2019年も、新作を放送することが発表された『渡る世間は鬼ばかり』。1990年に第1シリーズがスタートしたとき、ここまでの長寿ドラマになるとは、誰が想像しただろう。
渡鬼(わたおに)を “橋田的小宇宙” と呼んだのは、今は亡きナンシー関。脚本家・橋田壽賀子のペン次第で、いい人が突如悪者になったり、設定がころっと変わったり。橋田イズムあふれる、セリフ回しも特徴。このドラマでは十代の若者でさえも、「こしらえる」「道理がない」などの古めかしい言葉を、当たり前のように口にする。
渡鬼というと、あのテーマ曲を思い浮かべる人も多いだろう。作曲したのは、番組主題歌の名手、“ハネケン” こと羽田健太郎。風雲急を告げるような高らかなイントロで波乱の展開を、さまざまな旋律のつながりで心ざわつく各家庭の出来事を想像させる。
約30年に及ぶ渡鬼ヒストリーの中で、私が一番驚いたのは、ストーリーの急展開や設定変更ではない。2016年スペシャル版のエンドロールで、あのテーマ曲に歌声がのせられているのを耳にしたときだ。
ええっ! いまさら詞をつけたの? このタイミングでボーカルソングにしたの? 当然、渡鬼ファンは SNS 上でざわざわ。2007年に亡くなったハネケンも、草葉の陰で驚いたに違いない。
曲のタイトルは「人生讃歌 ~渡る世間は鬼ばかり~」。歌うのは天童よしみ。演歌界で一、二を争うといわれるくらい歌の上手い天童が、人生の機微を切々と歌い上げる。嫁が気に入らない、姑がうるさい、相続もめる、介護たいへん… なんて歌詞ではないのが、正直ちょっと物足りないが。
ところで、説明ゼリフが多いというのも、渡鬼の特徴だ。今の気持ちや状況、さらにはこれまでの経緯など、登場人物たちが事細かにセリフで説明してくれる。ドラマの質を下げる、セリフのタブー… なんていわれ、やってはいけないとされる説明ゼリフ。いかにもご都合主義だが、50歳を過ぎた今ならよくわかる。
ちょっと席をはずしても、設定を忘れていても、登場人物たちがきっちり説明してくれるドラマのなんと重宝なこと。小ネタや伏線を見落とすまいと、画面を凝視しなくてはいけない尖ったドラマもいいが、そればかりは疲れる。夕飯を食べながら、SNS でツッコミを入れながら、気楽に観るのに、渡鬼は打ってつけなのだ。
ちなみに「人生讃歌 ~渡る世間は鬼ばかり~」の歌詞は、こう締めくくられる。
わたるーせけーんはおーにばかりー
それでーいいのー
そう、きっとそれでいいのだ。安楽死宣言で世間を驚かせた橋田先生だが、この小宇宙が消滅してしまうのは寂しい。渡鬼が今後も続くよう、橋田先生の健康と長寿を願わずにはいられない。
2019.06.22
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