80年代の後半よく聴いていたのが、UKのニューウェイヴ。ザ・スミスやエコー&ザ・バニーメン、デペッシュ・モード、ザ・キュアーなどある種の「暗さ」が魅力のアーティストを中心に聴いてました。 そんな中、UKのシーンで爆発的なヒットを伴って登場したペット・ショップ・ボーイズ。多くのニューウェイヴバンドが取り入れていたエレポップサウンドには大変惹かれましたが、UKのみならずUSでも1位を獲得した「ウエスト・エンド・ガールズ」や他のシングルヒット曲のメロディーが何しろキャッチーすぎる。 「最初はいいけどそのうち飽きるんじゃないかな?」 そんな不安もよぎりながら彼らのデビューアルバム『ウエスト・エンド・ガールズ(Please)』の購入は見送ってました。 しかしながら次のアルバム『哀しみの天使(Actually)』からの最初のシングル「哀しみの天使(It's A Sin)」のミュージックビデオを見て、「アルバム購入決定!」と思わず叫びました。 「哀しみの天使」の楽曲自体は、アレンジもメロディーもそれまでの楽曲以上に仰々しく、ベタベタ。もはやエレポップ演歌ともいえるほどのドラマチックさ。この曲の方が「飽きそう」なのですが、ミュージックビデオが素晴らしすぎる! ヴォーカル、ニール・テナント自身の体験が元になっているという宗教的な歌詞に沿った神聖かつ不気味な雰囲気のする作品です。光と影のコントラストが見事で衣装やセットのディテール、デザインにも目を奪われるものがあります。ニールもしっかり “演技” しており、シリアスな演出に一役買ってます。 監督は鬼才として当時話題になっていたデレク・ジャーマン。同性愛やデカダン、死生観といったテーマを耽美的な映像で描く、異端ながらも天才と言われた映画監督です(1996年エイズで死去。遺作『ブルー』は全編画面が青色だけという衝撃作)。鮮やかな色使いや重厚な質感で描かれる彼独特の映像美がこの「哀しみの天使」においても見てとれます。 こうした映像によって、この派手なアレンジの哀愁ディスコナンバーが聴きごたえのあるメッセージソングに感じられるのが不思議です。そもそもサウンドがキャッチーな割にヴォーカルが独特のクールな佇まいを感じさせるのがペット・ショップ・ボーイズの魅力のひとつ。そんな彼らの持ち味が予想以上に深みのあるものだったと感じさせてくれたのがこの作品です。アイロニカルな視点を持つ、軽薄さ無縁の歌詞も素晴らしいですよね(「レント」や「とどかぬ想い(What have I done to deserve this? )」なんか大好き!)。 それからはもう彼らの超ファン。その後の「ゴー・ウエスト」などの強烈ベタ楽曲でも快く歓迎するようになりました。ミュージックビデオもリリースの度にワクワクさせてくれ、楽しみのひとつです。 ちなみにデレク・ジャーマンは、映画以外にこういったミュージックビデオも数本手がけており、中でもザ・スミスの数曲をまとめた『ザ・クィーン・イズ・デッド ショート・フィルム』は特におススメなので是非ご覧ください。
2018.03.26
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