フジテレビが中継したライヴエイド、僕らの観たスーパースターは１時間遅れ

日本時間の1985年（昭和60年）７月14日（日）早朝７時前、当時大学１年の僕はロンドン、ウェンブリー・スタジアムでのライヴエイドのフィナーレをテレビで観ていた。

トリのポール・マッカートニーは２分弱のマイクトラブルを何とか乗り切り、引き続き「レット・イット・ビー」を歌っていた。ボブ・ゲルドフ、ピート・タウンゼント、アリソン・モイエ、デヴィッド・ボウイの４人が加わる。カメラが切り替わり舞台下手にある丸い時計が映し出される。

21時56分。ロンドンでは未だ13日（土）なのだ。ん？ 21時？

ロンドンと日本の時差はサマータイムだと８時間。つまりロンドン時間の22時前は、日本時間の30時、つまり翌朝の６時前なのだ。僕がポールを観たのは朝の７時前。何てことだ！ 僕は１時間前のポールを観ていたのだった。

『THE 地球コンサート いまアフリカにおくる LIVE AID』と銘打ったフジテレビでの中継は７月13日（土）の21時から14日（日）正午までの15時間。

司会はフジテレビのアナウンサーだった逸見政孝と南こうせつ。逸見さん起用は、この４月から『夕やけニャンニャン』が始まり、ニュース担当の逸見さんが注目を浴び始めていたことも理由だったのだろうか。

賛否両論あった邦楽アーティスト（矢沢永吉、オフコース、ラウドネスほか）の参加、曲途中でのCM入り、棒読みの同時通訳等、何かと物議を醸した番組であったが、その心意気にはやはり頭が下がるばかりだ。

ライヴエイドがロンドンで始まったのは13日（土）の12時。日本時間だと20時である。フジテレビでの番組開始１時間前。これでは１時間遅れるのは当たり前だ。

ポール登場を朝７時と記した当時の僕の日記には「デヴィッド・ボウイが登場した今は４時28分」という記述もある。ボウイがロンドン現地時間で登場したのは19時20分台、日本時間で翌14日（日）の３時20分台である。いよいよ１時間遅れは間違い無かった。

ゴルフ中継でよく採られる、放送時間内に番組を収めるために少々時間を遅らせた中継をディレード（delayed）中継という。遅らせることで途中編集も可能になる。ライヴエイドは正にディレード中継だった。僕らが皆胸をときめかせたクイーンの歴史的名演も生ではなかったのである。ロンドンは全て１時間遅れだった。

もう１つの開催地、アメリカ・フィラデルフィアもディレード中継だったか否かは、僕の日記に時間の記述が無く不明。ただしフィナーレの「ウィ・アー・ザ・ワールド」が現地時間13日（土）22時55分、日本時間14日（日）11時55分から始まり途中で切れたことから、少なくとも最後は生だったことが分かる。

僕らが観たポールは生（＝リアルタイム）ではなかった。2004年にリリースされたライヴエイドのDVDを観て僕はこの事実に気が付いた。僕は初めて観た生ポールを２年後の1987年に修正しなくてはならなくなった。その時のことについては機会を改めて。

ライヴエイドからほぼ１か月後の1985年８月12日、日航機墜落事故が起きている。『夕ニャン』といい、1985年、昭和60年の夏は何かと熱い夏だった。

2017.07.14