11月23日

ブルーハーツ「TRAIN-TRAIN」真島昌利の言葉は今もまったく錆び付いていない

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■ THE BLUE HEARTS『TRAIN-TRAIN』
作詞:真島昌利
作曲:真島昌利
編曲:THE BLUE HEARTS
発売:1988年11月23日

格差社会の中、「弱い者達が夕暮れ さらに弱い者をたたく」​​


いよいよ『TRAIN-TRAIN』の番が回ってきた。個人的な体感ではブルーハーツ最大ヒット曲という感じがするのだが、しかし実は、『情熱の薔薇』(90年)の方が倍も売れているのだから、体感など、まるであてにならない。

この2曲には共通項があって、両方とも、斉藤由貴が荒れた高校の教師を演じたドラマ、TBS『はいすくーる落書』パート1、パート2それぞれの主題歌なのだ。

到達点は『情熱の薔薇』の方が上だったとしても、到達点にたどり着く速度、さらには加速度について、『TRAIN-TRAIN』の方が上回っていたと思うのだ。たった1年前には、どこの馬の骨とも変わらなかった4人組が、ぐんぐんと加速度を高める列車に乗って、「栄光」を勝ち取った1曲として。

ちなみにシングルの売上枚数は26.4万枚、最高5位。『情熱の薔薇』は甲本ヒロト作品なので、ブルーハーツの真島昌利作品としては、最大のヒットということになる。

さて、ブルーハーツの歌詞は現代性を増している。特に真島昌利作品については、そう思う。2月23日の中日新聞(朝刊)に寄せた拙稿より。

―― しかし、おかしなことに、彼らの言葉はまったく錆び付いていない。むしろ現実が、その言葉に追い付いてきている感じさえするのである。私がそう感じ始めたのは、数年前の「生活保護バッシング」の報道に触れたときだった。ヒット曲『TRAIN-TRAIN』(88年)のあの歌詞が浮かんできたのだ。

―― 弱い者達が夕暮れ さらに弱い者をたたく

生活保護バッシングにかかわらず、いわゆる「●●叩き」という現象を見ると、「♪弱い者達が夕暮れ さらに弱い者をたたく」というメロディが、私の心の中に必ず流れてくる。

「格差社会」といわれる。専門的なことは分からないが、この日本において「格差」が着実に開いてきたことは理解しているし、理由も何となく分かる。

ただ、「弱い者」という言葉を格差の「下」と定義付ければ、先の歌詞は、広がる格差自体ではなく、広がった結果としての「下」の中でも、さらに格差を広げようとする動きがあることを歌っているのだ。

「下」の仲間割れ。とびきり古い言葉を持ち出せば「内ゲバ」だ。徒党を組めばいいのにと思いつつ、仲間割れする理由は私には分からない。ただ唯一言えることは、仲間割れ、内ゲバは、「上」にとって好都合ということだ。だって、仲間割れしているということは、少なくとも自分たちは攻撃されないということなのだから。

「弱い者達が〜」の歌詞とセットで私は、浜田省吾『悲しい夜』(76年)にある

―― だけどそれは一体誰の思いどおりのことかな

という歌詞を思い出すのだ。

1970年代後半、「英国病」と言われ、同じく「下」が仲間割れしていたと聞くイギリスから、パンクロックが、クラッシュが出てきたように、この現代の日本で、「令和のブルーハーツ」が生まれないものかと、楽しみに待っているのだが、少なくとも私には、「令和のTRAIN-TRAIN」はまだ聴こえてこない。

先の中日新聞の拙稿より。

―― 学生時代にブルーハーツに直撃された世代として、若い世代に彼らの音楽を薦めたいと思うし、「令和のブルーハーツ」のようなバンドが出てくることを強く期待したい。そして今、若者にいちばん託したい言葉は『ロクデナシ』(87年)のこれだ――「生まれたからには生きてやる」

「見えない自由がほしくて 見えない銃を撃ちまくる」​​


曲の中で4回繰り返される、いわゆるパンチライン。キモはもちろん「自由」(じゆう)と「銃」(じゅう)の韻、いわば洒落だ。曲の中には「記念日」(きねんび)と「記念碑」(きねんひ)という韻もあり、4回も繰り返される「自由」と「銃」も含めて、佐野元春『アンジェリーナ』の「車が来るまで闇にくるまって」のような様相を呈している。

まずもってタイトルからして「TRAIN-TRAIN」なのだ。さらに歌詞の文末を読んでみてほしい。例えば1番なら「乗って行こう」「乗って行こう」「弱いものをたたく」「加速して行く」など、全編にわたって、見事にしつこいほどに韻が踏まれている。

そういう歌なのだ。

ジョン・レノンで見知った​​「自由」と「銃」の韻


「自由」と「銃」の話に戻る。実は私、この「自由」と「銃」の韻を見たのは、この曲が初めてではなかった。中央公論社『ジョン・レノン』(81年2月発売)という本で見知っていたのである。

ジョン・レノンが射殺されてから(80年12月)、すぐに発売されたこの本は、ジョン・レノンとオノ・ヨーコのインタビューを冒頭に置き、その後は、数々の有識者が、ジョン・レノン射殺事件に寄せたコラムで構成されている。

リアルタイム(中2)でこの本を買った私は、ビートルズやジョン・レノンについて、まだよく分かっていなかったせいで、本の内容に関して、残念ながら十分についていけなかったのだが、村上龍が寄せたコラムにあった、バイト先のロック好きガードマンから無名時代の村上が聞いたフレーズは、ずっと憶えていた。

――「テクニックは大したことないんだけどね、後ノリがいいんだよ、ビートルズの中でリンゴ・スターだけが黒っぽかったんじゃないか、後の奴は今考えると白いよ、とくにジョン・レノンはまっしろだ」

もうひとつ、「自由」と「銃」の韻も、忘れたことはなかったのだ。それは谷川俊太郎による「かえうた」という詩の冒頭にあった(改行省略)。

―― だれがジョンを ころしたの?
わたし とマークがいいました
わたしのじゆう(1)で
わたしがころした

ご丁寧に、その「かえうた」という詩の末尾には「(1)じゆう=自由叉は銃。」と補足されている。

谷川俊太郎には作詞作品もあり、代表作は『鉄腕アトム』だろうが、小室等(及び彼のユニット “まるで六文銭のように”)に提供した『おしっこ』という曲があり、その中でも、この韻を使っている。

―― 銃がなければ平和は守れぬ 金がなければ自由も買えぬ

「自由」と「銃」の韻の深み・凄みは、一見「逆接」の対義語のように見えて、実は「順接」にも捉えられるということだ。

―― 銃がなければ自由も買えぬ

いうまでもなく私は、銃、つまり武器を買い漁っている、買い漁ることを強いられている、今の日本の話をしているのだが。

余談ばかりになってしまっているが、ブルーハーツに話を戻すと、

―― 見えない自由がほしくて 見えない銃を撃ちまくる

と、書いた真島昌利は、この中央公論社『ジョン・レノン』という本を持っていたのではないかと思うのだ。そして、私と同じように、この谷川俊太郎の奇妙で特異な詩に触れ、それをずっと憶えていたのではないか――

真島昌利のレコード遍歴を記した本=『ROCK&ROLL RECORDER』でも、(ある種当然のことながら)冒頭にはビートルズがドーンと置かれている。『ジョン・レノン』を買った可能性は十分にあるだろう。

無論、パクリだ剽窃だなどという低い次元の話をしているのではない。そもそも「自由」と「銃」を重ねる表現は、他にもいろいろありそうだ。そんな「順接」の話をしているのではなく、むしろ「逆接」として、私はこう思っているのだ。

―― 私と同じようにこの本に出会い、同じようにこの詩のことを憶えて『TRAIN-TRAIN』を書いたのであれば、こんな誇らしいことはない!



「TRAIN-TRAIN 走ってゆく TRAIN-TRAIN どこまでも」


また驚いた。また細かい話なのだが、また驚いたことがある。

『リンダリンダ』(87年)の「♪リンダリンダ」同様、上に掲げた「♪TRAIN-TRAIN 走ってゆく TRAIN-TRAIN どこまでも」もまた、歌詞カードに書かれていないのだ。

私はCDシングル(超余談だが、運転免許に合格したその日に、神奈川県の運転免許センターに近い二俣川のCD屋で買った)を持っているが、「♪TRAIN-TRAIN~」のフレーズは、手書きの歌詞カードに書かれていない。もちろんアルバム『TRAIN-TRAIN』やその他ベスト盤の歌詞カードにも。

まぁ、ここまでは想定の範囲内だ。『リンダリンダ』の項で引用した東京弁護士会が発行する『LIBRA』における甲本ヒロト発言を思い出した。

── 私は当時,ブルーハーツを浴びるように聴いていたとき、あまり深くは歌詞の意味を考えてませんでした。それが最近,ふと「リンダって誰?」と思ったりしたんですが、どういう意味なんでしょうか。
甲本:僕も分からない。答えとか元々ないんだよ。だから,リンダリンダって歌詞カードには書いてないでしょ。登録もしてないから自由に歌っていいんだよ。

さらに驚いたのは、歌詞カードには書かれていないそのフレーズについて、「TRAIN-TRAIN 走って ”ゆく”」説と「TRAIN-TRAIN走って ”ゆけ”」説が両方あるというのだ。もちろん歌詞カードに書かれていないのだから、どちらが正解、間違いかもないのだが。

ただスタジオ盤を普通に聴けば、甲本ヒロトは明らかに前者「走ってゆく」で歌っている。しかし、バックコーラスの真島昌利は「走ってゆけ」と歌っているように聴こえなくもない。また「走ってゆけ」としている歌詞サイトもあったり、カラオケ画面でも「走ってゆけ」だったと指摘するブログにも出くわした。

「登録もしてないから自由に歌っていいんだよ」なので、真偽の詮索はやめるとして、でもどっちが好きか、しっくり来るかの話は続けていいだろう。

私なら絶対に――「走ってゆく」だ。

というのは、「TRAIN-TRAIN」という列車を、ブルーハーツ自身に見立てるからだ。1988年秋、まだ長野新幹線が出来る前の信越本線、碓氷峠のような高勾配の音楽シーンを、最高の加速度で一気に駆け上がるブルーハーツ号。

ブルーハーツ号は他者という客体ではなく、自分たちという主体だ。他者に対して「走ってゆ “け”」と言うのではなく、自らの意志で「走って ”ゆく”、どこまでも」―― と考えた方が、嘘がないという気がするのだ。だから、個人的には「走って”ゆく”」で決定。

先頃、東京新聞に掲載されていた10年前(2013年)の記事。坂本龍一と東京新聞記者100人との意見交換会の中でのひとコマ。「これまで被災者に寄り添ってきましたが、音楽家として今後、被災者を元気にするために、どんな音楽をつくっていきたいですか」という質問に対しての坂本龍一発言。

――「難しい質問ですが、自分にうそをつかない音楽を作ることだと思うんです。もしかして、自分の音楽で元気になってくれる人がいるかもしれないけど、変に『これで元気にしてやろう』なんて不遜なことは考えてはいけないと思う」。

ここまで書いてきてやっと分かったブルーハーツの歌詞の魅力。それは「自分たちにうそをつかない音楽を作ること」。嘘や商売やサービス精神で「ガンバレ!」と言わないことだ。

だから―― ブルーハーツ号は、確固たる自らの意志で「走って ”ゆく”」。

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2023.03.13
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Baliみにょん
「♪弱い者達が夕暮れ さらに弱い者をたたく」本当に今現在の事を歌っているし、正に「一体誰の思いどおりのことかな」という状況にドキッとする。
《「自由」と「銃」の韻》余りにドラスティックな語の押韻は、胸が苦しくなるほどだ。
《ブルーハーツの歌詞の魅力。それは「自分たちにうそをつかない音楽を作ること」。嘘や商売やサービス精神で「ガンバレ!」と言わないことだ。》ブルーハーツを受け取る私達も、こういう日々を送りたいと、心から思う。
2023/03/13 18:14
1
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カタリベ
1966年生まれ
スージー鈴木
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