11月14日

私は泣いたことがない♪中森明菜と井上陽水のスペシャルな一曲「飾りじゃないのよ涙は」

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中森明菜「飾りじゃないのよ涙は」の衝撃


実は、私がこの歌のタイトルを初めて見たとき、てっきり「泣いてすがってくる男性に “涙を簡単に見せるな” とハッパをかける歌」だと予想した。ところが明菜はいきなりこう歌い出した。

 私は泣いたことがない

時が止まった。思っていた世界観と全く違う! 一気に引き込まれた。秋元康がこの歌詞について後に「僕ならサビに持ってくる。陽水さんはいきなり始めた、やられたな」と語ったというのは有名過ぎるエピソードだが、んもうガクガクと頷ける。これが最初にくることで、主人公のキャラクターやバックボーンがブワッと想像できる凄さ。大人になる直前の孤独を、こんな風に歌うとは……!

昭和のアイドル楽曲では、女の子が見せる “涙” は恋を有利に持っていく切り札。素直さや可愛げ、切実さを一滴で表せるリーサルウエポンといっていい。それが “無い”。恐ろしいほどの純粋さと身の置き場のなさが、不思議な浮遊感とスピード感を持って押し寄せてくる! 胸が苦しいはずなのに同時に不思議な清々しさも感じ、カタルシスに浸ってしまった。

“涙は取っておきたい” 斉藤由貴「卒業」との違い


この曲と同じ “泣かない女の子” で思い出すのが、「涙はとっておきたいの」という、斉藤由貴の「卒業」だ。しかし、この「飾りじゃないのよ涙は」に「卒業」から感じるしたたかさや “私はすぐに泣く他の女のことは違う” 的マウント臭はない。

タイトルだけ見れば、かなり理屈っぽいというか上から目線ではあるが、「飾りじゃないのよ涙は」に漂うのは、“涙への憧れ” である。軽々しく泣くのは違うと強がっているうちに、泣くきっかけをどんどん見失ってしまっている。でもいつか、いつかその日が! と待ちわびている。「車に “のっけ” られても」「“泣いたりする” んじゃないか」という、どこか幼さが残る言い回しと明菜の堂々とした歌いっぷりのギャップが、そんな繊細な背伸びを感じさせるのである。

念を押すように「私は泣いたことがない」と低く繰り返す明菜の声は最高にカッコイイが、最高に寂しい。



「少女A」から始まった “少女の孤独” の延長


この曲にこれだけいろいろと妄想してしまうのは、歌詞はもちろん、それまでの明菜のツッパリ系シングルの流れと絶妙にリンクしているからだ。

売野雅勇が描いた、「少女A」という匿名少女が「1/2の神話」で大人への階段でもがき苦しむ。彼女は「禁区」「十戒」と成長しながらも、ずっと本当の恋を掴み切れない。いつ本当の名前を呼ばれ、愛を囁き合えるのか。その日が来たら「泣いたりするんじゃないか」と、その日を待ちぼんやりと夜を彷徨っている。その流離は続き、14thの「DESIRE -情熱-」でもまだ続いている――。

…… などなど、違うクリエイターが書いたシングル楽曲でも、関連性を無理矢理持たせたいほどに、明菜のキャラクターと歌唱力は “その後” を妄想させる。これらの楽曲を続けて聴くと、聴いているこちらが泣いてしまう!



井上陽水が描く “夜を持て余す女の子”


「飾りじゃないのよ涙は」の女の子は明らかに夜型だが、同時に夜の時間を持て余している。流れに任せているようで、誰よりも潔癖だ。

井上陽水が女性に提供する楽曲は、これ以外も荻野目洋子の「ギャラリー」然り、高樹澪の「ダンスはうまく踊れない」然り、自分を俯瞰で見ていて、強いようでとても寂しい。宙に浮いた情熱を、夜の時間に溶けるようでたまらなく魅力的だ。

陽水が明菜のために書いた、特別な孤独の季節。それを見事、身にまとわり着く可愛さや色気を逆に払いのけるようにして歌った明菜。ヒュン、と目の前を通り過ぎるような刹那と疾走感を残し、二人の “夜” はここで終わっている。

どこまでもスペシャルな一曲である。

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2022.11.14
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カタリベ
1969年生まれ
田中稲
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