5月1日

みんなのブルーハーツ「リンダリンダ」大槻ケンヂもカンドーした決して負けない力

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連載『みんなのブルーハーツ』vol.3

■ THE BLUE HEARTS『リンダリンダ』
作詞:甲本ヒロト
作曲:甲本ヒロト
編曲:THE BLUE HEARTS
発売:1987年5月1日

「リンダリンダ」


連載第3回にして、ブルーハーツの中でもっとも有名な曲を取り上げます。ファーストアルバム『THE BLUE HEARTS』のラストを飾る傑作曲で、もちろんシングルカットもされた、あの『リンダリンダ』。

30数年ぶりに、この曲のことを考えて、真っ先に思ったのは「リンダリンダって、どういう意味だ?」という問いです。

この連載、ブルーハーツの歌詞を紐解いていきますが、決して深読みだけはしまいと思っているのです。意味のないことに、さも意味ありげな解釈を加えて、さも意味深なものへとまつり上げることはしたくない(そういう音楽本が多いので)。

ただ、さすがに『リンダリンダ』。このタイトルに意味があるかないかは、ブルーハーツ史というものがあるとすれば、決定的な意味を持ちかねません。

『別冊宝島681 音楽誌が書かないJポップ批評20 ブルーハーツ』(宝島社)の中にある「公式レコーディング曲114 勝手にライナーノーツ」に、1つの手がかりがありました。

―― ちなみに “リンダ” とは、スペイン語で「美しい」「美しい人」という意味。

同様に『リンダリンダ』の「リンダ」をスペイン語だとする記事は、ネット上で散見されます。しかし、引用記事の続きに、ある意味、「リンダ」の意味以上に気になるコメントが書かれてあったのです。

―― 何故かその部分だけ歌詞カードから切り取られている。

驚いて歌詞カードを見てみました。確かにない。「リンダ」がいない。

ファーストアルバム『THE BLUE HEARTS』の歌詞カードにも、他に私の持っているCD、『THE BLUE HEARTS ALL TIME SINGLES』や『THE BLUE HEARTS SUPER BEST』の歌詞カードにも。

「リンダリンダ」が歌詞カードに書かれていないということは、どういうことなのだろうと気になって、さらに検索を進めると、東京弁護士会(!)が発行する『LIBRA』という会報の2014年6月(Vol.14)の記事が見つかり、その中で、当時すでにクロマニヨンズを結成していた甲本ヒロトがインタビューの中で「種明かし」をしていたのです。

── 私は当時,ブルーハーツを浴びるように聴いていたとき,あまり深くは歌詞の意味を考えてませんでした。それが最近,ふと「リンダって誰?」と思ったりしたんですが,どういう意味なんでしょうか。
甲本:僕も分からない。答えとか元々ないんだよ。だから,リンダリンダって歌詞カードには書いてないでしょ。登録もしてないから自由に歌っていいんだよ。

何と正解は――「答えとか元々ない」。

ただし「“意味” が元々ない」とは決して言っていないところがミソです。なかったのは「答え」。だから、スペイン語の「美しい」「美しい人」も正解だし、「“意味” なんて元々ない」もある意味、正解。というか、不正解などない。

「リンダリンダ」も、さらにはその後に甲本ヒロトが書き綴ったオノマトペのような歌詞=「カーカーカーカー」「ばばんばーん」「ズートロ ズートロ ロー ズートロ」なども、全部、意味ではなく「答え」がないということなのでしょう。

そして、私はここで思うのです。「答え」がなかったからこそ、「リンダリンダ」という一種の呪文が、自由な解釈の権利を聴き手に与え、だからこそ『リンダリンダ』という楽曲が、広く愛されるようになったのではないか、と。

かくいう私も、答えなど求めずに、それでも何だか、自分を解放してくれるような手がかりの言葉として、「リンダリンダ」をカラオケボックスで、何百回とシャウトした。そして恍惚感に浸りきった。

逆に言えば、この曲のタイトルが『ドブネズミ』だったら、どうだったでしょう? ゾッとしませんか? 少なくとも私は、『ドブネズミ』だったら、あれほどまでに浸り切ることはなかったでしょう。

ということは、つまるところ「リンダリンダ」に意味はあったのです。それも、すごく重くて大きな意味が。

「ドブネズミ」


「ドブネズミ」―― 言うまでもなく、『リンダリンダ』を超えて、一種ブルーハーツの代名詞のように取り扱われた5文字です。

陣野俊史『ザ・ブルーハーツ:ドブネズミの伝説』(河出書房新社)という本があり、そもそも「ザ・ブルーハーツ」の名義で、彼らの歌詞と「名言」を集めた『ドブネズミの詩』(角川文庫)という本もあったりします。

このカタカナ5文字は、歌詞の中で計3回出てきます。最初は1番の中、「♪ドブネズミみたいに美しくなりたい」。続く「♪写真には写らない美しさがあるから」も実に印象的。

あと2回は2番にて。「♪ドブネズミみたいに誰よりもやさしく ドブネズミみたいに何よりもあたたかく」と決定的な展開に。

もちろん傑作フレーズだと思います。思うのですが、令和の今、あらためてこのフレーズをたどると、何というか「でき過ぎているなぁ」とも思うのです。

言い換えると、作品性だけでなく商品性も十分に備わっている感じ、さらに言い換えれば、キャッチコピーみたいな感じさえする。キャッチコピー、つまり宣伝文句。一億人を振り向かせるために、広告の中で際立たされる惹句(じゃっく)、商品性/キャッチコピー、つまり一部のロック好きに閉じない、極論すれば、一億人の琴線に触れる開かれたフレーズ―― そのせいか当時、一部の狭量なロックファンから、煙たがられたことを記憶します。

そんな空気をさらに助長したのが、「誰よりもやさしく」という文字列でした。この「やさしさ」と、狭量な定義での「ロック」との噛み合わせが悪かった。結果「やさしさロック」という言葉を使って、ブルーハーツを批判する人がいたことも忘れられません。

1989年に出版された、月刊宝島編集部・編『THE BLUE HEARTS 「1000の証拠」』(JICC出版局)という本があるのですが、その中で大槻ケンヂが、この曲に対するアンビバレントな気分について、赤裸々に語っています。題して――「リンダリンダ感動事件」。彼は当時、自身の歌詞に関して「大槻三原則」というルールを持っていたそうです。

1. 生活感を感じさせる詞は書かない
2. 水前寺清子ロック(応援歌ロック)は書かない
3. 素直な詞は書かない

そんな彼が『リンダリンダ』を聴いてしまった。「見事に『大槻三原則』にひっかかる歌」だと思った。しかし「でもカンドーしちゃったのよ、オレ」。これが、33年前の大槻ケンヂに勃発した「リンダリンダ感動事件」。

この感じは、とてもよく分かります。白状すれば、「狭量なロックファン」に片足突っ込んでいた私も、同様の「アンビバレントな気分」にウジウジしながら、それでも最終的に「カンドーしちゃった」のです。

時を経た令和の今に思うことは、「♪ドブネズミみたいに誰よりもやさしく ドブネズミみたいに何よりもあたたかく」というフレーズの完成度こそが、大槻ケンヂや当時の私を、狭量で窮屈なロック観から解き放たせたということです。

そして、そのくらいこのフレーズは、高い商品性を持った、開かれたキャッチコピーとして、でき過ぎていたということ。

大槻ケンヂは2002年、『リンダリンダラバーソール』という名著を著します。



「決して負けない力を 僕は一つだけ持つ」


それでも、この曲の歌詞でいちばんいいところ、言わばクライマックスはここでしょう。

90年代のカラオケボックスで死ぬほど歌ったものです。『リンダリンダ』は基本的に、大勢の仲間内と、大騒ぎをしながら歌うのですが、それでもこのパートにくると、胸がキュンとしてたまらなくなったものです。

ここでまた音楽的な話をすると、『リンダリンダ』は、案外複雑な構成になっています。

・「♪ドブネズミみたいに~」がAメロ
・「♪リンダリンダ~」がBメロ(サビ)
・「♪もしも僕が~」がCメロ

という構造で、展開は「Aメロ→Bメロ→Cメロ→Bメロ→★Aメロ→Bメロ→Cメロ→Bメロ」となります。

★を付けたところ(2番)がCメロだったらシンプルなのですが、ここにAメロが入ることで、何というか、大作感のようなものが漂います。あと「ドブネズミ」の信号性も増す。

ですが、やはりこの曲の聴きどころ、本質ははCメロだと思うのです。まずはコード進行。「【C】→【E7】→【Am】→【C7】→【F】→【G】→【C】」。この「聴きどころの聴きどころ」は何といっても2つ目の【E7】。エモい。エモいことこの上ない(当時「エモい」なんて言葉はありませんでしたが)。

そして、そんなエモいコード進行に乗って歌われる歌詞がまたエモい。

エモいのですが、ちょっとだけ心をかすめる疑問は、「♪そんな時はどうか 愛の意味を知ってください」と、主人公は「愛」を持ち上げたくせに、「♪愛じゃなくても 恋じゃなくても」と、その数秒後に「愛」を否定する。ここは正直「あれっ?」と思ってしまいます。

しかし、そのまた数秒後に、「♪決して負けない力を 僕は一つだけ持つ」という言葉で、無理やり締めてしまう。それも「持ってます」「持ちたいと思う」「持ってやるぜ」ではなく、「持つ」とキッパリと。

しかしながら、あまのじゃくな私は、ここにも疑問を持ってしまう――「決して負けない力」って何? どういうこと?

でも、「愛」の捉え方にも、「決して負けない力」にも答えはないのです。意味ではなく答えがない。

だから聴き手は、「決して負けない力」を自由にデザインしていい。というか、自由に解釈してデザインして心に秘めて、そしてカラオケボックスで、心に秘めたその力をマイクにさらけ出す。

答えがないことが生む自由――『リンダリンダ』の、ひいてはブルーハーツの最大の功績は、そんな自由を、当時の若者に与えたことかもしれません。

『リンダリンダ』以降、ロックやニューミュージックは「J-POP」と呼ばれるようになり、その歌詞では、具体的な答えを書き付けていきました。これが正解です、これ以外は不正解です、と。

「次の新曲は、震災後の日本に、元気と感動を与えるために作りました」と、試験に入る前に答えを言ってしまう音楽家とか。

また『リンダリンダ』以降、当のブルーハーツ自身も、『リンダリンダ』が作ったパブリックイメージと対決している感じがしたものです。それくらい『リンダリンダ』は、でき過ぎていた。

でも、『リンダリンダ』がくれた「答えのない自由」は、かけがえのないものでした。だって、そもそも本人たちがこう言っているのですから。

── お二人はそれぞれ曲を作ってますが,お互いが作った歌詞の意味を尋ねたりしますか。
真島:聞かないね。
甲本:僕も聞かない。
(『LIBRA』2014年6月 Vol.14)

「決して負けない力」の答えはありません。でも、みんな「一つだけ持つ」のです。



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2022.11.06
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2022/11/06 12:04
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