1981年9月、ネオロカビリーブームを巻き起こしていたストレイ・キャッツが初来日した。私の初めての洋楽ライブ体験が、このとき渋谷公会堂で行われた彼らのライブ。席は、なんと最前列ど真ん中だった。
そんな贅沢な席を取ってくれたのが、一緒に渋公に行った4歳上の姉。この頃は、姉のような普通の女子高校生でも、やり方次第でいい席のチケットを手に入れることができた。「どこよりもいい席を取るには、プレイガイドより、プロモーターの事務所へ行け」なんてことを、当時姉から教わった。
アルバムを出した、欧米でツアーが始まった、あのバンドの来日そろそろ決まるかも… という噂が流れると、姉は早起きになる。朝刊に載るライブの告知広告をチェックするためだ。広告が出たら、それがプロモーターの事務所でチケット購入の整理番号表を配るという合図。事務所まで行って整理番号を手に入れると、後日、整理番号順にチケットを購入することができる。ストレイ・キャッツのチケットも、姉はこの手でプロモーターまで行き、最前列ど真ん中を手に入れた。
最前列って、そりゃもう最高の席だが、ストレイ・キャッツのときはうれしさより、どう振る舞えばいいのかわからない、という戸惑いのほうが大きかった。「涙のラナウェイ・ボーイ」で、どうやって踊ったらいいの? ロカビリーって、どうのるのが正しいの? ブライアン・セッツァー目の前だし! なんて思っているうちに、約45分間のライブはあっという間に終わった。疾風のようなライブだった。
その後、姉のやり方を受け継ぎ、私も自力でいい席を取るために頑張った時期もあった。だが、チケットぴあが、さらにインターネットが誕生したことで、チケットの取得方法は大きく変わった。業界関係のツテでもあれば別だが、いい席や整理番号が取れるかは努力より運次第になった気がする。40代後半となった今は、スタンディングのライブで前のほうに行くのも厳しくなり、後方で見るのが習慣に。
最前列をあたりまえのように思っていたあの頃、思えばなんて贅沢か。どうやってのればいいかなんて、つまらないことに気をとられてた自分に説教したいくらいだ。ただ、今でも、「涙のラナウェイ・ボーイ」はどうのるべきか、わからない。
※2016年8月9日に掲載された記事をアップデート
2019.04.10
YouTube / StrayCatsVEVO
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