8月8日

チェッカーズが攻めた!新しい音楽への挑戦「OOPS!」ハウスミュージックに急接近!

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これまでのバンド・サウンドを大きく覆す「OOPS!」


1990年8月8日に発表された、チェッカーズの通算8枚目のアルバム『OOPS!』は、これまでのバンド・サウンドを大きく覆す内容となった。

前作『Seven Heaven』で、バンドとして一つの完成形を見た後、1年あいての最新作。アレンジは1曲を除き、THE CHECKERS FAM.の名で、メンバー自身が行っているが、コンピューターの打ち込みによる音作りに挑んでおり、この頃から台頭してきたハウス・ミュージックを取り入れたものとなっている。

ハウス・ミュージック自体は70年代前半のフィリー・ソウルや70年代後半のサルソウル・レーベルを源流に誕生したダンスミュージックで、日本では80年代終盤からクラブシーンの活性化により、89年にオープンした芝浦GOLD、91年にオープンした西麻布YELLOWなどの人気クラブでハウスが注目されるようになる。あの当時、六本木や西麻布界隈で夜な夜な遊んでいたという藤井郁弥(現:藤井フミヤ)らメンバーたちは、そうしたフィールドワークによって、音楽トレンドの最先端を肌感でキャッチしていたと思う。

1990年前後は、ベテラン・中堅アーティストもそうした音作りに向かおうとしていた。誰もが知るヒットチャートの常連アーティストでは、チェッカーズより早い例として、小泉今日子が近田春夫と組んで89年5月21日に『KOIZUMI IN THE HOUSE』を発表。松任谷由実も翌91年末のアルバム『DAWN PURPLE』ではやはりハウスを導入している。



チェッカーズのアルバムでは最多の12曲を収録


また、この時期はアナログ盤からCDへの移行期で、チェッカーズも前作『Seven Heaven』を最後にアナログ盤は制作されなくなり、本作からはCDとカセットのみのリリースとなった。そのため曲数もチェッカーズのアルバムでは最多の12曲を収録。また、結果としてシングル曲を一切含まないアルバムとなった。

アルバム全体を繋いでいるのは、「OOPS!」というインストの楽曲である。打ち込みのドラムとサックスのみで構成された曲で、これが3分割され、1曲目「ACID RAIN」の冒頭に「OOPS!・X」、5曲目「Gold Rush」の後に「OOPS!・Y」、9曲目「Kiss」の後に「OOPS!・Z」として配置された。3曲を繋げると1曲の「OOPS!」という楽曲になる、という仕掛けである。サウンドがアルバム全体のコンセプトを決めているのは、チェッカーズでも初の試みであり、その冒険がこうした発想を生んでいるのだ。

「夜明けのブレス」とシングル候補を争った「100Vのペンギン」


1曲目「ACID RAIN」はリーダー武内享と郁弥の共作詞で、大土井裕二の作曲。アレンジはこの曲のみ富樫春生が参加しており、動きのないメロディーに、スクラッチ音を多用したアレンジ、藤井尚之のバリトンサックス、独特のクセのあるヴォーカルをより強める形で歌われた郁弥のヴォーカル、そして当時社会問題となっていた酸性雨について書かれた歌詞もメッセージ色の強いものとなっている。これを冒頭に持ってきたところに、これまでとは違う意気込みを感じさせた。

こうした作詞面での批評性は、「100Vのペンギン」にも表れている。タイトルは「日本人」のことで、先の戦争での日本を歌った反戦的な内容ではあるが、今聞くと、バブル絶頂期、飽食時代の日本が、その後辿る道を予見していたかのように聞こえてくるのが妙味。この曲が「夜明けのブレス」と23曲目のシングル候補を争ったという。

初めてラップが導入された16ビートの高速ファンク「M-3」


アルバム2曲目の、武内作曲によるパーカッシヴなラテンビート「See you yesterday」と3曲目の大土井作曲による16ビートの高速ファンク「M-3」はメドレーになっており、DJ的なプレイスタイルを思わせる。前者は武内がよく足を運んだ芝浦GOLDからの帰宅後に作った曲だそうで、後者では初めてラップが導入されている。

鶴久政治作曲の「危険なNO.5」でも、パーカッションの音をバックにエロティックなメロディーラインの上を、たゆたうように歌う郁弥のヴォーカルが一層セクシーで、かつ都会的な印象を与える。チェッカーズ得意のセクシー路線だが、同様に鶴久がリードヴォーカルの「Call Up Paper」は、召集令状という意味で、若い水兵が、戦争に駆り出されるので明日死ぬかもしれないから、ぜひ…と女性に懇願する楽曲。戦争の突撃とダブル・ミーニングになっているところが楽しい。これをストーンズ的なニュアンスも感じられるメロディに乗せているのがまたユニークで、男っぽさを強調する。

高杢禎彦がヴォーカルをとる「Gold Rush」では声にエコーをかけ、曲調は正統的ながら、これまでの高杢ヴォーカル作品と異なる印象を与えている。また、後半に行くほどハウス色は薄くなるが、「Kiss」のようなほのぼのしたナンバーもあれば、鶴久作曲の「One more glass of Red wine」も、初期から続くロッカバラードだが、後半に仕掛けを試みたり、とろけるような音色のサックスが印象深い「眠れるように」は3拍子のメロディーながら武内のギターだけは5拍子を刻んでいるなど、凝った作りの作品も多い。

トレンドの吸収と新たな音楽ジャンルへの挑戦、必然的に生まれた「OOPS!」


そしてエンディングは作曲者の郁弥自身がピアノ1本で演奏するバラードインスト「初恋」。当時は急激なサウンド面の変化に、戸惑ったファンも多かったという。チェッカーズのアルバムにしてはラブソングの比率が低いこと、シングル曲が未収録であることも、その要因だろう。全体に不穏なメロディーとサウンドの楽曲が多く、その後のバブル崩壊を予見するかのような日本全体の空気感を先取りしている印象もある。ファンが共感できるナンバーより、今、自分たちが歌いたいこと、演奏したいことを優先した、そんな作品に思えるのだ。

トレンドの吸収と新たな音楽ジャンルへの挑戦という、バンドが必ず通過する道を、チェッカーズもまた歩み、その過程でこの尖った音作りとなったのだ。『OOPS!』は彼らのキャリアの中で、突然変異的に現れたのではなく、必然的に生まれたアルバムだったのである。

特集:THE CHECKERS 40th ANNIVERSARY

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2023.10.02
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馬飼野元宏
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