6月4日

ATG映画大当たり!森田芳光監督「家族ゲーム」1983年度キネマ旬報ベストテン第1位

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映画の半分は音楽で出来ている


「映画の半分は音楽で出来ている」―― とは、かのジョージ・ルーカスの言葉である。事実、名画と映画音楽は切っても切れない関係にある。

例えば――
『ピノキオ』と「星に願いを」
『ティファニーで朝食を』と「ムーン・リバー」
『2001年宇宙の旅』と「ツァラトゥストラはかく語りき」
『ゴッドファーザー』と「愛のテーマ」
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』と「パワー・オブ・ラヴ」
『プリティ・ウーマン』と「オー・プリティ・ウーマン」
『私をスキーに連れてって』と「恋人がサンタクロース」
―― etc

ところが―― 今回ご紹介する映画は、なんと1時間46分の劇中、主題歌(テーマ曲)はもちろん、劇伴の類いも一切かからない。そればかりか、ご丁寧にも劇中でレコードをかけるシーンが用意されるが、そこでも音楽は流れない。いや、登場人物たちには聴こえているが、観客には聴こえないのだ。そう、一切の音楽が排除された映画――。

ならば、その映画の魅力は半減したか?

違う。その年の「キネマ旬報ベスト・テン」の日本映画の1位に輝いている。紛うことなき傑作だ。そう、この映画こそ、1983年6月4日に公開された森田芳光監督の『家族ゲーム』である。主演・松田優作。日本アート・シアター・ギルド、ATG作品だった。

日本アカデミー賞で「優秀録音賞」受賞


1983年、日本映画は秀作ぞろいだった。

「カンヌ映画祭」でパルム・ドールに輝いた今村昌平監督の『楢山節考』を筆頭に、同じくカンヌを競った大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』、そして五社英雄監督の『陽暉楼』に、市川崑監督の『細雪』―― 等々。これらを抑えての『家族ゲーム』のキネ旬1位は見事だった。

加えて、同映画は「日本アカデミー賞」でも7部門にノミネートされている。優秀作品賞、優秀監督賞、優秀主演男優賞、優秀助演男優賞、優秀助演女優賞、新人俳優賞、優秀録音賞――。

え? 音楽すら流れないのに、どうして優秀録音賞にノミネートされたのかって?

―― これだ。これこそが、『家族ゲーム』を表している。「優秀録音賞」とは、その名の通り、録音技師の人たちに贈られる賞である。現場の映像を撮るのがカメラマンなら、現場の “音”(セリフや効果音)を録るのが録音技師だ。

そう、実は『家族ゲーム』は徹底的に音にこだわっている。音楽は1秒も流れないのに、音にこだわるとは、どういうことか。

ヒントはジョン・ケージの「4分33秒」にあり


偉大なる音楽家ジョン・ケージの作品に「4分33秒」なる “名曲” がある。
有名な作品なので、ご存知の方も多いだろう。その楽譜には3つの楽章と、それぞれに休止を表す「tacet(タセット)」の文字。早い話が、オーケストラの全てのパートが演奏を休み、4分33秒間、何もしない。指揮者もタクトを下ろし、何もしない。つまり “無音” を奏でる楽曲だ。

ケージはこの作品の構想にあたって、こう述べている。

「この世で自然に聞こえるもの全てが音楽である」

そう、オーケストラの楽器が鳴り響かなくても、演奏会場の内外には様々な音があふれている。鳥や虫の鳴き声、木々の揺れる音、遠くに聞こえる子供たちの歓声、場内のざわめき――。ケージは、それら全ての “音” は音楽になり得る―― そう伝えたかったのだ。

映画『家族ゲーム』も、その思想を受け継いでいるように見える。音楽は一切流れない。その代り、人間の本能を浮き彫りにする様々な “生活雑音” があふれている。卵の黄身をすする音、漬物を齧る音、シャーペンをノックする音、お茶を一気に飲み干す音、頬を平手打ちする音―― etc

もし、この映画に他の作品と同じように音楽が流れていたら、これらの生活雑音はかき消されていたか、あるいは僕らは気にも留めなかっただろう。

4度も映像化された原作は「すばる文学賞」受賞作


原作は、1981年の第5回すばる文学賞を受賞した本間洋平の小説である。これまでに4回映像化され、いずれもヒットしているのは、原作に力がある証しだろう。

映画版は、前年(82年)に放映された2時間ドラマ版(主演・鹿賀丈史 / テレビ朝日系)に続く、2回目の映像化だった。ちなみに、映画が公開された2ヶ月後に連続テレビドラマ版(主演・長渕剛 / TBS系)が始まっている。

さて、映画版―― 公開された83年、森田芳光監督は33歳で、劇場映画監督として5作目だった。同映画のヒットで、一躍その名が世間に知れ渡る。

主演は松田優作サン。この1ヶ月後に公開される映画『探偵物語』にも出演している。飄々としながら、コメディにも振れる演技スタイルは、この80年前後の時代が全盛期。個人的には、後の文芸路線よりも、こっちのライトな芝居の方が、優作サンには似合うと思う。

共演陣も素晴らしい。父親を演じる伊丹十三サンの役作りはお見事。あのガサツな父親は、素の伊丹サンの正反対のキャラである。一方、どこか浮世離れして、現実逃避の母親役に由紀さおりという絶妙な配役。こちらはキャスティングの妙である。そして、茂之役の宮川一朗太のつかみどころのない現代っ子ぶりが、この映画に唯一のリアリティをもたらしている。

タイトル「家族ゲーム」の意味とは?


物語は、落ちこぼれでいじめられっ子の中学3年の茂之(宮川一朗太)のもとに、三流大学の7年生の吉本(松田優作)が家庭教師としてやって来るところから始まる。吉本は会うなり茂之の本質を見抜き、時に暴力も厭わないスパルタ式で成績を上げる。ついでにケンカの仕方も教える。そして、茂之は念願の志望校に合格する――。

だが、同映画の肝は、そこじゃない。一見、よくある都会の核家族の話と思いきや、両親と兄弟2人から構成される一家の内心はバラバラ。それを象徴するのが、ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』を彷彿とさせる食卓のシーンだった。4人がテーブルの同じ側に座り、同じ方向を向いて食事する。予告編に使われ、同映画のアイコンにもなった。

そう、彼らは必死に “家族” を演じていた。一皮むけば、バラバラになる家族を、辛うじて維持したのが、あの食事シーンだった。だが、そんなギリギリの均衡も、茂之の合格祝いの席で決壊する。この時の松田優作演じる吉本の暴れっぷりがとにかくおかしい。同映画最大の見所だろう。



ラストは、ヘリコプターの音が不穏に響き渡る中、なぜか兄弟2人は昼間から寝ており、母親がまどろむところで終わる。父親の姿はない。

ひと言で言えば、シニカルなブラックコメディだ。先にも述べたが、全編に渡り “生活雑音” が立たせてあり、それが同映画を非・日常空間へと導いている。

黄金の6年間は、ATG確変の時代


最後に―― 同映画を語る上で、忘れてはいけないバックボーンがある。

それがATG、日本アート・シアター・ギルドである。1961年に設立され、フランスのヌーヴェルヴァーグやアメリカンニューシネマを手本に、非商業主義的な芸術作品を数多く製作・配給した映画会社である。

そんなATGの転換点が79年。当時、同社は経営が悪化し、配給できる映画館の数も減っていた。そこで、初代社長の井関種雄氏が退任し、新たに佐々木史朗氏が社長に就任。その新社長が打ち出した戦略が、従来の芸術志向の強い大物監督ではなく、大学の映研やポルノ映画出身の若手監督の積極的な起用だった。

80年代、ATGが “確変” する。新人監督たちは新しい技法で、次々と傑作を生み出していった。大森一樹監督の『ヒポクラテスたち』(80年)、大林宣彦監督の『転校生』(82年)、井筒和幸監督の『ガキ帝国』(81年)、石井聰亙監督の『逆噴射家族』(84年)、伊丹十三監督の『お葬式』(84年)、相米慎二の『台風クラブ』(85年)、そして森田芳光監督の『家族ゲーム』――。



それらは、アートとエンタメがクロスオーバーしたような作風だった。エッジを立てつつも、新人監督たちは客を喜ばせることを忘れなかった。そんなATGの確変時代と、僕が当リマインダーで常々唱える、エンタメ界がクロスオーバー化して多数の新しい才能が芽吹いた「黄金の6年間」は、かなりの部分で重なる。

東京が最も面白く、猥雑で、エキサイティングだった時代である。


2019年6月4日に掲載された記事をアップデート
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2023.06.04
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カタリベ
1967年生まれ
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