれる

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ニュー・オーダーのオリジナルアルバム8タイトルが再発


かねてから世界の音楽シーンをリードし続ける英国において、老若男女から当然のように愛される国民的バンド、ニュー・オーダー。もちろん世界規模でその立ち位置を不動のものとしているのであるが、そんな彼らを、前身であるジョイ・ディヴィジョンのヴォーカルにして絶対的な支柱であった、イアン・カーティスの自殺によって絶望の淵に立たされた悲劇から新たに生まれたバンドである、ということを切り口にその物語を始めること自体、もはやナンセンスなほどに今や伝説のバンドである。

だが、やはり結局のところ、そんな失意の底からの復活劇こそが、ニュー・オーダーの音楽を真に偉大に、唯一無二の存在たらしめていることは揺るぎない事実なのだ。 そんなジョイ・ディヴィジョンの残したアルバム全2タイトルと、ニュー・オーダーのオリジナルアルバム8タイトルのCDがワーナーミュージック「FOREVER YOUNG」シリーズとして、この度再発されるということで、この機会にニュー・オーダーの輝かしい足跡を振り返ってみたい。

Z世代の音楽ファンのためのニュー・オーダー入門ガイド


80〜90年代に黄金期を築いたバンドといえど、後世への多大な影響力ゆえ、この日本でさえ若年層のファンもそれなりに存在しているニュー・オーダー。とはいえ今の時代、レコードならまだしも、CDを買うZ世代の音楽ファンが果たしてどれくらいいるのかは謎だが、少なくともニュー・オーダーの偉大さを何となく理解しつつもまだちゃんと聴いたことがない、またどこから手をつけて良いか分からない、なんて層にはピッタリな企画ではなかろうか。それに合わせてこのコラムが新たなニュー・オーダー入門ガイドとして機能してくれたら幸いである。

彼らの音楽について想いを巡らせるたびに思うこと。私は普段からDJとして ”ニューウェイヴ” と呼ばれる、70〜80年代ロックの中でもクセモノな一ジャンル(ニュー・オーダーも一応そこに括られる)を後追い世代目線でプレイしたり、メディアで解説させていただく中で、やっぱりニュー・オーダーの音楽に触れた時のファンの反応は印象的というか、彼らの愛され方はちょっと別格だと気付かされる。

なおかつ、これはリアルタイムを追いかけていたファン層にとりわけ見られる現象だが、例えば同時代のクイーンとかU2のようなメジャーバンドとは違う、何か特別な思い入れがあり、時にはちょっとした執心めいたファンも多い。では彼らの音楽の何がそんなに特別なのか、何故これほど大きな愛着を抱かせるのだろうか?

代表曲は「ブルー・マンデー」


身も蓋もない話だが、ひとつにはニュー・オーダーの大きな特徴として、とにかく “演奏が下手くそ" であることが挙げられる。それはもう、世界中のビッグネームのバンドの中でも群を抜いたレベル。これにはどれだけ時代や音楽が進化しても、いつ、どの世代が聴いても同じような衝撃が得られるだろう。真面目に彼らの音楽性を語ろうと思えば、代表曲である「ブルー・マンデー」(1983年)の打ち込みのリズムが当時のロック界では聴いたこともないような革命だったと、リアルタイムのファンはみな一様に、このことを熱く話してくれる。




しかし、すでに “ニュー・オーダー以降” の音楽に馴染んでしまっている我々後追い世代としては、悲しいかな彼らと同様の感動を体験することはできない。代わりに “レトロなシンセの音とキャッチーなディスコに乗ったイカつい高音ベースの違和感が可愛い” みたいな感想だ。しかし、ギター/ヴォーカルのバーナード・サムナー(以下:バーニー)の頼りなく気弱で、しょっちゅう音程を外す歌声を筆頭に、自信過剰で半ば攻撃的だけどこれまたピッチが危ういピーター・フックのベース(しかもリードベース)、指1本で弾いているくせにたまに不協和音が聴こえるジリアン・ギルバートのシンセなど、特に初期のライブは見ている方がハラハラさせられるレベルで、演奏するだけで必死なのが生々しく伝わってくる。

今にも舞台袖に引っ込みたいとばかりに俯きながら目を瞑って歌い、手元を見ないとギターを弾けないバーニーを見ていると、相手はすでに成功しているバンドにも関わらずいつの間にかエールを送っている自分に気づく。そしてひととおり温かく見守ったあとは、決まってこう思うのだ。こんなに下手くそなのに、これほど偉大なバンドになれるのか… と。

後継のアーティストたちに大きな勇気を与えた “下手くそさ”


そもそもがメンバー全員、楽器を初めて1年ほどでジョイ・ディヴィジョンとしてデビューしてしまったという経緯があった。そして瞬く間に新たなシーンを築くまでに成長した大きな要因にはやはりイアン・カーティスの絶対的なカリスマ性があったのだが、彼を失って残されたメンバーは今後の方向性を決める際、誰もヴォーカルをやりたがらなかったのだという。それもそのはず、誰だってスターの後釜として比較されるのは荷が重過ぎる。

そこで仕方なくヴォーカルとなったバーニーは今では歌唱力も大きく成長。当然、他メンバーのライヴにおける演奏能力も初期よりは上がっている訳で、この辺もリアルタイムのファンからすると彼らの成長を共に見届けた特別感がきっとあり、バンドへの愛しさが増す所以であるはずだ。ただし、やっぱりまだバーニーの音痴ぶりは若干残っており、現在もなお自分自身をヴォーカリストだとは認めていない。




しかし、そんな下手くそさは後継のアーティストたちに大きな勇気を与えた。ニュー・オーダーを見ていると、楽器が苦手な自分でも音楽ができるかも… と思わせてくれる。音楽をやる上で最低限の常識と思われる演奏力すらも度外視した、新たな価値を提唱してくれたのだ。実際、彼らに大きな影響を受けたと公言している電気グルーヴの石野卓球も、1985年のニュー・オーダー初来日を観た際の衝撃をこう語っていた。”あまりに下手くそだから、本物のニュー・オーダーはマンチェスターで忙しくしてて、代わりに二軍のメンバーが来たのかと思った。でもそれが逆に、楽器ができなくてもプロのバンドマンになれるんだ、と希望を持たせてくれた” と。

“エレクトロニック+ダンス+ロック” というスタイルを確立


こうして、楽器ができなくてもプロのバンドマンになれた背景にはもちろん、卓越したキャッチーな作曲能力もあるのだが、その心許ない歌声をカバーするように試行錯誤を重ねた録音技術が生んだクリアなビートと、最先端のテクノロジーを駆使したプログラミングの斬新さによるところが大きい。

1981年、まだジョイ・ディヴィジョンのダークな音楽性をひきずったファーストアルバム『ムーヴメント』のツアーでニューヨークを訪れた彼らは、そこでイタロ・ディスコやエレクトロ・ヒップホップ、ミュンヘン・ディスコ等の洗礼を受ける。そもそもがこの当時、イアンへの喪失感から苦悩の日々を送っていたメンバーは、自らを奮い立たせるため、皆でよく陽気なイタロ・ディスコを好んで聴いていた。そこで、ニューヨークの自由で開放的、様々なジャンルの音楽を縦横無尽にプレイするアーティスティックな雰囲気とともに肌で感じた彼らは、この空気感を自分たちの音楽性に取り入れるため、独学でプログラミングに取り組むのである。

このアイデアが結果的に “エレクトロニック+ダンス+ロック” という、その後のニュー・オーダーのスタイルを確立。同時に、これはバンドにとってメリットだらけの挑戦となった。『ムーヴメント』の頃まで残っていたジョイ・ディヴィジョン時代の冷たく、陰鬱な音世界から大きく変化を遂げる突破口となり、また歌いながらギターが弾けないバーニーのために音数も減らせるという、まさしく必然の方向転換だったと言えよう。

ニュー・オーダーの本質がストレートに表れた「ブルー・マンデー」


このダンススタイルは1981年のシングル「エヴリシングス・ゴーン・グリーン」で初めて導入。私も一番好きな曲だ。そして1983年の大ヒット「ブルー・マンデー」にて結実することとなる。現在もなおダンスフロアの揺るぎない定番であるこの金字塔ディスコソングは、イアン・カーティスが自殺した月曜日のことを歌っている。



曲の要である特徴的なリズムトラックを除けばメロディラインは暗く憂いを帯び、“君がしたようなことを俺がしたら、君はどう思う?” と淡々と歌うバーニーの声にやりきれなさが漂う。そこに、わざとらしく対照的にチャラチャラした16分で連打するバスドラムがなんとも皮肉っぽくノリノリなリズムを刻むのである。この曲がフロアでかかるたび、何のことを歌っているのか知る由もなく踊りまくる人たちを見ていると、なんとも奇妙で悲痛な気持ちに駆られるものだが、しかしこれこそがある意味ニュー・オーダーの本質がストレートに表れた1曲だとも思っている。

ジョイ・ディヴィジョン時代を想起させる陰鬱なメロディに、新たに確立したばかりのニュー・オーダーのダンススタイルを同居させる混沌としたこの曲に、イアンの幻影をそっと心に秘めつつも新しい路線を進もうという、過去からの卒業、決意表明のようなものを感じてしまうのだ。

そしてこの「ブルー・マンデー」のヒットによるニュー・オーダー旋風が巻き起こっている真っ最中の1983年5月、同じく彼らの代表作と謳われるセカンドアルバム『権力の美学』がリリースされる。このアルバムにおいて全篇を通して展開された "ダンスロック" スタイルにより、今日におけるニュー・オーダーのイメージがいよいよ決定づけられた記念碑的アルバムである。

ニュー・オーダーが草分けとなり、彼らの代名詞となったダンスロックは、今日の音楽界で当たり前のように受け継がれているスタイルの起点である。それはニューウェイヴ以降のインディロックだけでなく、デトロイトテクノやエレクトロニカ、プログレッシヴ・ハウスなど、枚挙に暇がないほどその影響は多岐にわたる。いかにニュー・オーダーのサウンドが当時の世界に衝撃をもたらしたかが分かる。

「ブルー・マンデー」のリフがメインに引用された「シャット・アップ・アンド・ドライヴ」


ここでひとつ、少し意外な “ニュー・オーダー使い” の1曲を紹介したい。先の「ブルー・マンデー」をサンプリングした例で、2000年代初頭から世界のトップを爆進し続ける歌姫、リアーナが2007年にリリースした「シャット・アップ・アンド・ドライヴ」だ。この曲でニュー・オーダーの4人は作曲者としてクレジットされており、「ブルー・マンデー」のリフがメインに引用されている。



この曲にはわりと思い入れもあり、自分にとって思春期真っ只中リアルタイムの曲で、これが収録された大ヒットアルバム『グッド・ガール・ゴーン・バッド』のCDも買ってヘビロテしていたが、当時はニュー・オーダーの存在をまだ知らなかった。だがアルバム中で最も気に入っていたのがこの曲で、後から「ブルー・マンデー」の引用と知った時はミッシングリンクが繋がったような感動を覚えたものである。

しかしこれは言われないと気づかなかったのが正直なところ。それまでも「ブルー・マンデー」をサンプリングした例は多数あるが、どれもシンセの打ち込み主体のテクノポップであり、一方「シャット・アップ・アンド・ドライヴ」は原型を留めつつもかなり変化球なアレンジがなされていて、まさにニュー・オーダーのDNAが時を経て変異した例である。

その音作りはギター主体で、打ち込みの出番はソリッドに音数を抑えたリズムトラックのみ。リリースされた当時は歌詞の軽薄さもあり、批評家からは賛否両論あったそうだが、個人的には2000年代のロックを鳴らしつつも80’sディスコの空気感もきちんと漂わせているし、なかなかに興味深いニュー・オーダー使いなんじゃないかと思っている。

全く新しい世界線を作ってしまった奇跡のバンド、ニュー・オーダー


こうしてニュー・オーダーはデビューして40年を経た今も、衝撃の感じ方は当時と違えど(というより “多様化” したと言える。それ自体、稀有なことではないだろうか)、今なお強烈な個性と影響力を放ち続けている。もちろん “下手くそさ” など色々なツッコミどころも含め、バンドという概念における新基軸の提唱者となったのである。

多くのバンドはフロントマンという大黒柱を失ってもそれまでと同じ路線を保ち続けるが、ニュー・オーダーが偉大になり得たのは、ジョイ・ディヴィジョンという過去の栄光と決別し、その悲劇と苦悩を糧に全く新しく生まれ変わったことに他ならない。その時のメンバーの不安は相当なものであったはずだが、やはりそこは彼らの結束力と勇気が証明してくれた。彼らは復活すると同時に、その斬新なダンスロックという音楽性をもって、ニューウェイヴというムーヴメント以降の全く新しい世界線を作ってしまった奇跡のバンドでもある。

いつの時代も、遺されたものがシビアな世界で生き残るには新たな方向性を示さなくてはならない。今はピーター・フックが脱退してしまって久しいが、そう考えるともう一度、オリジナルメンバーで再始動してほしい気持ちが捨てきれない。叶わない夢なのは分かっているのだが… 。

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2024.07.02
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カタリベ
1990年生まれ
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