3月

みんなの洋楽ナイト — 忘れじのツバキハウス、とびっきりのニューウェイヴ

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ストレイ・キャッツのデビューシングル「涙のラナウェイ・ボーイ」が日本でリリースされた時期
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「僕のニューウェイヴはこんな音楽なんだ!」っていうのが、リマインダー主催の DJイベント『Golden 80’s vol.2 – みんなの洋楽ナイト』のひとつの軸になると思っている。

今も色褪せない僕にとってのとびっきりのニューウェイヴ。それは、ポップでキャッチー、踊れるロックだ!

80年代前半の音楽を語る上で象徴的なキーワードは「ニューウェイヴ」となるわけだが、解釈は人それぞれに違うだろう。当時、ティーンエイジャーで、現在も音楽を指針として生きる人にとって、そのニューウェイヴの中でも、どの部分に一番感化されたかということが重要だ。なぜなら、その後の僕たちの人格形成に大きな影響を及ぼしているはずだから…

僕がニューウェイヴの洗礼を受けたのは、TV でも雑誌でもなく、ストリートだった。厳密に言えば、新宿通りにあった「かに道楽」の入っているビルの5階。毎週火曜日に行われていた音楽評論家・大貫憲章氏がオーガナイズするロック系 DJイベント『ロンドン・ナイト』だ。僕が初めて足を踏み入れた頃にかかっていた曲を反芻しつつ、思いつくままに羅列してみると…

■ ストレイ・キャッツ / 涙のラナウェイ・ボーイ(Runaway Boys)
■ ハノイ・ロックス / マリブビーチの誘惑(Malibu Beach Nightmare)
■ ラモーンズ / 思い出のロックンロール・ラジオ(Do You Remember Rock'n'roll Radio?)
■ ザ・ジャム / 恋はヒート・ウェイヴ(Heat Wave)
■ スペシャルズ / かわいい悪魔(Little Bitch)
■ ピート・シェリー / テレフォン・オペレーター
■ ビッグ・カントリー / インナ・ビッグ・カントリー
■ アラーム / 68ガンズ
■ ザ・クラッシュ / ロック・ザ・カスバ
■ トレイシー・ウルマン / ブレイクアウェイ


挙げればきりがないのだが、これらはニューウェイヴと呼ぶに相応しいポストパンクとも呼ばれている時期の名曲ばかりだ。『ロンドン・ナイト』の選曲をカテゴライズしてみると、ポップでキャッチー、ロックンロールを踏襲した最新型の踊れるロックというところだろう。

そこには、マンチェスタームーブメントの源流とされるパンクバンド、バズコックスのヴォーカリスト、ピート・シェリーがソロで作り、今やディスコクラシックの名曲とされる「テレフォン・オペレーター」もあれば、50年代のロカビリーの鋭角的な部分をブロウアップし、その魂を蘇生させたストレイ・キャッツもある。そして、60年代 R&B のスウィートでセンチメンタルな世界観が凝縮されたアーマ・トーマスのカバー「ブレイクアウェイ」を歌うトレイシー・ウルマンもあった。

その全ての曲が「古い」「新しい」の感覚を越えた僕にとってのニューウェイヴだったのだ。

今となっては、パンクやロカビリーの印象の強い『ロンドン・ナイト』だが、イギリスの最先端の選りすぐった音楽を直に知ることができるというのが、この DJイベントのもうひとつの顔であっただろう。つまり、僕はここでDJ(選曲家)という職業の素晴らしさを知ったのだ。

雑誌を読んでも、ラジオやテレビをチェックしても辿りつくことができなかった最新型のロックミュージックがそこにはあった。DJは時にはレコードの針を飛ばす勢いで、自分にとってど真ん中の音楽をひっきりなしに爆音でかけてゆく。フロアは熱狂の渦… 二台のターンテーブルの向こう側の DJ は、ギターやベースを構えて見得を切るロックンロールバンドよりもカッコよく思えた。そして、これはまさに、ザ・フーのギタリスト、ピート・タウンゼントが言うところの――

「音がでかいからロックなんじゃない。ストリートで演るからロックなんだ」

―― という言葉に尽きると思った。

僕がツバキハウスに行き始めたのは80年代後半。その頃は、煌びやかで中世的なニューロマンティック系やアダム・アントのようなパイレーツファッションはもう終わっていて、ガーゼシャツやボンテージパンツで着飾ったオリジナルパンク系や古着を上手くコーディネイトしたロカビリー系のお兄さん、お姉さんが多かった。とにかく、当時はそれに憧れた。

そうした人たちが自分のファッションに連動する音楽だけでなく、ジャンルに分け隔てなく盛り上がっている… その光景こそが本物であり、僕のロックの原体験であった。まさしく、理想郷はストリートにあったのだ。

ツバキハウスは僕の十代の終わり、87年の年末に閉店してしまう。しかし、ここで当時かかっていたナンバーは、頭上にキラキラと輝くミラーボールのように僕の心の中でまったく色あせることなく今も輝き続けている。

僕にとって、エイティーズの洋楽は懐かしさなんていうものではない。あの頃の熱と輝きとロックンロールの芳醇な香りは今も生き続けている。それを証明するのが、今回のイベントなんじゃないかな。『Golden 80’s vol.2 – みんなの洋楽ナイト』では、ポップでキャッチーなニューウェイヴ、今も色褪せることのない「踊れるロック」を楽しんで貰いたい。

2018.10.06
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  YouTube / StrayCatsVEVO 


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カタリベ
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