堺正章主演、と聞いてよく思い浮かべられるのは『西遊記』の孫悟空かもしれない。でも私は、小学校5年の頃見ていたドラマ『キッド』のこともよく思い出す。
ストーリーは、マチャアキ演じる熱血刑事、木戸一平を中心に展開する。警察署内の捜査一係と捜査二係の対立や、シングルファーザー木戸が育てるひとり息子イサムとの親子関係がからみあっており、とてもおもしろかった。
脇役も、船越英二、宍戸錠、前田吟、蟹江敬三、ポール牧、そして古尾谷雅人と、今思えばかなり豪華だった。
木戸は、捜査一係にいたが、あまりの強引な捜査っぷりがたたり、ライバルである捜査二係に配置換えされた。一般的に、捜査二係が扱うのは汚職、詐欺などの知能犯系。対する捜査一係は、殺人、強盗などの凶悪犯罪系。
言ってみれば刑事ドラマに出てくる刑事は、後者にいることが多いのではないか。「山さんゴリさん」以外の種類の刑事もいるのか、と知れたドラマでもあった。
木戸はとても忙しく、息子のイサムともすれ違いがち。一緒にいてもなかなか会えない毎日なので、交換日記をしている。「お父さん、あのね」という書き出しで始まるイサムの日記をまねて、私も一回やってみた。でもすぐにやめた。
私の父は家にいることが多い仕事だったので、しょっちゅう顔を合わせて話をしているから、書くことがなかったのだ。イサムとほぼ同い年だった私は「お父さんが刑事だったらいいのに」とひょうひょうとした風貌の熱血漢木戸に憧れた。
イサムは脳腫瘍に侵されており、手術後に、昔の捜査で木戸を逆恨みする犯人に誘拐されてしまう。その時は「やっぱり刑事の子どもは大変すぎる」とちょっとひるんだ。
イサム役で子役の柴田一幸君は、その後長渕剛主演の『親子ゲーム』でマリオ役をやっていた。微妙な心理の動きを見せるのに長け、陰のある役もこなせる演技派だったが、20代で亡くなったと、随分たってから聞いた。
この番組の主題歌は、マチャアキの歌う「メリーゴーラウンド」だった。めくるめくようなメロウなメロディー。マチャアキのナイーブで震えたような声が、ぐるぐるまわるメリーゴーラウンドの夢のような映像にかぶさっているエンディングが美しかった。
この歌が大好きで、ラジカセで録音して聞いていた。その後、いつもの浅草松屋レコード売り場でシングル盤を買った。
この美しい歌の作曲は寺尾聰で、自身も歌っているということは後から知った。そして、この二人の「メリーゴーラウンド」の歌詞が違うということも。
まず、マチャアキバージョンの一人称は「僕」で、寺尾バージョンは「俺」である。それだけで、男のパーソナリティー設定の差異が明確だ。
そしてマチャアキは、「かつて愛した女性に偶然再会してお茶をした。もう一度やりなおしたいが、相手にはすでにパートナーがいる。不器用な僕だけどこの愛は上等だから、いつまでも待っている」と歌っている。
一方寺尾は「珍しく、別れた後も気になっていた女に偶然再会してお茶をした。話してみたら気が済んだ。やっと俺はお前を思い出にできる」と歌っている。
一途な純情ハト派のマチャアキか、俺様目線タカ派の寺尾か… 女性だったらどちらを好きだろうか。私は、寺尾の男らしいクールなタフネスにしびれつつ、まあこの年になると、ずっと待っていてくれるマチャアキのテンダネスに落ちそうだ… と、一体何の話だ。
マチャアキのかすれたような声で歌われるこの歌を聞くと胸がキュンとして、昼下がりのカフェでもう一杯、お茶のおかわりを頼みたくなる。
ずっとまわり続けるメリーゴーラウンドに、乗っていられればいいのに。
2017.05.04
YouTube / 大和澪子
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