EPICソニー名曲列伝 vol.29 THE真心ブラザーズ『どか~ん』
作詞・作曲・編曲:THE真心ブラザーズ
発売:1990年9月21日
泡沫番組?「パラダイスGoGo!!」が平成に遺した遺産、真心ブラザーズ
『パラダイスGoGo!!』という番組があった。89年の4月から1年間、フジテレビの平日夕方17時から放送されていた生番組。
番組の核となっていたのは「乙女塾」という女性アイドルグループ。この中から、永作博美が在籍していた ribbon や、三浦理恵子が在籍した CoCo などがデビューしていく。
つまりは、数年前まで同じ時間帯に放送されていた『夕やけニャンニャン』の夢よもう一度、という番組だったのだが、時代はもう平成、もう一度夢が実ることはなく、たった1年で終わってしまうのだが。
私は、この番組を録画したVHSのビデオテープを、大量に持っている。別に ribbon や CoCo のファンだったのではない。アマチュアとしてこの番組によく出演していた松村邦洋にハマったのである。
泡沫番組と言ってもいいかもしれない『パラダイスGoGo!!』が平成に遺した遺産。永作博美、三浦理恵子、松村邦洋、そして―― 真心ブラザーズ。
イカ天のパロディ「勝ち抜きフォーク合戦」で10週勝ち抜きデビュー
『パラダイスGoGo!!』の中に「勝ち抜きフォーク合戦」というコーナーがあった。89年といえばTBS『三宅裕司のいかすバンド天国』(イカ天)であり、つまりはバンドブーム全盛期。対する「勝ち抜きフォーク合戦」は、つまりは「イカ天」のパロディのようなコンセプトのコーナーだった。
しかし、そこに登場したのが彼ら。あれよあれよと10週勝ち抜いてしまう。デビューから20年経った09年のインタビューより、YO-KING(倉持陽一)の発言。
――『パラダイスGO!GO!』は4月に始まったんだけど、その少し前にイカ天(『三宅裕司のいかすバンド天国』)が始まってて。当時、“イカ天に出るのは、ちょっと恥ずかしいよな”みたいな感じもあったんですよ。だから、ある意味、ズルいっちゃズルいんだよね。本筋で勝負しないで、横道を通って、そのままデビューまでしちゃったわけだから(CDジャーナル『真心ブラザーズ20周年記念ロング・インタビュー』)
時代はまさに「ロック」で、「フォーク」はパロディの対象に過ぎない扱いだったのだが、YO-KINGにとっては、まさに音楽性の原点だったのだ。
本気のフォーク野郎 YO-KING、まんま「吉田拓郎チルドレン」
真心ブラザーズ『NO BRAIN BOOK』(ソニー・マガジンズ)という本に、YO-KINGが音楽遍歴を語る「YO-KING’S MUSIC HISTORY」というコーナーがある。その中にある、彼の音楽遍歴を表した手書きメモのど真ん中を貫いているのが、何と吉田拓郎なのである。
YO-KINGと私はほぼ同年代で(私が1学年上)、かつ同じ大学に通っていたようだ。だから、彼を取り巻いた音楽環境が、多少は分かるつもりでいるのだが、あの当時、あの音楽環境の中での吉田拓郎ファンは相当に特異だったはずだ。
「YO-KING’S MUSIC HISTORY」の中のインタビューで、高校3年生のときにオールナイトコンサート「吉田拓郎ONE LAST NIGHT IN つま恋」(85年)に足を運んだと発言しているから、かなりの強者(つわもの)である。
そう言えば、しわがれ声&ノンビブラートなYO-KINGの歌い方は、まんま「吉田拓郎チルドレン」という感じなのだが、とにかく、そんな本気の「フォーク野郎」が、「勝ち抜きフォーク合戦」というパロディのハコにあえて挑戦して、ぐんぐん勝ち抜いてしまったのだから痛快である。
ニュースステーションでもお馴染み、真心の第一章を飾る「どか~ん」
―― 桜井秀俊「当時のエピックの社長の丸山(註:茂雄)さんと会って、そしたら『正直言って、CD1枚出すからって、君たちのこと、一生面倒見るわけじゃないから』って言われて。こっちも就職するつもりでいたから、お互いの利害が一致したわけね」(真心ブラザーズ『NO BRAIN BOOK』ソニー・マガジンズ)
という軽い感じでデビューするも、『サマーヌード』(95年)、『拝啓、ジョン・レノン』(96年)、『ルーブスライダー』(97年)などの名曲を立て続けに発表、一時期活動を休止するも、現在でも活躍中である。
そんな真心ブラザーズの物語の第一章を飾るのが、この『どか~ん』である。正直売上枚数は1.3万枚で、ヒット曲というわけではないのだが、テレビ朝日『ニュースステーション』のプロ野球コーナーで流れ、また高校野球の応援歌としても頻繁に使われることで、広く一般に知られた。
拓郎サウンドの継承、リズム&ブルース的な短い曲
『どか~ん』に加えて、『サマーヌード』『拝啓、ジョン・レノン』『ルーブスライダー』に共通するのは、グルーヴィな演奏である。ドラムスとベースがスウィングしまくっていて、やたらと気持ちいい。
このあたり、「フォークのプリンス」と言われた吉田拓郎からは、遠い印象を受ける人も多いかも知れないが、実は、拓郎サウンドの底辺にもリズム&ブルースが流れているのだ。『高円寺』(72年)なんて、フォークギターだけで、ジェームス・ブラウンを再現しているような曲である。
島崎今日子『安井かずみがいた時代』(集英社)によれば、「吉田拓郎=フォークソング」と捉えたがる作詞家・安井かずみに対して、吉田拓郎が「僕のはよく聴きゃリズム&ブルースとかいろんな要素が入っているんだから、聴けよ」とキレたときがあったというのだが。
『どか~ん』に話を戻すと、曲の長さはなんと、たった1分29秒。そういえば吉田拓郎にも短い曲が多く、先の『高円寺』は1分31秒。このあたりも拓郎サウンドの継承と言えないこともない。
と、EPICソニー名曲列伝、最終回の1回前は、思いがけず吉田拓郎の話になってしまった。次回でいよいよ最終回。最終回はあの名曲で締めます。
※ スージー鈴木の連載「EPICソニー名曲列伝」
80年代の音楽シーンを席巻した EPICソニー。個性が見えにくい日本のレコード業界の中で、なぜ EPICソニーが個性的なレーベルとして君臨できたのか。その向こう側に見えるエピックの特異性を描く大好評連載シリーズ。
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2020.05.22