11月14日

中森明菜「飾りじゃないのよ涙は」井上陽水が手がけた至高のアイドルポップス

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photo:Warner Music Japan  

中森明菜、同期を飛び越え松田聖子のライバルに!


最初に白状してしまうと、ずっと聖子派だった。17歳になったばかりの中森明菜が、テレビで「少女A」を歌うのを見ていた自分もそのとき17歳。成熟度合いに大きな差がある年頃であり、まだまだガキな男子に対して、女子はもうだいぶ大人だった。そんなコから、女の子のこと知らなすぎるとか言われたら、中学~高校と男子校で過ごしてきた自分は身構えてしまい、一歩引くしかなかった。それよりも、デートの最中に時計をチラッと見るだけで泣きそうな気分になってくれる3つ年上のお姉さんの方に居心地のよさを感じたのだ。本当はそっちの方がずっとあざといなどとは思いもよらずに…。

真面目な話、明朗アイドルポップス好きだった高校生の自分にとって、最高すぎる存在の松田聖子がいたからこそ、2年遅れてデビューした中森明菜の魅力に気づくにはずいぶん時間がかかってしまった。それでもデビュー曲「スローモーション」から、シングルは出る度にちゃんと買っていたのだけれど。

同期の新人、松本伊代、早見優、石川秀美、小泉今日子らが、デビュー時の春先から歌番組でしきりに紹介されていたのに対して、中森明菜がセカンドシングル「少女A」で『ザ・ベストテン』と『夜のヒットスタジオ』に初出演を果たしたのは9月のこと。ライバルたちにやっと追い付いた感じだったが、そこから怒涛の快進撃が始まる。同期を飛び越えて先輩・松田聖子のライバルと召されるまでにはさしたる時間を要さなかった。

「飾りじゃないのよ涙は」井上陽水の仮歌の素晴らしさでシングル化


「セカンド・ラブ」「1/2の神話」「禁区」などヒットを重ねる姿を見ながら、楽曲と歌唱力の素晴らしさは理解しつつも、なぜかすぐにその世界へのめり込むことが出来なかったのは、歌手として隙のなさ過ぎる姿を見せつけられていたせいだろうか。かつての名横綱・北の湖の活躍ぶりを素直に認められなかったのに通ずるものがある。

それでも、1984年元日リリースの「北ウイング」で、林哲司による抑揚の効いたメロディを完璧に歌い上げる中森明菜には猛烈に惹き付けられた。さらに「サザン・ウインド」「十戒(1984)」を経て、同年11月14日リリースの「飾りじゃないのよ涙は」で完全にノックアウトされたのである。

この曲はもともとアルバム収録曲として用意されていたという。作詞・作曲の井上陽水がオケ録りの際に吹き込んだ仮歌の素晴らしさからシングル化が決まったらしい。リリースの約2週間後には『ザ・ベストテン』にも初ランクインし、折しも「いっそセレナーデ」をヒットさせていた井上陽水とのスタジオ対面が叶った。

「飾りじゃないのよ涙は」は10週にわたってランクインし、12月13日の放送では、チェッカーズ「ジュリアに傷心」と競り合った末に1位を獲得している。同時期の松田聖子は、佐野元春が供した「ハートのイアリング」を歌っていた。

「BITTER AND SWEET」ではニュー・リミックス・ヴァージョンを収録


『夜のヒットスタジオ』での、井上陽水、玉置浩二とのコラボレーションによるパフォーマンスも白眉であった。安全地帯の「恋の予感」も並行してヒットしていたのだ。

作者の井上陽水によるヴァージョンは、それから1週間後に出されたセルフカヴァー・アルバム『9.5カラット』に収録された。中森自身のアルバムは、1985年4月3日リリースの『BITTER AND SWEET』にニュー・リミックス・ヴァージョンが収録される。

ほかにも、EPOの作詞・作曲による「ロマンティックな夜だわ」、角松敏生の「UNSTEADY LOVE」、吉田美奈子の「APRIL STARS」などサウンドが重視された秀逸な作品群に、脂の乗り切ったヴォーカルが冴え渡る。聴く前からジャケットのビジュアルの美しさに惚れ込み、リリース日に迷わず買い求めたアルバムだったが、実際に針を落として内容の素晴らしさにも魅せられ、個人的には中森明菜の最高傑作だと信じて疑わない。

中森明菜と松田聖子が切磋琢磨していた時代の “至高のアイドルポップス”


1985年は「ミ・アモーレ」がその年のレコード大賞受賞曲となったほか、「SAND BEIGE -砂漠へ-」「SOLITUDE」とヒットが連なり、1986年の第1弾シングルとなったキャッチーな「DESIRE -情熱-」では、レコード大賞2連覇の大活躍。結婚・出産で休養に入っていたライバル・松田聖子が不在だった歌謡界をしっかりと支えている。以降の作品も高い評価を得ているが、万人向けの歌謡曲は「DESIRE -情熱-」までで一区切りと感じる。

もはやアイドルでなくなった中森明菜は別のステージへ行ってしまい、それと対照的に松田聖子はアイドルの道を邁進していった。井上陽水との幸福な出逢いから誕生した「飾りじゃないのよ涙は」は、よきライバルだった二人が、同じ土俵で切磋琢磨していた最良の時代の最終ターンで世に送り出された、至高のアイドルポップスであったと、つくづく思わされるのである。



2021.05.10
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カタリベ
1965年生まれ
鈴木啓之
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