10月10日

80年代エピックの総決算!岡村靖幸「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」

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EPICソニー名曲列伝 vol.30(最終回)
岡村靖幸『あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう』
作詞・作曲・編曲:岡村靖幸
ストリングス・アレンジメント:清水信之
発売:1990年10月10日

80年代EPICソニーの総決算、岡村靖幸


「80年代」と書いて「EPICソニー」と読む――。
この連載「EPICソニー名曲列伝」も今回の30曲目で最終回。そして、その最終回にこれほどふさわしい曲は無いだろう。言い換えると「80年代EPICソニーの総決算」としての曲。ドリームズ・カム・トゥルーも80年代にデビューしているのだが、彼(女)たちはむしろ「90年代EPICソニーの幕開け」という感じがするのに対して。

目を引くのはまず、タイトルの長さ。「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」という圧巻の26文字。ちなみに2年後リリースのB'z『愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない』は21文字。

そのタイトルの長くおかしな語感は、そのまま岡村靖幸のおかしな歌い方に直結する。ただこの「おかしさ」こそが、EPICソニーの本流が行き着くところでもある。

EPICソニーの背骨とは? 佐野元春 → 大沢誉志幸 → 岡村靖幸


私の考える「EPICソニーの背骨」は「佐野元春→大沢誉志幸→岡村靖幸」という流れ。これは即ち、ロックのビートに馴染ませることに向けた「日本語発声の歪め方イノベーション」の流れである。

佐野元春『アンジェリーナ』からちょうど10年。EPICの音楽家が提唱し、普及させた「日本語発声の歪め方イノベーション」が、この曲に極まっている。岡村靖幸一流のギュっと歪めてネチっと練り上げられた日本語が、ロックのビートにベチャっと染み付いている感じがする。

このシングルの1ヶ月後に発売されたアルバム『家庭教師』も怪作にして快作。一体どれほど聴いただろうか。私が社会人として、ネクタイにスーツでオフィス街を闊歩するようになった頃、それでもカバンに忍ばせたディスクマンの中、くるくる回っていたのは『家庭教師』のコンパクトディスクだ。

音楽が “ツール” になっていった90年代


1990年を迎えて、時代ががらっと変わった感じがした。長い髪がばっさりと切られ、テクノカットになった1980年や、逆にマッシュルームカットが、いよいよぼさぼさの長髪になった1970年ほどではないにせよ、西暦の3桁目が1段上がると時代も変わる。

『おどるポンポコリン』をカラオケボックスで歌い踊った時代。そして、「イカ天」や「ホコ天」がマスコミを通して一大現象となった時代、さらには、新しいFM局でしゃべる「バイリンガル」の「ナビゲーター」が、音楽のBGM化を一気に進めた時代。

誤解を怖れずに一言で表せば、音楽それそのものが目的ではなく、生活のための単なるツールの1つに成り下がった時代の到来である。

時代と乖離していくEPICソニーの方法論


そんな中、80年代を席巻したEPICソニーの方法論が、少しずつ時代と乖離していく。もう少し穏やかに言い換えれば、80年代EPICソニーのあの音、あの世界が、時代のデフォルトになってしまった。

たった10年前、佐野元春『アンジェリーナ』の歌詞や歌い方に、あんなに驚いたのに、1990年、もう誰も驚かなくなり、カラオケボックスで普通に歌われる曲になっている。

たった6年前、大沢誉志幸『そして僕は途方に暮れる』のキラキラしたサウンドに、あんなに魅せられたのに、1990年、デジタルとアナログを融合した音作りはもう普通になっている。むしろアナログだけのサウンドが珍しくなっている。

そして、『あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう』が発売された1990年、岡村靖幸はまだ、多少奇異なものとして見られているけれど、ロックのビートに染み付いた日本語で、80年代のEPICソニーを見事に総決算している。

EPICソニー、それはニューミュージックと J-POP をつなぐもの


「80年代」と書いて「EPICソニー」と読んだ。しかし「90年代」という文字から「EPICソニー」は、決してあぶり出せない。

80年代EPICソニーがもたらしたもの。新しい日本語の歌い方。洋楽かと見間違えるようなプロモーションビデオ。楽曲や音楽家のイメージを増幅させる鮮やかなタイアップ。優れたルックスを十分に活かしたビジュアル展開。

その結果、80年代EPICソニーが生み出したもの。「ニューミュージック」をブラッシュアップした新しい音楽。それはつまり「ニューミュージック」と歌謡曲とロックの中間市場。そしてそれは、「ニューミュージック」と「J-POP」をつなぐもの――。

―― ♪ 寂しくて悲しくてつらいことばかりならば あきらめてかまわない 大事なことはそんなんじゃない

さぁ、少しばかり退屈で、呆れるほど混沌とした90年代がやって来た。そして私は、心の中でつぶやいた――。

―― 「80年代」と書いて「EPICソニー」と読む。


※ スージー鈴木の連載「EPICソニー名曲列伝」
80年代の音楽シーンを席巻した EPICソニー。個性が見えにくい日本のレコード業界の中で、なぜ EPICソニーが個性的なレーベルとして君臨できたのか。その向こう側に見えるエピックの特異性を描く大好評連載シリーズ。

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2020.06.24
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カタリベ
1966年生まれ
スージー鈴木
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