作詞は森田芳光、エンディングで流れた「シー・ユー・アゲイン・雰囲気」
どこかであった雰囲気が
迎えてくれるオケイジョン
どこかであった雰囲気が
集まりそうなスティション
See You Again in the Mood
さびしくないさ
See You Again in the Mood
南の風で フェイド・アウト
韻は踏んではいるが、頭がピーマン。
映画『の・ようなもの のようなもの』(2016年)風に言えば、“まるで小学生が国語の教科書を読んでいるような落語” みたいなものである。こんな歌詞を書いてしまったのは “ミスター自主映画”(※注1)森田芳光監督であった。
まず、ペンネームのタリモという名前からしてふざけている。芸能界でよくある逆さ読みを芸名にしたタモリのパクリ。だが、この藤四郎(とうしろう)っぽいペンネームや軽薄短小な歌詞から醸し出されるその雰囲気こそが天才森田芳光の演出であり狙いだったのかもしれない。
そう、この曲は1980年代に青春を送った僕たち “シラケ世代及び新人類” を含むゆる~い若者気分そのものなのだ。曲名は「シー・ユー・アゲイン・雰囲気」。
商業映画第一作となる『の・ようなもの』のエンディングで脱力した雰囲気そのままに流される。
落語家たちの日常を描く群像劇「の・ようなもの」
映画は、落語家たちの日常を描く群像劇。独特なテンポ感で様々なエピソードを綴っていく。
主人公の落語家(二ツ目)志ん魚とトルコ嬢エリザベス(※注2)の微妙な関係。新宿末広亭の深夜寄席。楽屋でかしましく悪態をつきまくるアイビーファッションのオカマたち。女子高の落語研究会の臨時コーチ。ケーブルテレビと団地妻。落語界のプリンス笑太郎。昼下がりの情事と青空寄席。テクノ落語とクラフトワーク。落研の部長・マリアとの恋模様。
そんな日々の出来事に何の脈絡もなくナンセンスなセリフや笑いを差し込みながら、この映画は時代の空気を切り取っていく。
「マリア? 竹内まりやみたいなキャンパスギャルか?」
「次の内、食べられないのはどれでしょう。1、いなり寿司。2、茶巾寿司。3、松葉くずし。」
「野球は好き?」
「江川がちょっと好きなぐらい。」
それは、それまでの日本映画にはない文脈だった。わかりやすく言うと江口寿史の漫画のポップさをそのまま実写にしたような感じと言えばわかるだろうか。しばらくして、その独特な映像感覚は “モリタリズム” などと呼ばれるようになるのだが、要するに “ストーリー” に頼ることなく “雰囲気” だけを見事に切り取った革新的な映画なのである。
森田芳光は、映画会社の古い助監督制度から生まれた職業監督とはまるで違う空気をまとって登場した。何となくモラトリアムを感じさせる学生映画の延長線上に現れた “映画監督の・ようなもの”。
その飄々とした姿に僕はいつも “憧れの・ようなもの” を感じていた。その彼が軽い気分で書いた「シー・ユー・アゲイン・雰囲気」は僕たちそのものを表しているような気がしてならない。
浜田金吾が作曲したシャレオツなAORサウンドと自然体で力の抜けた尾藤イサオの歌声。その軽薄さがたまらなく愛おしく、1980年代に送った青春の日々を思い出させてくれるのである。
■ シー・ユー・アゲイン・雰囲気 / 尾藤イサオ
■ 作詞:タリモ(森田芳光)
■ 作曲:浜田金吾
■ 編曲:塩村宰
■ 発売日:1981年9月1日
※注1)森田監督は、自主映画『ライブイン茅ヶ崎』(1979年)で、ぴあフィルムフェスティバル(PFF)入選を果たし注目される存在だった
※注2)トルコ嬢とはソープランドで働く風俗嬢のこと。秋吉久美子が演じることが大きな話題となった
2017.02.21