9月12日

シー・ユー・アゲイン・雰囲気 ー 80年代が持ち得た寛容性のようなもの

18
0
 
 この日何の日? 
森田芳光監督作品「の・ようなもの」が劇場公開された日
この時あなたは
0歳
無料登録/ログインすると、この時あなたが何歳だったかを表示させる機能がお使いいただけます

 
 1981年のコラム 
マチャアキの刑事ドラマ「キッド」、そして二つの「メリーゴーラウンド」

アーティスト岩崎良美、今こそ実現して欲しい松田聖子とのコラボレーション

伝説のアルバム「タモリ3」~ ヒップホップとしてのタモリ論

作詞家の・ようなもの、森田芳光が真空パックしたアーリー80'sの空気

世界的大ヒット! J. ガイルズ・バンド「堕ちた天使」の七不思議

ストレイ・キャッツ初来日、いい席を取るにはプロモーターの事務所へ行け!

もっとみる≫






photo:music.douban  

映画は時代を切り取る。その時代がどんな景色や心象風景を生んでいたか。僕はそれらを「空気の色」と呼んでいるのだが、映画を観ることで時代の色・いや香りまで伝わってくることも多い。

森田芳光監督の『の・ようなもの』は僕にとってそんな映画だ。舞台は東京の下町。くすぶっている20代中頃の若手落語家たちがストーリーを紡ぐ。

主人公は飄々としているのがなんとも魅力的な伊藤克信の演じる「志ん魚(しんとと)」。彼が中心になり、秋吉久美子演じるインテリなソープ嬢「エリザベス」と落語研究会に所属している女子高生・由美との奇妙な三角関係、恋愛「の・ようなもの」が繰り広げられる。

「の・ようなもの」。この実に味わい深いタイトルが映画のキーワードそのものなのだ。それは何者でもなく、何かを成し遂げた状態でもなく空中にふわりと漂う状態のこと。主人公の志ん魚も高座に上がるが真打ではない、言ってみれば落語家であるが肩書きとして掲げられるほどでもない落語家「の・ようなもの」である。

僕はこの映画の公開された10年後に生まれたわけだが、僕の中の勝手なイメージだと80年代には「の・ようなもの」であることが許された最後の時代ではなかったかとも思う。いや、許すも許さぬも畢竟個人の意志と努力であり「時代が云々」などというのは大げさだろう。

しかし何かと不寛容なこのご時世である。そういった意味で81年に公開された『の・ようなもの』には日本の80年代が持ち得た寛容性が「空気の色」として描かれており、そしてそれは文化的な意味で時代がとても豊かであったことの証明ではないかと思う。

森田芳光という撮影所に属さず映画を好きで撮り続けデビューした、いわば映画監督「の・ようなもの」な人間がメジャー作品を発表できたという意味でも、この映画はエポックメイキング的作品であろう。

かといってこの映画が「80年代」の空気だけを閉じ込めてあるから素晴らしい、ということでは勿論ないと思う。「の・ようなもの」な人間はいつの時代にもいるのだ。

勿論僕もその中に含まれるようだが、何者でもない「の・ようなもの」人間の寂しさや焦り。そしてその中でも感じる「何者にでもなれる」ことの楽しみ。『の・ようなもの』を名作にしているのは、そのふっと心を横切る寂しさや期待の色や匂いを映像に記したという点に尽きるのではないか。

それは単純な意味での「モラトリアム映画」ではない。完璧な人間なぞいないのだから「の・ようなもの」というのは、人間本来の不安でかつ可能性に満ちた在り方ではないかなどとさえも思えてきてしまうのだ。

そんな「空気の色」に満ちた画面には時折音楽ネタが入る。ソニー・クラークやYMOのジャケット、クラフトワークを秋葉原に買いに行くなどなど。そして何よりもこの映画を感傷的にさせているのは尾藤イサオのエンディング曲「シー・ユー・アゲイン・雰囲気」である。

素晴らしいことに「雰囲気」という言葉は「の・ようなもの」そのものなのだ。この曲の「空気の色」は映画と同じく期待と不安と、寂しさ「の・ようなもの」で優しく包まれている。

2017.11.07
18
  YouTube / aftertherain0


  YouTube / 松竹チャンネル/SHOCHIKUch
 

Information
あなた
Re:mindボタンをクリックするとあなたのボイス(コメント)がサイト内でシェアされマイ年表に保存されます。
カタリベ
1991年生まれ
 白石・しゅーげ
コラムリスト≫
26
1
9
8
1
作詞家の・ようなもの、森田芳光が真空パックしたアーリー80'sの空気
カタリベ / 鎌倉屋 武士
55
1
9
8
3
黄金の6年間:ATG の確変時代と森田芳光の「家族ゲーム」
カタリベ / 指南役
42
1
9
8
8
早すぎたシティポップの歌姫 〜「ラ・ムー」菊池桃子
カタリベ / ケモノディスク 中村
75
1
9
8
0
YMO の必然と黄金の6年間、変わっていく時代と新しい音楽のカタチ
カタリベ / 指南役
20
1
9
8
7
魅惑のカセットテープミュージック、ドライヴで聴くためのAORオムニバス
カタリベ / DR.ENO
33
1
9
8
3
YMO の最後の実験、シモンズドラムを使った「過激な淑女」と「禁区」
カタリベ / KZM-X
Re:minder - リマインダー