1980年代に入って1.2年も経つと、音楽とCMのタイアップは、早くも曲がり角にさし掛かる。あまりに巷にCMソングが出回り過ぎたためである。CMソングでオリコン年間シングルTOP50入りした数が、80年には17曲にも及び、81年頃には既に音楽のメディア展開としても、広告手法としても(飽きられ始めていた、とまでは云わないが)新鮮味が薄れていたのは事実だろう。
おりしも80年にフジカラーの広告コピー「美しい方はより美しく、そうでない方はそれなりに写ります」が流行語になったが、「それなりの大物で、それなりの曲で、それなりの露出をすれば、それなりにヒット…」は、もうしなくなっていた。CMタイアップには目新しさが必要となってきたのである。
そんな状況下の82年の元日にリリースされたのが、カネボウ春のCMソング「浮気な、パレットキャット」であった。例年の春の化粧品キャンペーン曲としては、かなり早い発売である。前年の「春咲小紅」が2/1発売だから、1ヶ月も前倒ししての登場である。歌うは仙台出身のバンド、ハウンド・ドッグだ。まず東北地方で人気爆発、さぁこれから東京で名を挙げるぞ、という勢いがみなぎっていた。
バンド同様にカネボウも、新商品の投入に意気込んでいた。『レディ80メイクアップコレクション』という商品で、業界初めての磁石式パレットメイク化粧品。メイクアップの主要四品目(ファンデーション、ほほ紅、アイシャドウ、口紅)と専用の化粧小物を、好み・目的・予算に応じて自由に組み合わせて 1つのパレットにセットできる画期的な商品であった。
そんなキャンペーンソングは、お好みで自由に「浮気な」「パレット」を作れる面白さ、その商品コンセプトを見事に歌詞にした作品となり、オリコン週間19位、13万枚を超えるセールスを記録。ハウンド・ドッグにとっても、初のシングルヒットになった。
対する資生堂も、今までにない大胆なイメージを打ち出した。2/14のバレンタインに合わせて発売されたキャンペーンソングは、忌野清志郎+坂本龍一「い・け・な・いルージュマジック」。曲調はいつものRCサクセション節なのだが、その見た目が人々の度肝を抜いた。「男が化粧する」のをここまで大ぴらにメディアで表現したことは無かったからだ。
広告モデルの津島要からしてが刈り上げで中性的だが、音楽パフォーマンスにあたって坂本龍一はデヴィッド・ボウイをはじめとする英国ニューウェイブ(デュラン・デュラン、カルチャー・クラブが代表)のビジュアル戦略をいち早く取り入れた。「男が化粧なんて…」という風潮をあざ笑うかのように、この歌はオリコン週間1位、年間20位の大ヒット。後の国内ビジュアル系バンドにも影響を与えることになる。
そして、もう一つ、私が考えているのは、この曲が日本での「LGBTの潜在的ニーズ」の掘り起こしに一役買ったのではないか、ということだ。とくにゲイの人々はコスメ消費のオピニオンリーダーでもある。かのフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドが「リラックス」で鮮烈なデビューをするのは、それから1年ほど後である。
(つづく)
2016.12.15
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