8月20日

名曲「オンリー・ユー」英国出身のエレクトロポップデュオ、ヤズーの魅力とは?

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男女2人の相反する魅力、ヴィンス・クラークとアリソン・モイエ


残念ながら、今日本でほとんど耳にすることがないのだが、1983年の冬に全英で5週連続1位という大ヒットシングル、フライング・ピケッツの「オンリー・ユー」。アメリカではチャートインしなかったので日本において馴染みが薄いのかもしれない。ただイギリスでは、そのシンプルなメッセージと美しいメロディーに加え、それまでアカペラグループがトップに輝いたことがなかった物珍しさもあって大ヒットした。

その印象が強いのか、その前年に全英2位に輝いた本家ヤズーのオリジナル版を忘れがちだが、改めて今聴いてみるとボーカル、アリソン・モイエの心地よいブルージーなロートーンボイスと、デペッシュ・モード脱退直後のヴィンス・クラークのエレクトロニカというアクの強い相反する存在感がすごくかっこいい。

ただ、当時中学生だった私がヤズーが好きだったかというと、残念ながらアリソンにしろヴィンスにしろ、そのとんがった感じが受け入れられずファンになることはなかった。アリソンのメイクはまるで女子プロレスラーだったし、ヴィンスもトサカがヤバかった…。今にして思えば、それは大葉やミョウガが異物に感じられる子供の味覚と同じ感覚かもしれない。今は大好きだけれど子供の頃苦手だったものがたくさんあって、そのおいしさが理解できなかったことに残念さ半分、進化に万歳が半分といったところか。

ヴィンスの魅力は「ドント・ゴー」や「ジ・アザー・サイド・オブ・ラブ」を聴けばわかるとおり、イントロのキャッチーさ、そしてアップテンポなのにイギリスの曇り空のようにどことなく寂しさが漂う雰囲気。そこにアリソンのアルトボーカル。目覚ましいヒットをいくつか飛ばしたものの、1983年のデビュー3年目であっさり解散。その後、アリソンはソロで、ヴィンスは多くのバンドで活躍している。

最近のインタビューでアリソンは「当時は何もわからないままに一気にヒットしてしまったけれど、レコード会社が欲しているものをもう作りたいと思わなくなった」と語っている。そして同じくそのインタビューの中で「その時歌いたい感じで歌っている」と、彼女の長年のキャリアの中での歌うスタイルの変化についても語っていて、自分の変化に柔軟に対応できる姿がとても好ましいシンガーの一人だ。

ファッションショーとライブの融合「バーバリー・アコースティック」


さて、アリソンは2015年にバーバリーの『2016年春夏コレクション』でライブパフォーマンスを披露している。会場はピーター・パンの銅像が有名な広大な公園ケンジントン・ガーデンズ。気持ちよく晴れた空に響くクラシカルなアレンジの「オンリー・ユー」。それはオリジナルとはまた別の新しいステージとなり、バーバリーのイメージとも重なる絶妙なコラボであったと思う。ちなみに、このときのアリソンの出で立ちは、バーバリーだけに黒のトレンチコートに身を包み、シックだけどボタンホールが金色でとがっている。そんなところがアリソンらしい!

バーバリーは、言わずと知れたイギリスのハイブランドの一つで、ブランドのアイコンであるトレンチコートを筆頭に、21世紀に入ってからはネット販売をいち早く取り入れるなど革新的な経営方針に乗り出し、伝統と革新の二本柱で売上を伸ばしてきた。日本ではサンヨー商会との契約を破棄しオリジナルのハイブランド精神を貫く方針に転換した。

最近では2018年にファッション業界のタブーに斬り込んだ “売れ残り廃棄中止” なども発表し、高嶺の花であり続ける勝負に果敢に挑んでいる。とはいえ、本国でも中国人観光客の減少で増益が難しくなりつつあったようだ。

2018年まで16年間に渡りファッションディレクターを務めていたクリストファー・ベイリーは、音楽とのコラボをうまく取り入れ、ショーとライブを融合させた『バーバリー・アコースティック』を開催していたのだが、その有名、無名のアーティストたちとショーのコラボは圧巻。リアルタイムで知っていたら、絶対に、さらに興奮してたはず。

螺旋を描くように変化していく音楽やファッション


ファッションは常に時代の流れと共に変化するが、音楽もそうだ。速さやビートなどちょっとしたアレンジの変化で時代を飛び越えて “昔” の曲が “今” を切り取る。年齢を重ねたアリソンが、ガチのクラシックアレンジをブルージーに歌うのもその “時” の妙と言えよう。ファッションも何度もリバイバルするとはいえ、螺旋を描くように変化していく。70年代のパンタロンが現在のフレアボトムへと進化したように。

話は逸れるが、アリソンがマイクをとった2016年春夏コレクションでは、その観客にスーパーモデルのケイト・モスや俳優のベネディクト・カンバーバッチとともに『ヴォーグ』誌の名物編集長であるアナ・ウィンターを見ることができとても華やかだった。

このバーバリーのライブに現れたファッション界のご意見番アナ・ウィンターは、映画『プラダを着た悪魔』に登場する横暴な雑誌編集長のモデルとなった人物といわれている。とにかく隙のない全身完璧なルックスが魅力のアナだが、最近、自身のインスタグラムでスウェット姿や普通の人でもするようなジーパン姿を披露した。これには世界中が驚いたという。“コロナ、恐るべし…” と。

そして、時代がファッション業界に最も暗い影を落としている今、長年経営を引っ張ってきたクリストファー・ベイリーが去った後のバーバリーが今回のコロナ禍をどう乗り越えるのかにも注目したい。私はハイブランドを身につけることはほとんどないが、ハイブランドを取り巻く美しさは大好きだ。だから彼らの輝きがなくなり、ファッション業界全体が曇ってしまうのはとても残念である以上につまらない。

人間は裸では外を歩くことはできない。パリッとした気持ちや優しい気持ちを乗せて動きまわる、私たちの肉体を包んでくれる服は、ただの布切れと糸でできている訳ではない。心地よい布ひとつとっても、たくさんの心配りや経験などがなければ生まれないし、パターン、縫製だって一朝一夜でどうにかなるものではないのだ。だから遠くからだけれどもエールを送りたい。これまでの感謝とともに。

移りゆく時代、あらゆる角度から楽しむことのできるヤズーの作品


私たち、そして時代は、いくら後ろを向いていようが前に進んでいく。そのとき私たちは昔を完全に捨てるのではなく、アレンジをどんどん加えたり、表現を変えたり、新しい異物とうまくコラボしながら輝やいていく。そう、時代や自分の変化に敏感に感じ取りながら変化し続けるアリソンの歌のように。

ヴィンスもまた、大勢のアーティストとコラボしながら作品を生み出す一方で、彼は独り作業を好むという相反するワークスタイルを持つ人なのだが、これはこれでステイホーム時代の最先端の在り方といってもいいかもしれない。

アリソンとヴィンス、2度のスポット的な再結成を除くと、たった3年という短期間の活躍だったが、彼らの音楽は、いくつもの相反する魅力がそれぞれの鏡に光が反射するように、あらゆる角度からでも楽しむことができる。これからも移りゆく時代の波の中で、彼らの作品がさらに新しい輝きで切り取られる様を、私は見届けていきたい。

2020.06.08
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  YouTube / Burberry


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カタリベ
1969年生まれ
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