9月18日

マッドチェスターの源流? ロンドン発のニューウェーヴ、パッションズ

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パッションズのセカンドアルバム「サーティ・サウザンド・フィート・オーヴァー・チャイナ」がリリースされた日
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ザ・パッションズというバンドを皆さんはご存知だろうか。1978年から1983年にかけてイギリスで活動したニューウェーヴバンドである。彼らの楽曲を一度でも耳にしたことがあるという方は、おそらく一部のニューウェーヴマニアを除いてそうそういないのではないだろうか…?

私自身、今までこのバンドについて誰かと語り合ったことも無いし、コアなニューウェーヴ専門誌においてさえ、このバンド名をお目にかかったことが無い(きっとそこまで重要視されていないからなのだろうか… 残念)。そもそも彼らは、本国イギリスですら “一発屋” として認識されているバンドなのである。

これは平成生まれの自称ニューウェーヴ伝道師として非常に勿体ない話、このままでは彼らが永久に音楽史の墓場に葬り去られてしまう…!ということで今回ご紹介させていただく運びなのであります。そんなに知られてないなら大して聴く必要もないんでしょ… と思われるかもしれないが、ちょっとそこはグッと堪えていただいて、まずは彼らの唯一のヒット曲「アイム・イン・ラヴ・ウィズ・ア・ジャーマン・フィルム・スター」(1981年2月22日付全英チャート最高位25位)を聴いてほしい。

執拗にリヴァーヴを多用したギターのイントロが、なんともしんみり来るメランコリックな美しさを醸し出しており、続く透明感ある女性ヴォーカルで皆さん一気に引き込まれること間違いない。

そんな独特の世界観をもったこの曲は、後世のアーティストたちに何気に影響を与えており、フー・ファイターズや、またサム・テイラー・ウッドがペット・ショップ・ボーイズのプロデュースでカヴァーしている。特に後者のほうはペットショップ流エレクトロポップに大変身を遂げつつも、原曲のもの哀しさを大事に残していて秀逸なカヴァー。ペットショップの「ウエスト・エンド・ガールズ」や「レント」あたりの曲がお好きな方は特に気に入りそうなアレンジがなされている。

パッションズのサウンドにはポストパンクの流れを汲んだマッドチェスターと呼ばれる、80年代後半~90年代の英国マンチェスター産インディロックに繋がる音楽性が一貫して見受けられる。これは、当時流行したハウスのリズムからも影響を受けているという意外な事実もあるムーヴメントだったりする。

ところが、彼らの出身地はマンチェスターとは程遠い、ロンドン西部のシェパーズ・ブッシュという住宅街。ここでパンクバンドをやっていたヴォーカルのバーバラ・ゴーガンという女性を中心に1978年に結成された。

そこに、ジョー・ストラマーがザ・クラッシュを結成する以前に活動していたパブロックバンド、ザ・ワンオーワナーズ(The 101’ers)のギタリストだったクライヴ・ティンパリーが加入。彼はパッションズのファーストアルバム『マイケル・アンド・ミランダ』(1980)と、セカンドアルバム『サーティ・サウザンドフィート・オーヴァー・チャイナ』(1981)の2作のみで脱退しているが、この2作はどちらも彼のエコーを効かせた繊細なギターがバンドの顔といえる。

1作目ではポストパンクらしい衝動性を引きずりつつ、2作目では打って変わって性急さを抑えた内省的なサウンドでヒットに繋がった訳なのだが、どちらもワンオーワナーズで鳴らしていたギターとは全く違う音なのだからかなり順応性の高いギタリストだ。

ちなみにファーストアルバムはザ・キュアーが所属していたことでも知られるフィクション・レコードからリリースされており、バンドはこの頃ザ・キュアーのツアーサポートも行っている。同時期に BBCラジオ『ジョン・ピール・セッション』にも出演していたというから、当時は新人バンドの有望株としてプッシュされていたのかもしれない。

続くサードアルバム『サンクチュアリ』(1982)からギターはティンパリーに代わってケヴィン・アームストロングが加入している。この男がまた、なかなかの職人ギタリストで、パッションズ解散後も目立った頑張りを見せており、デヴィッド・ボウイやイギー・ポップ、モリッシーといった錚々たる顔ぶれとレコーディングや作曲で絡んでいるようだ。特に90年代のモリッシーの音楽からはパッションズと通じるものがあるな、と個人的に感じていたので、これは妙に納得。

中でもボウイからは結構気に入られていたようで、1985年の『ライヴエイド』でのボウイのステージでもプレイ、1989年からはティン・マシーンの正式メンバーとして迎えられるという見事な出世ぶりである。

そんな逸材ギタリストを獲得しながらも『サンクチュアリ』はヒットに繋げられず、本作を最後にバンドはあっけなく解散してしまう。とはいえ、前作のメランコリックさを踏襲しながら、チャートを意識したポップな音作りがなされている感もある本作も、十分に隠れた名作と呼べるだけの出来栄えだ。

しかし何といっても、まず聴いてほしいのは代表作の「サーティ・サウザンド・フィート・オーヴァー・チャイナ」だ。「アイム・イン・ラヴ・ウィズ・ア・ジャーマン・フィルム・スター」以外にもスルメ的にじわじわ来るメロウな曲もあれば、アップビートな、それこそマッドチェスター・サウンドなものまであるのだが、とにかくこのバンドの特徴は “郷愁を誘う美メロ” なのである。

そこには、ザ・スミスなどに特徴的だった抑鬱っぷりと繊細なギターリフという、バッチリ中二病らしい美しい矛盾を孕んでいるのだ。また、サイケデリックでありながら透き通ったバーバラ・ゴーガンのヴォーカルはコクトー・ツインズや、もしくはゴス感を削ぎ落してちょっと可愛くなったスージー・アンド・ザ・バンシーズとも言えるかもしれない(笑)。しかし、それらのどのバンドとも違う独特のメランコリーは、やはりギターサウンドのエフェクトがなせる業だ。

ちなみに、このアルバムでの個人的お気に入りソングはラストの「スキン・ディープ」なのだが、そのイントロ、ダンサブルなビートの感じから、とにかく ESG の「ムーディ」を彷彿とさせるのである。

ESG は、ニューヨークのノー・ウェイヴのレーベル、99レコード からデビューの後、マンチェスターのファクトリーレコードから注目され、ファンクの影響を残したポストパンク / ニューウェーヴバンドとして活動。その一方で、ニューヨークのパラダイス・ガレージやウェアハウスでもプレイし、ディスコ、ハウスやテクノ、ひいてはヒップホップにまで影響を与えたという、とんでもなく縦横無尽なガールズバンドである。

つまりパッションズのやっていたロックの枠組みとはまるで違うアプローチで成功したニューウェーヴバンドなのだが、この2曲が発表されたのはどちらも1981年。「スキン・ディープ」には「ムーディ」にあるようなトライバル感はどこにもない。ないのだが、「スキン・ディープ」をちょっと黒くしてアフロビートを乗せれば、むしろ「ムーディ」よりもフロア映えするのではないか…、くらいの勢いで似ているのである(笑)。

だからもしパッションズがポストパンクに留まることなく、ジャンルの垣根を越えて貪欲なアプローチを展開していたとすれば、彼らの名前は今よりもっと語り継がれていたのではないだろうか…。とまあ、そんな何とも言えない妄想も膨らんでしまう一曲なのだ。

結局、音楽史に名を残すには何でも新しいことをやったもの勝ち、みたいなところはあるだろう。そういう意味でパッションズはちょっと惜しかったような気もするが、そもそもマッドチェスター・ムーヴメントが起こるより前に、そんなサウンドをやっていたところはもっと評価されて良いと思うし、何より音楽性の美しさには強烈に印象的なものがある。この機会にぜひ一人でも多くの方に聴いてもらいたい。

2019.10.02
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  Apple Music
 

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カタリベ
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