12月24日

中森明菜「クリムゾン」竹内まりやを黒に染めるダーク・シティポップ

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photo:Warner Music Japan  

中森明菜とシティポップの出会い


『スター誕生』でデビューした中森明菜は一次審査で竹内まりや「セプテンバー」、二次審査で山口百恵「夢前案内人」を歌って合格したというキャリアの始め方をしている。その意味で竹内まりやが半数近い楽曲を手がけた10枚目のアルバム『CRIMSON』は、明菜にとって原点回帰的な含みもある(残り半分もこれまた女性の小林明子で全体にフェミニンな雰囲気が強い)。

このアルバムはNYで撮影された写真がカバーやブックレットに使われていて、熱心なファンサイトなど覗くと本作の前に出したシングル「Fin」で明菜が公言した「ニューヨークのダウンタウンのイメージ」を踏襲しているのだという。つまり夜ヒット出演時の「Fin」の目深にかぶった帽子にトレンチコートという、20年代アール・デコ時代のファッションプレート風の佇まいをイメージしながら全10曲を聴くのがよいとのこと。

竹内まりや提供曲「OH NO, OH YES!」、「駅」など不倫テーマの楽曲が特に目を惹くが、大人っぽいオシャレな恋愛という感じで、「シングル・アゲイン」や「告白」など竹内がのちに多く手掛けることになる不倫路線の楽曲群の先駆けともなった。ヴェイパーウェーブあたりから国際的に火が付いた80年代和製シティポップ再評価のなかでも、とりわけリヴァイヴァルヒットしたのが竹内の「Plastic Love」で、YouTubeでは5000万回以上再生されているわけだが、その竹内の参加もあるゆえなのか、80年代バブル経済真っただ中のシティポップ特有の浮遊感が『CRIMSON』にはある。

ダーク・シティポップ…? 独特の重さが怖さを醸す


…… はずなのだが、どうも明菜の全編にわたって徹底した異様なまでのか細いウィスパー・ボイス、そして批評家の平岡正明が「水子の心霊写真」と(罰当たりながら正確に?)評した不気味なジャケット写真もあいまって、“ダーク・シティポップ” とでも呼ぶべきどす黒い明菜的情念が、記号としての都市TOKYOないしNYを内から食い破るように噴き出ている気がする。

特に「駅」の歌唱は浅川マキとか、「暗い日曜日」で自殺者を急増させたシャンソン歌手ダミアなど、タイプは違えども “闇の歌い手” の系譜にあるような独特の重さがあって、聞いてて怖くなる。冒頭曲「MIND GAME」でカタカタとタイプを打つ音でNYのオシャレなコスモポリタン風を気取ってみたところで、この「駅」の呪われた歌唱ですべて黒に染まってしまう。

ちなみに、ムーンライダーズの初代ギタリストで、「Desire -情熱-」の編曲も担当した本作アレンジャーの椎名和夫氏が止めても、明菜は断固拒否してこのボーカルスタイルを押し通したらしく、大問題作『不思議』に続いてセルフプロデュース作の『CRIMSON』でも実験精神は旺盛だったようだ。

竹内まりや提供曲「駅」に対する明菜の解釈に山下達郎が異議?


実験作であるから、当然皆が皆おもしろがるはずはない。大物だって怒る。1994年にリリースした竹内まりやのベスト盤『Impressions』のライナーノートで、夫の山下達郎が遅れながら異議を唱えたのだ。他の楽曲提供者は名前を明記しているのに「駅」のみ「さるアイドル・シンガー」とし、「アイドル・シンガーがこの曲に対して示した解釈のひどさに、かなり憤慨していたこともあって」と怒りを露にし、竹内まりやがセルフカバー(すなわち達郎によるアレンジ)をやるきっかけでさえあったと打ち明けるのだ。

まりや&達郎夫妻ヴァージョンのもつ “軽さ” も確かに素晴らしい。しかしコロナ禍に加えて経済格差、政治への不信がいよいよ高まるダークな世相に鑑みて、シティポップ的能天気さに順応できない明菜の “重さ” のある囁き声のほうが、いま遥かにリアルに感じられる(ビリー・アイリッシュがダークなウィスパーヴォイスで大人気なのもそれなりに時代精神を反映している気がする)。

徹底したウィスパーヴォイス、明菜的情念が込められた「CRIMSON」


中森明菜は歌い上げ系の曲は徹底的にヴィブラートを駆使し、『不思議』では徹底的にボーカルを聴き取れないように処理し、『CRIMSON』では徹底的に死にかけのようなウィスパーヴォイスで歌った。曲によって歌い分ける、と言った器用なタイプの歌手ではない。しかし逆説的にその不器用さが明菜的情念のようなものと混然一体となって、リスナーに訴えかけるリアルな迫力になる。

ちなみに最終曲「ミックジャガーに微笑みを」だけ(明菜が明菜をカセットで聴いてるというメタ構造含め)場違いなロックンロールなのだが、この曲のテンションがぴったりなのはシングル候補曲ながらもロックテイストが強すぎてボツになった楽曲を集めた、燃えるように官能的な『Stock』だろう。次回はこのアルバムについて書こうかと思います。



2021.02.17
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カタリベ
1988年生まれ
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