ライブを捨ててスタジオワークに専念したXTC
今から40年前の1982年2月12日、XTCのアルバム『イングリッシュ・セツルメント』がリリースされた。
XTCは、本作リリース後、ほんの少しライブ活動を行ったものの、以降はライブを全く行わないスタジオバンドとしてのキャリアを歩み始めている。
レコーディングの時点では本作をライブ演奏で再現することも前提としてあったのだろうが、中心メンバーのアンディ・パートリッジは、おそらくライブ活動へ前向きに取り組もうとする意欲は無くなったおり、そんなことからもスタジオワークや音作りに拘り抜いて作り上げた作品であり、その結果としてアナログ盤2枚組というボリューム満点の大作としてリリースされた。
XTCは、前作『ブラック・シー』においてポップセンス抜群でありながらも捻くれたメロディーを攻撃的で勢いのあるビートにのせることで、単なる直情型のパンクバンドではないところを見せつけてくれた。そして、その破壊力抜群のドラムの音作りを担っていたのが、プロデューサーのスティーブ・リリー・ホワイトとエンジニアのヒュー・パジャムだ。彼らによって作り出されたゲートリバーブという独特なサウンドは、ドラムの残響音をバッサリとカットすることで、ビートの粒立ちと輪郭をクッキリとさせ、硬質なビートを手に入れたのだ。
モダンポップの理想形「イングリッシュ・セツルメント」
こうした時代の最先端の音を獲得したXTCだが、本作『イングリッシュ・セツルメント』では、ゲートリバーブの一点突破ではなく、もっと複雑なビートとリズムを多用し、ドラムの音色への拘りよりも、ビートやリズムの組み立て方そのものが複雑なものに変わっており、ワールド・ミュージック的なリズムの導入が図られている。また、ビートの大きな変化は曲作りや他のアレンジにも影響をもたらしている。
ソングライティングについては、さらに複雑で捻くれまくったメロディーを奏でるようになってきたし、ギターについてもアコースティックギターが大幅に導入されている。キーボードも楽曲全体のバランスを整えることに重点が置かれるように変化してきている。
こうした変化はアルバム全体で1つの作品を作り上げる意識をも強め、コンセプトアルバムとまではいかないにしても、70年代後半の初期パンク出身のバンドとは全く思えないモダンポップの理想形とも言える大傑作を作り上げることに成功したのだ。
偏狂ポップマニアの面目躍如?
XTCは、この後も英国箱庭ポップの名作『スカイラーキング』やサイケ期のビートルズのパロディのような『オレンジズ・アンド・レモンズ』、ストリングスが鳴り響く中を変幻自在のポップメロディーがアヴァンギャルドに動き回る『アップル・ヴィーナス Vol.1』等ひと癖もふた癖もあるアルバムを作り、その度に世界中のXTCマニアをニンマリとさせている。
こうしたポップ求道者的な創作姿勢はアンディ・パートリッジの偏屈な性格に起因するところが多いと思うのだが、それに付け加えて、ライブ活動を行わなくなったことが、直接的かつ大きな原因であることは間違いないだろう。
聴き応え満点の大傑作! ジワジワ効くポップなエクスタシー
2022年、ロックバンドはライブ活動を行うことが、なかなか厳しい時代に突入している。計らずもXTCは、40年前に自らの選択でライブ活動を放棄し、レコーディングにバンドの活路を見出した。
XTCがそれ以降に歩んできた道程は商業的に大成功を伴うものでは決して無かったけれども、世界中のポップマニアを唸らせる最上級の傑作アルバムを何枚も作り上げている。
こうした作風への第一歩を踏み出したアルバムが『イングリッシュ・セツルメント』であり、本作は徹底的に音の細部にまで拘って作り上げられた聴き応え満点の大傑作である。
しかし、ポップミュージックとしての即効性があるとは言い難く、むしろ、聴き込むことで、だんだんと耳に馴染んでくる作風であり、繰り返し聴くうちに、気付いたときには中毒になっているという作品なのだ。
ある意味、気持良くなるまでは我慢が必要な音楽なのだが、そこは我らリマインダー世代の中高年! サウナで汗を流すような気分で、積極的に我慢を楽しもうではありませんか!
だって、我慢した後にはとてつもないエクスタシーが待っているのだから…
そして、このエクスタシーはリリースから40年経ってもシラフにならない最上級のブツであることは、私、カタリベ岡田が保証させて頂きましょう!
追記
私、岡田浩史は、クラブイベント「Sweet Thing」(阿佐ヶ谷 caffeine / 偶数月第一火曜日)で DJとしても活動しています。インフォメーションは私のプロフィールページで紹介しますので、併せてご覧いただき、ぜひご参加ください。
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2022.06.17