You telling lies thinking I can’t see!
スティーヴン・タイラーの切れ味鋭い高音が日本武道館に響き渡る。1990年9月19日、エアロスミス2年振りの武道館公演2日め、アンコール1曲めに歌ったのがザ・ビートルズの「アイム・ダウン」だった。遡ること24年前の1966年にビートルズがここ武道館で最後の曲として披露し、ポールがシャウトしたナンバーだ。
この曲をエアロスミスは1987年の前作『パーマネント・ヴァケイション』でカヴァーした。
1986年のRun-D.M.C.とスティーヴン、ジョー・ペリーの共演「ウォーク・ディス・ウェイ」の大ヒット(全米4位)で第一線に戻ってきたエアロスミスにとって翌年のこのアルバムは正に勝負作であった。
やはり ’86年のボン・ジョヴィの出世作『ワイルド・イン・ザ・ストリーツ( 原題:Slippery When Wet)』を手掛けた売れっ子プロデューサーのブルース・フェアバーンを招き、大ヒット曲「リヴィン・オン・ア・プレイヤー」をボン・ジョヴィと共作したデズモンド・チャイルド等を共作者として迎えた。
エアロスミスがグループ外の人と曲を作るのはこれが初めてだったらしい。結果このアルバムは3曲の全米トップ20ヒットを生み出した(「デュード」11位、「エンジェル」3位、「ラグ・ドール」17位)。
このアルバムに、「カム・トゥゲザー」に続くエアロスミス史上2曲めのビートルズのカヴァー「アイム・ダウン」が何故収められたのかは寡聞にして分からない。
しかし率直に言って『パーマネント・ヴァケーション』は未だエアロスミスのリハビリ途上のアルバムで、徹底したコマーシャリズムに溶け込めていない迷えるエアロスミスが垣間見られる。敬愛するビートルズのロックンロールをストレートにカヴァーしたのは、エアロスミスのささやかな抵抗だったのかもしれない。
翌1988年、実に11年振りに日本公演を行ったエアロスミスは日本武道館で、ビートルズ日本公演から22年後に「アイム・ダウン」を歌った。
翌1989年、エアロスミスはもはや迷いの無い傑作アルバム『パンプ』をリリースし、翌1990年に再び来日。一晩だけ武道館で再び「アイム・ダウン」を歌ったのである。
この日初めて生のエアロスミスを観るため武道館の2階席上方に陣取っていた僕は文字通り小躍りした。あのビートルズが歌った「アイム・ダウン」を武道館で観られるなんて!『パンプ』で完全に自信を取り戻したエアロスミスの堂々たるパフォーマンスと共に、僕は天井近い席で “昇天” した。
しかし第一線の座を不動にしたエアロスミスにとってこの曲はもはや歌う必要が無くなっていたのかもしれない。エアロスミスが「アイム・ダウン」を日本で歌ったのは、この時が目下最新且つ最後になっている。
今年2017年4月11日、スティーヴン・タイラーがソロではあるが23年振りに武道館のステージに立った。その3曲め、「生涯お気に入りのバンド」の曲としてスティーヴンがいきなり歌い出した。
You telling lies thinking I can’t see!
そう、「アイム・ダウン」を武道館で27年振りにスティーヴンが歌ったのだ!アリーナ前方にいた僕が跳び上がったのは言うまでも無い。見上げたスティーヴンは体型も高音も見事に27年前のままだった。
メドレーで「オー!ダーリン」、そして「カム・トゥゲザー」と、エアロスミスの時よりも気前良くビートルズナンバーがポンポンと飛び出したのであった。
この夜からちょうど2週間、今晩はポール・マッカートニーの2年振りの武道館公演である。前回は歌われなかった「アイム・ダウン」。ビートルズから51年振りに、そしてスティーヴン・タイラーから2週間振りに、ポールの歌声は武道館の壁を揺らせてくれるのであろうか。
2017.04.25
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