2017年3月、渡瀬恒彦が亡くなった。
渡瀬恒彦と言えば『セーラー服と機関銃』の目高組の若頭が真っ先に浮かんでくるのだが、僕にとってもう一本重要な映画がある。1973年公開の『鉄砲玉の美学』(ATG)だ。なぜなら劇中に頭脳警察の曲が使われているからだ。
―― と言いながら僕がこの映画を観たのはつい最近のこと。今までこの作品はビデオやDVDとして発売されたことがなく、ずっと観ることができなかった。そんな貴重とも言えるこの映画が今回初めてソフト化されたのだ。
映画の初っ端、タイトルが出た途端、テーマソングのように「ふざけるんじゃねえよ」が流れてくる。主人公がピストルを手にするシーンでは「銃を取れ」が、映画の後半ではアルバム未収録の二曲「孤独という言葉の中に」と「今日は別に変わらない」が使われている。エンドロールあたりでちょろっと流れる程度かと思っていたのが、がっつり使われていてびっくりする程だ。
前半の二曲はまさに頭脳警察の反逆のイメージそのままに「鉄砲玉」を描く。それに対して後半の二曲は頭脳警察の文学サイド的な歌なので、ヤクザ映画には全く似つかわしくない。でも頭脳警察が描く人間の激しさや弱さが渡瀬恒彦扮する「鉄砲玉」と重なり、見栄と本音、粋がりと情けなさをより強烈に印象づける。
映画のオープニングで流れる「ふざけるんじゃねえよ」が収録されているのは頭脳警察の3枚目のアルバムで発売は1972年。驚くことに頭脳警察はこの年に3枚のアルバムを作っている。3月発売予定だった1st(発売禁止)、5月に2nd(発表一ヶ月で発売中止・自主回収)、そしてやっと10月に3rdアルバムが真っ当に発売されたのだ。大忙しの一年間だったのではないだろうか。
さすがに3枚目のアルバムともなるとPANTAもレコ倫対策を考えたらしい。自分が歌いたい歌詞にするために、初めは自分でも「これは酷い」と思うほどのとんでもない歌詞でレコ倫に提出したのだとか。チェックを受けて手直ししたように見せて「ふざけるんじゃねえよ」というわけか。
まわりを気にして生きるよりゃ
ひとりで勝手気ままに
グラスでも決めてるほうがいいのさ
当時は「マリファナ」はNGだが「グラス」はOKだったらしく、CDにはピー音は入っていない。
1990年の頭脳警察再結成時に、1stを除く5枚のアルバムがCD化された。歌詞カードを見ると「ふざけるんじゃねえよ」の歌詞の「グラス」の部分が「•••••••••」と表記されている。CDを聴くとピー音ははいっていない。歌うのはいいけど文字はダメということか。時代とともに変わるのは音楽ではなく歌詞カードだったのだ。
歌詞引用:
ふざけるんじゃねぇよ / 頭脳警察
2017.10.02
YouTube / joserising
孤独という言葉の中に / 頭脳警察
今日は別に変わらない / 頭脳警察
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