突然だが、音楽ファンは、音楽オタクになる人とならない人に分けられると思う。そして、おそらくその分岐点の1つに「演者だけでなく、作り手にも関心を持つ」というのがある。 実を言うと、僕自身も人から音楽オタクだと言われることがあるが、もしそうだとしたら、そのきっかけはシックのナイル・ロジャースとバーナード・エドワーズの存在だ。 なにしろ1980年代に彼らがプロデュースした中で、ビルボードの Hot 100(シングルチャート)で1位になった楽曲だけでこんなにあるのだ。 ■ ダイアナ・ロス「アップサイド・ダウン」 (80年9月6日 全米1位) ■ デヴィッド・ボウイ「レッツ・ダンス」 (83年5月21日 全米1位) ■ マドンナ「ライク・ア・ヴァージン」 (84年12月22日 全米1位) ■ デュラン・デュラン「007 美しき獲物たち(A View To A Kill)」 (85年7月13日 全米1位) ■ ロバート・パーマ-「恋におぼれて(Addicted To Love)」 (86年5月3日 全米1位) 彼らはこの他にも ABC、ジョディ・ワトリー、ロッド・スチュワートら多数のアーティストをプロデュースしているが、これだけあれば彼らに興味が行くのも無理はないと思う。 一方で、アーティストにとって、彼らにプロデュースを依頼すれば単純にハッピーかと言えば、必ずしもそうではないようにも思える。 例えば、「レッツ・ダンス」はデヴィッド・ボウイにとって最大のヒットとなったが、同時に最後のNo.1でもあった。また、ダイアナ・ロスのNo.1ヒットは、「アップサイド・ダウン」以降はデュエット曲しかない。 バーナード・エドワーズと親交のあったクイーンのベーシスト、ジョン・ディーコンは、シックの「グッド・タイムス」に影響を受けて「地獄へ道づれ(Another One Bites The Dust)」を書いたが、それがクイーン最大のヒット曲となった。しかし、あまりにも「らしくない」楽曲だったことが、バンドの死期を早めた気がしてならない。実際、この曲が彼らにとって最後のNo.1となった。 つまり、何が言いたいかというと、ナイル・ロジャースとバーナード・エドワーズ、この2人が楽曲に及ぼす影響力には、アーティスト本来の「らしさ」を奪うリスクがあったということだ。 その点で、この影響力をうまくレバレッジ(=テコに)して成り上がったのがマドンナだと思う。「ライク・ア・ヴァージン」は彼女のキャリア初のNo.1ヒットである。では、彼女は他のビッグアーティストたちと何が違ったのだろうか? 「ライク・ア・ヴァージン」のレコーディングを始めた時、彼女はまだ世界的なアーティストではなかった。この曲を書いたビリー・スタインバーグとトム・ケリーの2人は、当時マドンナが誰なのか本当に知らなかったらしい。つまり「らしさ」も何もなかったということだ。 そもそもマドンナにとっての商品とは彼女自身であり、楽曲はその構成要素の一つに過ぎない。彼女は数多くの映画にも主演し、ヌードにもなり、マリリン・モンローとも比較されたが、それもこれも彼女の高度な自己演出力の賜物である。 要するに、マドンナのプロデューサーは、どこまで行ってもマドンナ自身なのだ。Song Data ■Like A Virgin / Madonna ■作詞・作曲:Billy Steinberg, Tom Kelly ■プロデュース:Nile Rodgers ■発売:1984年11月6日 ※2016年2月11日に掲載された記事をアップデート
2018.08.16
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